ロボットの遊園地
現代世界において、ロボットしかいない王国が存在した。
僕の住んでいる遊園地『ウエストルム・キングダム』
お客様と、この施設を取り締まるただ一人の人間を除いて、そこで働くすべての者は人間に作られし機械たちだけ。もちろん、僕も。
申し遅れました、僕はソシエゴ。衛生業務を管理しています。
それと…
「すぴ~」
隣で寝ている(正しくは充電)ロボットとは思えないセキュリティを担当するアネシスの弟でもあります。
「ピピッ。ピピッ」
充電終了を合図する電子音を止めて、ソシエゴはいつもの通り、姉ロボットを起こす作業にとりかかる。
いつものようにソシエゴは、2つのベッドしかない殺風景な部屋を見渡した。
何も置かれていない部屋には、無数のケーブルが二つのベッドに向けて円を作るように配置されている。
ベッドは膝ほど高く、それを支える柱には蔓のように絡みつくケーブルがベッドの中にまで繋げられていた。
ベッドとはいったが、ロボットが使用するベッドは四方八方をガラスの板で覆った棺桶のようなものであった。
24時間、充電中であれ部下ロボットの指揮がとれるように
「姉さーん」
ガラスで作られた棺桶のようなベッドの蓋を開けて、幸せそうに眠るソシエゴの姉、アネシスを見つめ、ふうとため息をついた。
「充電、終わりましたよ。朝です」
「ZZZz」
二人は、職種を左右するプログラムと、姉弟を判断できるおおまかな外部と制服以外、すべて同じ部品、プログラムで出来ているのだが…
ソシエゴは、本当に姉がロボットなのか疑ってしまう。ロボットならば、電子音、ましてや弟の面倒をかけなけなくても自動で目覚めるはずなのに…。
清潔感のある白いシャツとズボンの上に水色のフード付きマントを羽織り、長く黒い髪を一つの三つ編みにした衛生担当のソシエゴに対し、セキュリティー担当はまったくの正反対な姿をしていた。
アネシスの制服は、店やビルで良く見かける警備員の制服と同じだが、その色は赤く。髪も金色で二つに分けて頭上高く結び三つ編みにしていた。
「起きてください、また、遅れますよっ」
語尾を強めて、揺り起こすものの、まったく反応する気配すら…
「いけない、今日は待ちに待った日だったんだっけ」
何かを思い出したアネシスは元気に飛び起きて、充電装置から飛び降りた。
「そっしぃ。早く、早く」
弟の存在を忘れたわけではないが、その苦労を知らず、アネシスは自動扉を開けながら弟をせかした。
起こす苦労がなかった事に喜びつつも、ため息が出てしまうソシエゴは、いつものように走り始めた。
二人は、充電部屋の上階まで定期時間まで集合しなければなならいのだが、アネシス達はいつもギリギリで全速力で走らなければならなかった。ロボットなので息切れすることはないが…
「いつも思うんだけれども、そっしぃ。どうして、早く起こしてくれないの?」
「十分前に起こしています。そもそも、どうしてロボットが他ロボットに頼らなければならないんですか?」
息切れしない機械たちは走りながら姉弟口論を始めた。
「アネシスが起きれないのは、アネシスのせいじゃ…わっ」
目の前の通路から人影が現れ、危うくぶつかるところであったが、そこはロボット。アネシスは後方に下がり、仲間との接触をさけることができた。
「エムカぁ」
アネシスが歓声をあげて仲間を見上げた。
エムカ・サービス担当。
外見年齢が高校生設定になっている姉弟と違い、エムカは少し年上の二十代。アネシスと正反対な落ち着きがあるが、ソシエゴよりも機敏な顔をしていた。
「エムカさん、おはようございます」
「二人とも、おはよう。…って、2人に会うってことは、相当ヤバイってことね」
エムカは黒色のスーツにスカートではなくズボンをはいていた。同色のローヒールがあわただしく床を蹴って走り始めた。
「ちょっとぉ、エムカ。それじゃ、アネシス達がいっつも遅刻しているみたいじゃないのよぉ」
「いつもじゃない」
反論はできなかった。
全速力で走る3人だが、体力優先に作られたアネシスが、自動扉下に敷かれたマットを踏んだ。
「おー。アネシス姉弟はともかく、エムカが遅れるなんてめずらしいな」
自動扉が開いた瞬間に部屋にいた仲間が声をかけた。
施設担当・バッテレイン
遊園施設を始め敷地内にある建物の設置、改造、機械以外の補修作業を担当するロボットらしく恰幅のよい大男であった。
外見年齢はエムカより少し上で、灰色の短い髪だが一撮みだけ長く、頭上から結わえていた。
深緑色のズボンに黒のランニングシャツという頼もしい格好だが、作業時以外の制服として、その上からソシエゴと同じデザインをした紺色のマントを羽織っている。
「僕は、姉さんのとばっちりを受けているだけですよ」
「私の場合は、ボスの命令で資料を作ってたから」
後から部屋に入ってきた2人は、早々に汚名を消した。
「ちょっと、アネシスだけ悪者じゃないのよぉ」
「事実じゃないですか…」
「はいはい。アネシス。ソシエゴを睨みつけないで、さっさと『朝の切り替え』をしてちょうだい」
ロボット達が集まる部屋奥から、仲間ロボットの声が登場した。
スィージィ。ウエストルム・キングダムに存在するすべてのデーターを取り締まる、唯一部下ロボットのいないロボット。
モニター前の寝椅子に裾の長い動きにくいマントを身にまとった女性の体を横たわらせ、しやなかな髪はプラチナブロンドをしていた。
「開園3分前よ」
スィージィの前には大きなモニターと、その下に無数のモニターが何べられていた。
アネシスは小さなモニターに交じって、埋め込まれている黒いモニターの前まで進んだ。
「アネシスが命令する」
正式名称を口すると、アネシスの声に反応した事を表わすかのように、黒色のモニターに『go program』という緑色の文字が現れた。
まるで会話するように命令しているが、アネシスの声はプログラムとして同時に出力している。
「アネシスが命令する。
夜間巡回してる、全てのセキュリティロボットは、業務を終了し。各自の充電場所に移動』
黒いモニターから『go program』の文字が消え、かわりにウエストルム・キングダムに設置された25の充電施設の名称と『OK』の文字が現れた。
アネシスはそれを確認してから、次のプログラムを始める。
『アネシス-1が命令する。開園時に活動するセキュリティーロボットは、すみやかに各配置場に移動』
モニターの『OK』を確認してから、アネシスはソシエゴと場所を替えた。
ソシエゴが終われば、次はエムカが同じ言葉を自分の部下ロボットに命令する。
これが開園前、朝の一時であった。
ロボットはエネルギーと命令さえあれば時間など関係なく動けるが、そのロボットたちは人間のために朝という時間を作り、それに従う。
「な~んか、1日の始まりって感じでいいよね」
人間に近い性能を持つロボットの一体、アネシスは弟に言った。
「僕たちは開園に会わせてプログラムされているんですから、当然といえば当然の行動。『朝』という認識はありますが、姉さんが言う気分には思えませんね」
機械的に動くソシエゴは姉とは違う考えをもっていた。
「そもそも。僕たちは声を出さずにメールのようにプログラムを送信できるのに…」
ロボット達は、その体の中にパソコンや携帯電話を埋め込んだのと同じ状態であった。
なのに、毎日声を放ってプログラムを唱えるのも、ソシエゴが反対できないのも
「仕方ないでしょ。ボスが決定したことなんだから」
ロボット達を支配する王の存在にあった。
ロボット達が『ボス』と呼ぶ、1人の人間は姿を現わさないが、存在は触れそうなほど近くにいるのと変らなかった。
「それに、私はプログラム送信機能はないからね」
命令を終えたエムカが姉弟の会話に加わった。
「エムカは、より人間に近い状態に作られたからね。その次がアネシスだけども」
「オールクリア。ボスにを伝えます」
モニター前の寝椅子からスィージィの声が聞こえ、開園前の引き締まった空気に変っていった。
ロボット達のいる建物の下、敷地内にいるロボットたちは、人間のように同士に挨拶をかわすことも、各配置ごとに朝会をすることもなく、ただ淡々と始まりに向かって準備を進めていた。
静寂に包まれた中で、ただ物音のぶつかる音だけが響く遊園地内の光景は、何か無気味なものがあったが、それを目にして感想を述べる人間はいなかった。
「開園、1分前。ボスからの開園許可がおりました。
アネシス」
スィージィに呼ばれたアネシスは、再び黒いモニターの前に進み、アネシスもまた淡々とプログラムを唱えた。
『アネシスが命令する。
ウエストルム・キングダムの正門を管理するセキュリティーロボットに告げる。
すみやかに門を開けよ』
モニターに『OK』の文字が出たとき、開園のメロディーが鳴った。
こうしてウエストルム・キングダムの朝が始まった。




