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仮の王


 引っ張られるがままに進んでいくと、青く、淡い照明に照らされた広い空間に出た。

 円形の部屋の奥にある鉄製の扉が客を待っていてくれた。

 片開き式の扉は膝上ぐらいの高さに設置してあり、ご丁寧に台が置かれていた。

 それだったら低い所に設置すれば良いのにと、つい愚痴をこぼしたくなった。

 先を進む生物が近づくと扉は自ら開いた。

 かまどをイメージしているのか、赤い光りがその先の空間を染めている。

 宇宙生物は『扉の中に入れ』と黄緑色の手で空間を指差した。

 赤く暗い空間は、熱くはなさそうだけれども、人一人座るしかない狭いもので、空間を目にした俺は電子レンジを思い浮かべてしまった。

 一歩中へ

 腕を不快にさせていた舌が緩み引いていくと、扉はゆっくりと閉まった。

「………」

 それから数秒後、ゴトゴトと音をたて始め、狭い空間は少し揺れ始めた。

 狭い空間は赤から薄闇へと変わりそれから目の前に緑色をした四角いボタンがぽうっと光った。

 『ギブアップされる方は、押してください』とボタンの中にかかれていた。

 でも、これを目にしたのは始めてじゃなく、いたるところで目にすることができた。説明できなかったのは、色々と…脅かされ、振りまわされていたため、説明できなかっただけで。

 怖くなってどうしようもなくなった時に抜け出せる。怖さを楽しむ以上、なくてはならないものなのかもしれない。

 もちろん、そのボタンを押すことはなかった。

 ガタガタと揺れる空間は、ぴたりと止まる。

 右側の壁が引き戸のように開いて、今の揺れは移動するためのものとわかっのと同時に。

 俺は、メインルームにたどり着いた。

 広い空間は意外と明るかった。

 開発に携わったエムカさんが熱く語ってくれたっけ…。

 ドーム状の空間には7つの番号とドアがあった。

 壁に4つ、エレベーターと思われる柱に3つ。

 説明によると、このうち1つだけが出口になっていて、ランダムに決定されると言う。

「…れ?」

 辺りが暗くなったことに気づいた。

 僅かな差だけれども、確実に光りが薄れている。

 どうやら、今、明るいのはドアがどこにあるのか教えるだけで、真の怖さを発揮するのは、これから先のことになるらしい。

 とはいえ、敵に連れてこられた身なので出口を探すのではなく、俺はシュクシャの主人を捜した。

「………」

 いない

 闇が濃くなってゆく中、いくら目をこらしても俺以外の存在を見つけ出せない。

「…待つ以外に選択の余地はないよな」

 見づらくなって行く空間を見渡し、とりあえず近くの壁に背をつけた。

「……………………」

 それからしゃがんだ。

 近くにあるエレベーターがどんどん闇に飲まれて行く様を、ただじっと見つめていると、空白になった頭は、話しかけるように記憶をよみがえらせた。

 起こしてしまった罪の重さと、その末路を。

 末路

 このままアネシスたちが元に戻らなかったらどうなるんだろうと、頭は望んでいないのに推測し、その結果を映像化させた。

 廃墟を

 すべてが止まり、すべてが止まってしまった王国

 アトラクションは停止し、乗り物に、制御室に動かなくなってしまったロボット達が横変わっている。

 飲食店で折り重なって倒れているロボットたち。

 売店で商品を散らばして、その上に動かない人型機械が

 それから、すべての路上にその身を置く残骸が

「………」

 俺は残酷な、でもありえる冷酷な映像を消し

 前方から来るわずかな風に気づいた。

 空間は一寸の先も見えない闇と化し、目では何一つ捕らえることができないけれども。

 目の前にある人の気配は、はっきりと感じ取れる…。

「あなたがシュクシャの主人ですね」

 見えるはずもいのに顔を上げて、闇を見つめた。

「…………」

 相手は、何も言わなかった。

「……」

 俺は背にしていた壁を手で突き飛ばし、その反動を利用として右斜め前に避けた。

 危機を感じ取った体がいつの間にか動いていた。

 それが正しい行動だとわかったのは、鋭い一風が左側から感じ取ることができた。

 感じ取り、行動が遅かった俺の腕に触れる。

「うわぁ」

 痛みが走り、わずかな声をあげるや否や、それを聞きつけた相手の第二撃と思われる、新たな風が現れた。

 人の起こした微かな風は、移動したばかりの俺の前に現れたのと。

 頭上からの2つ。

「わぁぁっ」

 危険を声にする以外になく、左右に避けるにも体が動かない。

 俺の体は後方に下がり、尻餅をついた。

 それで逃れるられないのはわかっていた。

 わかっていたから、体はあおむけに倒れていった。

 この行動が無意味なのは倒れながらもわかっていた、だけれども体が言う事をきかない。

 振り下ろした敵の鋭い武器は、そのまま胸上まで進んだ。

 進んで…止まった。

 逃れることのできない俺は胸の激痛を待つしかなかった。

「……」

 しかし、10秒、30秒、1分…胸上から嫌な気配がするものの、それ以上近づくことはなく。

 長い、永い時の中、ただ待つしかなかった。

 相手の視線が俺に向いている。

 その目に殺意に近いものがあった。

 … … …

 さらなる時が過ぎ去った後。

「認めない」

 短い声が闇の中から響き、刃が離れて行く気配がした。

 それから足音も。

「………」

 危険が逃れた俺は、とにかく起きあがった。

 ふらつく体を何とか立ちあがらせて、それから声を放った。

「待ってください、エムカ」

「……」

 その声は聞き間違えることのできない声。

「…。シュクシャ、明かりをつけて」

 返答することなく、部下ロボットに命令をくだし。

 その姿を現した。

「マスター。点検用の照明に切り替えました」

 シュクシャが姿を現さず、声を放った。

「エムカ…」

 サングラスらしき眼鏡を外すエムカさんの表情はなく人形のように思えた。

「あなたは、ロボットなのに…なぜ?

 だって、ロボットは命令を出すことができないって…」

「………」

 エムカは一度、俺を見つめてから口を開いた。

「私は人間です。

 あの子達には私もロボットと認識させれば、疑うことありません」

 人間という言葉に俺は王国に着た時を思い出した。

 差し伸べられる手を握ったとき、温かくて『人間のようだな』と思った。

 しかし本当に人だとは疑いもしなかった。

「だけれども、今のは?暗室の中で自由に動けたし。それに、携帯は手に埋め込まれていたじゃないですか」

「目は暗視用の眼鏡。携帯は…」

 エムカは手の皮膚を剥がした…いや、肌と同じ色をしたゴムのような布に一台の携帯電話が組み込まれているのを俺の前に差し出した。

 高性能っぽく見せれば、人間だってロボットにみえると、言い表してもいた。

「…。エムカ。あなたがボスの代わりとして命令を出していたんですね」

「はい。

 ボスの死は突然でした。

 王冠のシステム解除、改善をすることもできず。もちろん、王冠の場所も知らないまま。

 もし。私が『ボスの命令』としてロボットたちに指示を出していなければ、我がウエストルム・キングダムは道連れになっていたことでしょう。

 順谷さん、これは罪でしょうか」

「…いえ。やむ得ない事だと思います。

 でも、なぜ、ロボットに成りすましててんですか。

 初めて会った時、事情を説明してくれても良かったんじゃないですか」

「この王国にはボスとお客様以外の人間は認められません。(順谷は特別な客様となっている…)

 これもすべてのロボットに組み込まれてできたプログラムがそうなっているからです」

「王の命令だといえば変えられることはできないんですか」

「できません。王の命令で指示できる範囲は限られています。大きなプログラムの改善ともなれば、王自らでなければ、ロボットは実行してくれないのです」

 説明が終わり静寂に包まれた。

 目の前にいるエムカは、表情のない人形のようで、右手には武器、小型のナイフが握られている。

「なぜ、ナイフを俺に向けたんですか?なぜ?アネシスたちをあんな風にしたのですか…いやあんな風にしたのは俺ですね。でも、エムカさんは、わかっていたはずじゃないですか?

 …こんな風に言うと、責任逃れしているようですが、俺は、自分の愚かさを認めた上で聞きたいんです。

 もし、何か教えてくれれば、直接じゃなくても、借りた携帯電話からでも教えてくれれば、アネシス達は、あんな風にならなくて済んだはずです」

「あの子たちは元に戻ります」

 表情はなくエムカさんは淡々と言った。

「あの子達はロボットです。プログラムが成りたたなくなれば動けなくなる繊細な心をもっていますが。そのプログラムを『成り立つ』ようにすれば、いつでも元に戻ります。

 順谷さんが『今のは嘘だ』と、一言唱えるだけでいいのです。彼女たちは繊細ながらも単純な心なのです」

 『単純』という言葉に心がちくりと痛んだ。

「それに彼女らは、すべてを忘れる事ができます。私が人間で、この王国にきたことも、過去の記憶にあったとしても、削除した今は何一つ覚えていません」

「…。でも、傷つけたことには変わりないじゃないですか。俺も、エムカさんも、元に戻るとしても、繊細な心を踏みにじったことに変わりありません」

「………」

 エムカは目を大きく開き、それに気づいてくれた。

「…そうですね。そうでした」

 人形から人に戻ったその表情は、困惑を見せ、床に視線を落とした。

 この人は機械に囲まれた生活をしていた。

 感情を持つロボットがいても、やはり機械は機械。

 もし、俺がここに来なかったら、この人はロボットのような人間になっていただろう。

「………」

 エムカが視線を落としている間、長い沈黙が続いていた。

「順谷さん」

 視線を上げたエムカは再び人形のような、いや、ロボットのように思えた。

 感情はなく忠実に動く機械のように、エムカさんはナイフを俺に向けた。

「順谷さん。あなたのことは、ボスから直接聞きました。

 ですが、未だにあなたの事を理解し、受け入れることはできません」

「…当然の事だと思います。人間はロボットと違い、簡単に理解できませんよ」

 予想できる言葉だったけれども、俺は言葉を選んでゆっくりと吐き出した。

「あなたがボスのクローンであっても、あなたをボスだとは認めません」

「ええ。当然です。俺は、俺です。あの人でありませんから」

「あなたがボスではない以上、私は王座を狙います。

 王冠を見つけ出し、私は、この国の王になります」

 ナイフを向けて敵意を見せたエムカさんの目は、人間のものになっていた。

 ロボットが持たない『野心」のある目に。

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