後継者候補
夢心地のような一日だった。
あの人の無残な姿を目の当たりにして。
怒って、アネシス達を機能停止させて。
シュクシャに連れられるがまま、絶望空間に入り…
そこにエムカさんがいた。
エムカさんが年上の人間であるとわかったので、これから先は彼女に『さん』をつける事にした。
「………」
その後は、さらに夢心地だった。
「皆さん…聞いてください。
あの人は、ボスは生きています。
ただ…ただ、疲れて眠っているだけでした。
俺の早とちりで、本当にすみませんでした。
ごめんなさい」
エムカさんたちとビルに戻った俺は、魔法の言葉を唱えた。
「ボスは生きています」
しぃんとした部屋いっぱいに響かせた声がコマンダーロボットたちの耳に入り込んで行った。
言葉が耳に、体内にあるプログラムに浸透し、焦点の合わなかった眼が元に戻って行く。
「順谷さん…ボスは、本当に生きているのですね」
「はい。生きています」
ソシエゴ以外のロボットたちも口々に確認し、それぞれに答えるとロボット達は人間のように微笑んだ。
「………」
それから皆、誰一人例外なく、スィージィーでさえ専用の車椅子に乗り、敵対するシュクシャもつれて『王の口と手』の所へ言った。
シュクシャに向けるコマンダーロボットたちの視線は鋭かったけれども、口論すら起きず『シュクシャにも入るように、ボスが命令したわ』というエムカさんの発言により、例外なく中に入った。
「王の口と手。。エムカ-1の持つ権限を使い、エムカ-1の凍結処分の命令を出します」
アネシスたちが驚きの声をあげる中、俺とシュクシャは代わらない冷静を保っていた。
『エムカ-1。あなたにはソシエゴ-1からの故障の報告は届いていませんが』
「もっと根本的なものです。私がロボットではなく、人間だからです」
コマンダーロボットたちのどよめきが、わざとらしく聞こえた。
でも、彼女たちは本当に知らない。過去にそれを知っていたとしても。
『了承。
我がウエストルム・キングダムでは、王とお客様以外の存在を認めません。
ただちに王へ報告し、あなたが持つサービスロボット担当の職務を剥奪し、また、偽造による処罰を決めます』
「………」
まるで白々しい演技のように思えた。
『ボスの応答がありません。
ボスの応答が得られるまでの間、エムカ-1の存在を凍結。エムカ-1の職務をエムカ-01およびエムカ-02にあたらせます。
ボスの応答がでるまでの間、あなたの処罰は保留し、順谷様同様、お客様としての対応をさせていただきます』
王の口と手は新しい王が誕生するまでの間、ずっと報告を続けるのだろう…。
機械は機械。
プログラムされたことを忠実に実行し、それについては疑うことのない。
「………」
王の口と手の声が消えて、空間が静寂に包まれると、エムカさんは振りかえって俺の名を呼び、前に来るように指示した。
「王の口と手。私達は王冠を狙います。次の王になるべく」
『王からの後継者募集が出ています。
よってあなた方2名を後継者候補とみなします。ただし、王の処罰の決定内容により、候補権も剥奪することがありますので、ご了承ください」
「はい」
「では、正式なる候補者登録を行いますので、名前をフルネームでお願いします」
「大累順谷です」
「了承しました。
大累順谷。あなたを候補者Aと、登録しました」
エムカさんも同じように、一歩前に進み、王の口と手を見上げた。
「矢原江矛香です」
「了承しました。
矢原江矛香。あなたを候補者Bと、登録しました」
王の口と手の声が消え、空間は威厳に満ち溢れた静寂となった。
「………」
それが3時間前のこと。
宿泊所に戻った俺は、ベッドに寝転がり、今日の出来事をDVD再生のように何度も繰り返し、時おり聞こえる声に耳を傾けた。
「…。エムカが人間だったなんて…」
ベッドのしたに体育座りをするアネシスがぼうっとしていた。
「…でも、いいのかアネシス。コマンダーロボットは、候補者の支持とかしちゃいけないんだろう」
「支持なんかしていないよ。アネシス、順谷と一緒にいたいから、ここにいるだけ」
「………」
相変わらず謎のロボットだけれども、アネシスが前と同じ光景でいることにほっとできた。




