05話:お互いに自己紹介をしていく
それから程なくして。
洗面所で顔を洗って歯磨きを済ませた後、俺達は先ほどの部屋に戻ってきた。
「それじゃあそろそろ自己紹介でもするか。俺の名前はジーク。17歳の男だ。よろしく頼む」
「は、はい。ご丁寧に自己紹介をして頂き誠にありがとうございます。私はミリア・スノーライドと申します。年齢は16歳の女です。改めまして、お見知り置きの程よろしくお願い致します、ジーク様」
「様付けはやめろ。あともう少しフランクに喋れ」
「あ、は、はい。すいません……えっと、よろしくお願いします、ジークさん」
「おう。よろしく頼む」
という事で俺達は軽く自己紹介をしていった。
この女は“ミリア・スノーライド”と言うらしい。だけどスノーライドってどこかで聞いた事があるような気がするぞ。一体何処で聞いたんだっけか?
「なぁ、もしかしてスノーライドって有名な家名だったりするか? どっかで聞いた覚えがあるんだけど」
「あ、はい。スノーライド家とは王都に在籍している貴族家の家名です。ですからジークさんもスノーライドという家名に聞き覚えがあるのではないでしょうか?」
「そう言う事か。それなら街中を歩いてた時にスノーライド家の話をチラっと耳にした事があるって事かもしれねぇな。というかそれじゃあつまりミリアは貴族なのか? なるほどな、だからあんなにも高価そうなドレスを着ていたのか」
俺はミリアの話を聞いて納得した。
まぁおそらく良い家柄の女だとは思っていたけど、やっぱり俺の予想通りミリアは良い家柄の女のようだ。いわゆる貴族令嬢ってやつだな。
「いえ……私はもう貴族ではありません……」
「は? 何だそりゃ? 貴族ではないって?」
「はい……私はもう……貴族では……うぅ……貴族ではないんです……ぐすっ……私は……私は……捨てられたんです……ぐすっ……うぅ……」
そう言うと、ミリアは涙をポロポロと流し始めた。とても辛そうな表情だった。
「……ふぅん。どうやら訳アリのようだな。何があったのか話してみろよ。辛いんなら言葉にして吐き出した方がスッキリとして気分が楽になるかもしれねぇぞ? まぁ言いたくなければ別に無言でも構わねぇけどよ」
「ぐすっ……いえ、ジークさんは恩人です。ですから何も話さないのは失礼ですから……ちゃんと話させてください。実は……」
それからミリアの身に起きた出来事を聞かせて貰った。
ミリアは今まで王都にある貴族学園に通っていたそうだ。そしてそこの学生にはミリアの許嫁も通っていたそうだ。ミリアの許嫁は爵位の高い貴族様らしい。
それでミリアはその許嫁と毎日一緒に学園生活を送っていたんだけど……急に昨日ミリアはその許嫁から婚約破棄を言い渡されたそうだ。
許嫁がそんな事をしてきた理由は、ミリアの許嫁は他の女を愛していたので、そちらに鞍替えるためだ。まぁいわゆる痴情のもつれ……というか浮気だな。
まぁそういう事なら許嫁側が完全に悪いんだけど、でも許嫁は逆にミリアが浮気しまくっていて、さらに浮気相手の事も沢山イジメていたという嘘の噂を周りに吹聴しまくっていたらしい。
ミリアの許嫁は爵位の高い貴族なので、そんな相手が嘘を付く訳がないという風に皆から思われてしまい……その結果としてミリアが潔白な事は誰にも信じて貰えず、最終的に昨日婚約破棄をされてしまったとの事だ。
そしてミリアのせいで婚約破棄になったという事になり、ミリアの父親は滅茶苦茶激怒したそうで、ミリアはスノーライド家に帰宅してすぐにスノーライド家から追放される事になってしまったそうだ。
その時にミリアは泣きながら『家から追放だけは許してください……!』と必死に懇願したのだけど、それでも激怒した父親はミリアの事を許すことはなく、二度と屋敷に帰って来るなと言って全力で突き飛ばしていったそうだ。
そしてその時に運悪く、地面に尖った石があって、その石が地面に倒れこんだミリアの脇腹に刺さって怪我をしてしまったという事だった。
つまりミリアは自分の不注意でうっかりと脇腹を怪我したのではなく、父親のせいで脇腹怪我してしまったという事のようだ。なんとも最低過ぎる父親だな。
という事でミリアは幼少の頃からずっと一緒に育ってきた許嫁に裏切られていき、友人達からも白い目で見られていき、最終的に一番信頼していた父親にまで見放されてしまったんだ。
そしてミリアはこれからどうすれば良いのかわからなくなり……絶望したままあてどなく彷徨い続けていたら、気が付いたら“スラップラード通り”に居たという事のようだ。
「……なるほどな。なんとも胸糞悪い話だな。だけどミリアは何も悪くねぇじゃねぇか。それなのに周りのヤツらに反論とかはしなかったのか?」
「ぐすっ……もちろん間違っている事実は違うと何度も指摘しました……でも既に相手側の嘘の話が浸透してしまっていて……私の言葉を信じてくれる人なんて誰もいなかったのです……私の父でさえも信じてくれませんでした……うぅ……ぐすっ……」
「ふぅん。それは辛かったな。まぁでもよ……」
「うぅ……ぐすっ……って、え……?」
―― ポンポンッ……
「まぁお前は誰も信じてくれないって言ってるけどよ、俺はちゃんと信じてやるよ。だからそんな泣くなよな」
「え……あ……」
俺はそう言いながらミリアの頭を優しく撫でていった。孤児院に居た頃はガキ共が夜に泣いてる時とかはこうやって頭を撫でながら慰めてやったもんだ。
俺はそんな孤児院のガキ共を慰めるのと同じ方法でミリアの事を慰めていったんだけど……そしたら何故か急にミリアは無言になっていき、俺の事をじっと見つめてきた。
「? どうした? あ、もしかしてアレか? あんまり頭とか触られるの嫌だったか?」
「……えっ? あ、い、いえ、そういう訳ではありません……た、ただ、どうして私の話を信じてくれるなんて……そんな簡単に言ってくれるんですか? 私達は昨夜に出会ったばかりだというのに……」
「別に。何となくミリアは嘘付いてねぇだろうなって思ったからだよ。だからただの直感だよ。それだけの理由じゃ不服か?」
「い、いえ……そんな事はないです。私を信じてくれる人なんて一人もいなかったから……ぐすっ……だから……ありがとうございます、ジークさん……そう言ってくれて……ぐすっ……私を信じてくれて……本当にありがとうございます……ぐすっ……」
「おうよ」
という事でそう言って俺はミリアが落ち着くまで、それからもミリアの頭を優しく撫で続けていった。




