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連行

 シュクシャに利き手首を掴まれ、エレベーターを下りた。

 ロボットたちが動かなくなった中、エレベーターは普通に動いていた。電気だけで動くからだろうか…

 建物を出ると、容赦ない日差しが俺に振り注ぐ。

 シュクシャが進む道に木や建物の陰はなく、俺を捕虜だと無言で言っているように思えてならない。

 体が熱気に包まれる中、シュクシャに掴まれた手首だけは別世界だった。

 冷たい手は、変わってしまった、あまりにも早い出来事についていけずぼんやりと夢心地に感じてしまう俺を現実に戻させた。

 もう、あの人は生きていなくて、ロボットたちは動けなくなってしまった。

 そして、抵抗する術のない俺は、敵に連れられて行く。


 シュクシャの足はビルを出て、宿泊施設を通りすぎて、にぎやかな遊園施設に出た。

 そう、にぎやかだった。

 絶叫マシーンから楽しい悲鳴が響き。子供たちが走り回る。

 様々なアトラクションは、そんなお客様のためにフル稼働し、その横でお掃除ロボットがてきぱきと…

「動いている…」

 掃除だけじゃない。アトラクションを稼動させるロボットに、今、おれたちの横を通り過ぎた巡回警備ロボット…。

 何事もないように、営業は続いていた。

「フリーズしたコマンダーロボットと直結していないからさ」

 僅かにこぼした言葉から推測したらしく、シュクシャはさらりと答えた。

「でも、何事もないのは今のうちさ。

 製造番号の桁が大きくなるにつれて、ロボットの行動能力は単純なものになっていく。自分の役割範囲を超えた事態になった時、桁の少ないロボット、100桁ならば10桁のロボットに回答を求める。事が複雑になればなるほど桁は少ないロボットに回答を求め、最後がコマンダーだ。

 物事が平和なうち、それと…」

 シュクシャは言葉を切り、にやっと笑った。

「まだ、何かあるのか」

「閉園時間だよ。この王国の門をしめるのも、営業活動と夜間活動するロボットの入れ替え。それら全ての指示、宣言しなければならない。コマンダーロボットたちがね。

 閉園時間を過ぎてもコマンダーロボットから指示がなければどうなる?当然、回答を求めてくるだろうよ。だけれどもコマンダーは動けない。となると」

 その状況を目にしたかのようにシュクシャが笑った。



「マスターはここで待っている」

 そう言って足を止めたのは、1つのアトラクションだった。

「………」

 点検中と看板がかけられて俺以外の人間はいなかった。

 しかし、

「ここでか?」

 と問い返したくなる所だった。

 小さなスーパーぐらいはある半円ドーム型の室内アトラクションで黒色に塗りつぶされ宇宙の星々を現わす点や惑星のような鮮明なイラストがあって一見、プラネタリウムにみえるけども、イラストはどれも赤色をしていた。

 それから、入り口の上にかかれた文字はおどろおどろしく

 『絶望空間』と書かれていた。

「………」

 『絶望空間』

 俺はエムカとの会話を思い出した。

 あまりにも恐すぎて、年齢制限と本当に体調の良い人じゃないと入れないようになってしまったアトラクション。

『絶望空間の恐怖はメインにありますからね。メインはブラックホール空間と呼ばれ。一組、人団体ずつ入れるんです。薄明りしかない空間の中でランダムに決定される出口を自力で捜さなければならないんです。もちろん『脅かし』もランダムに発生しますから』

「………」

 そんな所でシュクシャの主人が待っている…。

「怖いのかい、坊や?」

 にやっと笑うシュクシャにムッとしたものの何も言えず、前方にいるシュクシャに連れられるがまま、歩き出すしかなかった。

『ボスから受け給っております』

 出入り口に看板を持っているロボットが、俺達を通してくれた。

 看板を持っているロボットは『ボス』と言ったが、間違いなくシュクシャの主人がボスとして命令したものだろう。

「はい」

 ロボットが持つ看板には『注意』という文字と共に、その下にスクロール文字が流れていた。

『この先のアトラクションは、脅かすためにつくれらたものであり、プラネタリウムではありません。

 また、次の方は決して入らないでください。


 18歳未満の方。

 心臓や胃に負担のある方、もしくは、負担をかけたくない方。

 妊娠されている方。

 その他、こういうものに弱い方。


 ロボットが入り口でチェックし、該当されそうな方に声をかけています。

 お客様の配慮を考えたうえでのことなので、なにとぞご協力をお願いします』

「………」

 注意を呼びかけるための重要な事なんだろうけれども、俺には怖さをあおりたてているようにしか思えなかった。


 第一歩めから、暗室に包まれていた。

 直射日光に干された体にとって、ひんやりとした空気は心地よかった。

 これで乗り物に運ばれてくれるのならば嬉しいのだけれども…世の中そんなに甘くはなかった。

「十分、怖がることね」

 シュクシャの場合『怖い』という感情をプログラムされていないが『他人が怖がっているのを知る』プログラムはあるらしい。

 とはいえ、捕われの身なのでシュクシャの手が離れることはなく、先を誘導してくれるようだ。

 土のような柔らかめの床を踏み締めて、闇の中では役にたたない目で辺りを見回した。

 もちろん、何も見えない。

 膝の高さに設置された進む方向を示す程度の明かりが一定感覚にあるのと。

 前方にぽうっと光、通路の出口らしき弱々しい明かりだけだった。

 2、3人が並んで入れる通路は長く、あの先まで何かが起きると言い表してもいた…。

「………」

 『何か出る』とわかっていながら歩くものほど嫌なものはない…。

「………………」

 …後ろから。

 ひたひたひたひたと微かに聞こえてきたんですけれど…

 これが、そうなのか…

「………」

 嫌だけれども、振り向かなければ…

 肩に手をやって、にやりと笑ったり、はたまた寸前まで近づいて突然笑い声をわあげたりするかもしれない…

 という結論に達した俺は、背後の光景わ目の当りにした。

「……」

 誰もいない…

「何だ…」

 安心して降り戻ったその時

「ひ…」

 く、く首に、うなじに生暖かい風がふわぁ~っと。

「ははははっ。さっそく、ひっかかたわね」

 シュクシャは陽気に笑ってくれたよ…。

「上から送風機が下りてきていると言うのに、気づかないで、わざわざ驚くとはね」

「………」

 シュクシャの目には暗視カメラがついているようだ。

「あれだけで、あんなに驚くなんて相当の怖がるなんだね、君は」

 小馬鹿にするシュクシャに反論したかった…けれども。もう、新たな脅かしロボットが起動していた。

 遠くで、何かがぽうっと光って、消えた。

 『この先にもまだ、あるのか…』と思っていたら、黄色い光りは、また光って消えた。

 今度はだいぶ近くで、下から上に。

 「……」

 さらに近づいた光りは上から右下へ。

 右から左へ消えていった物体は細長くて、口をぱっくり開けた巨大な口だった。

 上半身ぐらい大きな口だけの物体は暗闇でも見えるように、光っていて

 それが向きを正面に変えたから。

 つまり…俺達のほうへ襲いかかってきた。

「わっわっわっわっ」

 予想もしなかった突然のことに、座り込み。

 それから、ふわりと浮き上がった。

「まったく」

 シュクシャは片手で楽々と俺を持ち上げ、自分は巨大口の餌食…ではなく、彼女のボディに光る巨大口が通り過ぎていった。

「立体映像…」

「まったく、右から左に通り過ぎるだけの映像だというのにさ。人間はそこまで驚けるものなのか?」

「人間は、驚いたり、怖がったりして楽しむものなんだよ…」

 反論したものの、その言葉にむなしさを感じずにはいられなかった。

 シュクシャにげらげら笑われる中での情けない自分の行動。自尊心がボロボロだよ。

「……」

 シュクシャは鼻で笑うかと思いきや、表情を消し、動きを止めた。

「怖がることも楽しむ…

 楽しめる

 楽しむのは、人間の特権というものだな。ロボットは自分にために楽しむこという言葉はない。主人を『楽しませて』それを見て、自分の存在、幸福というものを感じ取る。

 私には、わからない。

 人間はどうして、こんな『負』の感情を増発させるものわつくるのか」

 見上げているシュクシャの表情は困惑しているように見えた。

 まあ、確かに。ロボットはプラスマイナス感情がはっきりと分けられていて負を作らないようなプログラム構造になっているのだろう。

 まあ、俺も、ここは理解できないけれども。


 ここのアトラクションがテレビに出ていたのを見たことがある。

 その時の記憶は、かなり薄れて大まかなことしか覚えていないけれども、この脅かしアトラクションは、新しいお化け屋敷になっているらしい。

 まずは、すべてコンピューターで作動されていること。

 あと、お化けが死者系ではなく、宇宙からやってきた生物。異星人であること。

 …確かに。さっき目の前を通り過ぎた巨大口も、牙がギザギザしていたような気がする。

 驚くことに専念していたから、正確に覚えていないけれども…

「………」

 そして今、人一人がようやく進める狭い通路も。

 イソギンチャクの先っぽみたいなピンク色をした無数の物体が指や腕、全身に触れる旅にわさわさと自ら動きだし、無数のむしや生物がうごめいているようで気味の悪い感触を味わっていた…

 これも、未知なる星の未知なる洞窟を通っているような感じがする。

「はぁ~」

 ふよふよするピンク色の視界から再び薄闇に戻った時、安堵のため息をついたものの『人間の特権感情』を持たないシュクシャはスタスタと歩き続ける。

 手首を掴まれたままの俺も、後方を振り替える暇もなく、歩くしかなかった。

「……」

 歩き出したはずなのに…おかしい。

 ピンク色の通路からも完全に抜け出たはずなのに、シュクシャに捕まれていない方の腕は、さっきの感触から抜けきれていない。

「………」

 振りかえって見るんじゃなかった。

 ピンク色の細長い物体が、蔓のように巻きついているのだから…。

「………」

 とにかく、外さなければ…しかし、蔓のような舌は、がっしりと力が入っていて。

 しかも…無数にある、そのとっきぷつはざわざわと、一本一本生きている虫のように腕の上で動いているのだ。

 その感触以上に気味の悪い不快感が腕から力をそぎ取る。

「………」

 さらに。

 その伸ばした舌の根元、本体が(淡く発光してくれているので見える)変な生物が付いていた。

 黄緑肌をした。縦長の直方体に目を一つに手と足たある。

 それを見て恐怖におびえることはないけれども、こんなのが後ろをついているのは、不気味でしかない…。

 さらにさらに悪夢は続く。

「見るんじゃなかった…」

 振りかえった事を後悔するほど、背後の光景は悪くなっていた。

 その生物が近づいてきているんですけれども…

 歩幅が大きすぎて、俺が2歩進むと生物は3歩分進んでいる。

 一歩、一歩、確実に進んで…は、背後に…

「……」

 俺は『怖い』感情のないシュクシャに助けを求めようかと考えたが…男のプライドをなんとか保った。

 それが『正解』だったと知ったのは、それから数秒後だった。

「れ?」

 間近にいた生物は、俺の前に出たから。

 前に出て、どんどんと俺との間を広げて行った。

 …

 襲いかかったりするのではなく、俺の前に進むだけだったらしい。

 …しかし

 生物が前に進む以上、腕を捕まれている俺も早く進むしかなかった。

「シュクシャ、これは一体なんなんだ」

 俺は助けを求めず、質問した。

「知らない。だが、この生物が連れて行く先はメインルームとなる」

 そう言うと、シュクシャはつかんでいた手首を離した。

「私はメインルーム前で待機命令が出ているから、ここまでだ」

 え、ここから先は、これが誘導?

「メインルームでは、我が主人がお待ちになられている。いいか、くれぐれも失礼のないように」

「失礼って、シュクシャらがやった事はどうなんだよ」

 反論したものの、謎の宇宙生物に連れられて行く俺では格好がつかず、言われた方も優越感があるせいか、冷笑するだけであった。


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