プログラム
あの人に会えば、何かわかる。全てが変わると思い込んでいたのに。
あの人は無情だった。
目の前の現実を理解するまで長い時間を必要とした。
それを飲み込んだ時、俺は一つの疑問に気づいた。
ロボット達の存在を。
「そうだよ…どうして?」
ロボットたちは、あの人の情報を口にしなかった。
誰も、俺に教えてくれなかった。
だから俺もあの人の存在は疑わなかった。
「どういう事だよ、これはっ」
エレベーターロボットにコマンダー達の部屋聞き、たどり着いた俺はそう口を開いた。
あの人の仕事部屋に会った水槽スクリーンと同じ一にモニターがあって、一つの寝椅子に一体、その周りに他のロボットたちが立っていたけれども、皆、きょとんと俺の顔をみつめていた。
「真似って…順谷君。俺達には何がなんだか、さっぱりわからない」
「ふざけるなっ」
バッテレインのとぼけた声によりさらに怒りの火がつき、近くの壁を思いっきり叩き付けた。
「お前らは、あの人が死んでいると知っておきながら、くだらねぇ演技をして、俺をだましたんじゃねぇか」
「…。順谷様。私たちには、何のことだか、さっぱりわかりません」
寝椅子の向きを変えて、始めてみるロボットは、さらりと静かに言った。
「変ですよ、順谷さん。だって今、ボスに会ってきたじゃありませんか」
「ああ、会ってきたよ。映像とな」
「映像?ボスはボスだよ」
ソシエゴも無邪気に返答するアネシスにも、目を反らすことなく、まっすぐに見つめ返した。
「な、何を言っているんだよ、あの人は」
「順谷さん。最近、ボスは眠りっぱなしなんですよ」
苦笑してエムカが言った。
「………」
俺がロボットたちの『奇妙』に気になった時…
「あはははははははっ」
静まり返ろうとした空間に水をさしたのは、その笑い声と侵入者だった。
「まだ、わからないのかい、坊や。ここにいする高性能なロボットたちは『死』を理解することができないんだよ」
「ちょっと、どこから入ってきたわけ?」
「教えるわけないわよ。そこを塞がれたら、また入り口さがさなければならないんだから」
ふんと鼻を鳴らしてから、シュクシャは俺に向いた。
「大累順谷。ここにいるロボットたちには『野心』の他に『王の死』もしくは『王の死後』がプログラムされていないのよ。
最高責任者がいなくなった時の行動を入力されていない。ゆえに、あれを見ても眠っていると判断する」
「不法侵入者。ただちに退室しろ」
「ここのロボットは、あれが死んでいると認めたくないのよ」
「やめろ。やめろぉぉ」
バッテレインの叫び声が、部屋いっぱいに響き渡った。
まるで彼の声に力があるかのように。
窓ガラスが割れてしまうのではないかと思うほど、彼の声凄まじいものだった。
獣の咆哮のようで…それが悲鳴だとわおった時
「………」
すべて遅かった。
… … … …
声が消えた時、辺りは無音に包まれていた。
誰一人、声を出すものはおらず。
誰一人、動き出す者もいなかった。
「…みんな?」
ロボットたちは石のようになってしまった。
まるで、彼らだけ時が止まってしまったかのように。
いや、違う。彼らは
「あっはっはっは。皆、あんたのせいで機能停止しちゃったのよ」
結い一、動きだしたのは、シュクシャであった。
「あんたとあたしが禁句という魔法を唱えたから。皆、石になっちゃったのよ」
「禁句だと…」
そう。ロボットは与えられたプログラムにだけに従う。そのプログラムがなければ動けない、ただの鉄屑なのさ。
ウエストルム・キングダムのロボットが持つプログラムの中で一番重要なプログラムは『ボスの指示だけに従うこと』まあ客を大切にするっていうのもあるけれども、ボスが一番重要。
で、その大切なプログラムが成り立たなくなったらどうなると思う?エラーを起こしてフリーズしてしまうのさ。
ボスが死んだと認識するのは、そのプログラムが削除されたのと同じ事になるんだよ」
「………」
あざけ笑いながら説明するシュクシャの言葉に、俺は置かしてしまった罪の深さを知った。
彼女らが、あの人の死を隠していたと知った時、裏切られたとしか思えなかった。
慕っていながら、ないがしろにされた気がして。ただ怒りだけがこみあげていた。
だけど、それは裏切りではなく、自分たちが存在する理由を守るための事。
問い質しても否定するのは、最後の抵抗を試みる彼女達の悲鳴でしかなかったのだ。
「………」
ボスの存在に左右されているのは俺だけではなかった。
彼女たちはボスの存在なしには生きていけない。
万能の力を持ちながらも、精神はガラス一枚でできているというのに。
俺は、それを割ってしまった。
「………」
俺は動けなくなってしまった一体、ソシエゴの髪を撫で、その姿を情けない顔で見つめた。
人と同じ漢書をしていて、熱を帯びないソシエゴは人形のように表情を消し、ただまっすぐ見続けていた。
彼の目に俺が映っていてもそめを知ることはない。
「はははは…」
むなしい笑い声が響いて消えた時、シュクシャの声が再び響いた。
「で、気づかない?」
「何が…」
「ここのボスは死んだっていうのに、ねどうして、ボスの命令がくるんだい?」
… …
「ロボットたちの動きの事で気づけなかったけれども…そうだ。
「ここのロボットたちは自分のプログラム維持のためボスが生きていると思い込んでいたけれども、あれが新しい命令なんて言えるわけがない」
「じゃあ…誰かが命令をているって事か…でも誰が」
「あはは、はははっ」
無音に閉ざされた空間いっぱいにシュクシャの笑い声が響いた。
「まだ、わからないのかい?ロボットに命令を出せるのは人間だ。坊や以外に存在する人間は客と我が主人のみ」
「何だと…」
勝ち誇った顔をするシュクシャの顔を呆然と見つめることしかできなかった。
「シュクシャの主人が…」
「そうさ。マスターがボスの命令を出しているのさ。ここのロボットは音声だけではなくキーボードで入力した言葉を受け入れることが出来る。女であろうと命令なんて簡単にできる」
「…………」
「さあと、助けてくれるロボット達がフリーズしたところで、来てもらおうか。我が主人のところへ」
呆然と立ち尽くす俺に選択の余地はなかった。




