第7話 《突然の呼び出し》
ある日の熱帯夜。俺はいつものように冷房の効いた部屋でのんびりとゲームをしていた。
やっているのは今ハマっているPCオンラインゲーム“ネクストステージオンライン”通称“NSO”だ。
敵を倒し素材をゲットして武器などの装備を作ったりそれらを強化したりスキル構成などやりこみ要素が多い。しかも最近大型アップデートがあったため忙しい日々を送っている。
気が付いたら数時間ゲームをしていた。楽しい時間はあっと言う間だ。
「(ふぅ……やっと最後の強化素材出たか。そろそろアニメの放送時間だし今日はこれくらいにするかなぁ)」
アニメの放送時間までベッドに寝転がりながらスマホでSNSを見ていると突然柚月から着信が来た。
時刻は21時過ぎ。俺がアニメを観るのために起きているのを知っているはずだから何か用があったとしてもメッセージを送ってくるはずだ。
わざわざ電話をしてくるなんてよほどの急用なのだろう。
「どしたー? ……柚月?」
「奏汰……助けて……怖いよ……」
柚月の声は震えているように聞こえる。それになんだか泣いているみたいだ。
これは何かあったに違いない。
事件か? 事故か? いや、今は悠長に理由を聞いている場合じゃない。
「今行くから待ってろ」
俺は自転車を飛ばし急いで柚月の家へ向かった。
確か明日の昼過ぎまで両親が出かけているとかで一人で留守番すると言っていた。
家に着くと部屋中の電気が点いている。インターホンを押すと家の中から足音が聞こえすぐに勢いよく扉が開いた。
「奏汰ーーっ!!」
柚月は飛び出てるなり俺に抱き着いてきた。
腹部に柔らかい感触がする。
かなり取り乱しているみたいだ。俺はとりあえず柚月を引き離した。
じゃないと俺の理性が変になる気がした。
「ちょっと、落ち着けって。一体何があったんだ?」
「観ちゃったの……」
「何を?」
「心霊番組……」
「……はい?」
半泣きの柚月と共に部屋に入ると一人で満喫していたのだろう。テーブルにはお菓子や飲み物、漫画などが置かれていた。
そしてテレビには心霊番組が映っていた。
確かにこういう心霊番組は苦手なはずだが泣くほど苦手じゃないはず。
見た感じそこまで怖いってわけでもない。
取り敢えずテレビ画面を消し、柚月が落ち着いた後、何があったか聞いた。その結果真相はこうだ。
「つまりサブスクでアニメを観ていて終わった後、チャンネル替えたら心霊番組がやっていて少し興味本位で観たら思ったより怖くなったってことか」
「……うん。いつもならギリ平気なんだけど……」
「なるほど」
どうやら女の子になってから恐怖に対する耐性が減っているみたいだ。
外見だけじゃなくて内面も変わっているらしい。
さっきまで見ていたアニメの話しをしているといつもの笑顔が戻った。
「それじゃぁ俺は―――」
もう大丈夫そうだからそろそろ帰ろうと思い立ち上がると柚月は俺の服の裾を掴んだ。
「奏汰もう帰っちゃうの?」
「そりゃまぁ」
「そっか……」
そう言って柚月は掴んでいた裾を渋々手放した。
まだ少し心細いのか何か言いたげにモジモジしている。
多分もう少し居て欲しいけど迷惑をかけたくないって感じだろう。
こういうところは変わってないみたいだ。
「もうそろそろアニメが始まる時間だからここで見て行こうかな。いいか?」
「うんっ!」
先ほどの感情とは逆に再び笑顔が戻った。
俺は柚月と共に今晩放送されるアニメの最新話を観た後、他のアニメもサブスクで見始めついつい長居してしまった。
「おっと、もうこんな時間か」
「アニメ観てるとあっという間だね。さてとそろそろお風呂入ろっと」
「そんじゃ俺は―――」
立ち上がろうとした時、柚月は再び俺の服の裾を掴んだ。
この感じからしてこれは泊まりコース確定だな。
まぁ、こんな時間まで居るならもう別に良いか。
「―—だよな。分かった。泊まって――」
「奏汰も一緒に来て」
「……はい?」
俺は柚月に連れられ風呂場へ向かった。
一体何なんだ!? ドキドキする。これは犯罪? いや、双方の同意なら合法だ。
というかそもそも俺達は親友だし柚月は元々男なわけで―――。
俺が葛藤しているとは露知らず柚月は脱衣所に入るなりすぐに扉を閉めた。
「奏汰は廊下で待ってて。僕がお風呂入ったら脱衣所に入ってきてね」
「あ、うん……」
まぁさすがに一緒に同じ空間に居られるわけないよな。
廊下で少し待っていると中から「入ってきていいよ」と声が聞こえた。
恐る恐る脱衣所の扉を開け中に入ると浴室の磨りガラスに柚月のシルエットが見えていた。
俺は咄嗟に目を逸らしたが逸らした先には柚月のパジャマと下着が置かれている。
目のやり場に困る……。
俺は洗濯機を背もたれにしてその場に座ってスマホゲームを始めた。
黙々とやっていたため、居るのか気になったのだろう柚月が浴室から声を掛けてきた。
「奏汰居るー?」
「あぁ、居るぞ」
「何か話そ」
「何かって言われても―――あ、そういえば来月林間合宿だな」
「林間合宿かぁ~。楽しみだねぇ」
「あれ? アウトドアイベント嫌いじゃなかったっけ?」
「キャンプアニメ観てから興味が出たんだよね」
「あの女子高生がソロキャンプするやつか。てかほんとアニメに影響されやすいな」
「奏汰だってそうでしょ。そろそろ出るね」
「おぉ、廊下で待ってるわ」
「うん、ありがとう」
俺は脱衣所から廊下に出て近くの階段に座ると柚月が浴室から出て来る音が聞こえた。
スマホでゲームの続きをし始めようとした時、突然脱衣所から「わぁっ!」と言う柚月の驚いたような悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」
俺はすぐに立ち上がると何も考えず脱衣所の扉を開けてしまった。
もちろん目の前には服を着ていない柚月の姿があった。
一瞬だけ間があった後、俺はやらかしたことに気が付いた。
「っ!? すっ、すまん!!」
俺は慌てて脱衣所を出て扉を閉めた。
咄嗟だったとはいえ見てはいけない物を見てしまった。
ラッキースケベと言うものを体験してみたいと思ったことはあったが実際に遇ってみると気まずくなる。しかも相手が女の子になってしまった親友だとより気まずい。
俺は脱衣所の扉前に崩れるように座った。
すると扉の向こう側から柚月が話しかけてきた。
俺の事を気にかけてくれたみたいだ。
「なんかごめんね。洗面台にある髪留めが虫に見えちゃって」
「いや、俺こそ。言い訳すると咄嗟だったというか……ほんとすまん!」
「気にしてないから大丈夫だよ。だって僕の事心配してくれたんだし。それにどうだった?」
「どうって?」
「見た感想だよ~」
「冗談言うと先に部屋戻るぞ」
「ちょっ、待ってって」
脱衣所から出た柚月は俺と共に柚月の部屋へ向かった。
柚月は俺に気を使って冗談を言ったのは分かる。そのお陰でなんだか少し気持ちが楽になった気がした。
「俺がしっかりしないとな……」
「ん? 何か言った?」
「別に何も。よし、この際朝までアニメ観まくるぞ! どうせ明日は休みだしな」
「賛成ーっ!」
とは言ったものの結局俺達はアニメを夜通し観ることが出来ず寝落ちしてしまった。
気が付けばアニメは1クール12話分が再生し終わりエピソードの選択画面になっていた。
記憶では俺は9話くらいまで観ていて柚月は俺より先に寝落ちしていた。
ふと横を見ると柚月が丸まりながら寝ている。
カーテンの隙間から外を見ると空は明るくなってきていた。時計を見ると時刻は5時過ぎだ。
「(さすがに勝手に帰るわけにもいかないし起こすのも可哀そうか。ふぁ~……、もう少し寝るか……)」
俺はテレビ画面を消し再び眠りについた。
しばらく寝ていると頬に何か柔らかい物が触れた感触で目が覚めた。見ると柚月が俺の顔を覗き込んでいた。
「ん……? 俺の顔に何かしたか?」
「あっ、えーっと、頬にゴミが付いていたから取っただけ。朝ごはん準備したから下に来て」
そう言って柚月はなんだか逃げるようにそそくさと部屋を出て行った。
顔にイタズラされたかと思いスマホのインカメラで顔を見たが落書きとかはされていなかった。




