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第一話 地味で存在感がない僕 異世界転移する

「え……? ここ、どこ……?」


音梨(おとなし) 滋味雄(じみお)はキョロキョロと辺りを見回した。


(……僕、さっきまで何してたんだっけ? ええと、そうだっ歩道を横断中、突然眩しい光に包まれてーー)


しかし辺りを見回しても、歩道も車もない。

目に映るのは木々や泉、森といった自然の風景だ。

遥か遠くには洋風の白いお城。空には見たことのない鳥が飛んでいる。


(……これって、かの有名な異世界転生じゃないか!? 生まれ変わってるってことは、ビジュアルも変わってるはずだ。夢に見た、高身長に金髪碧眼のイケメン!? 銀髪にオッドアイとかの中性的なタイプもいいなぁ)


滋味雄は見た目を確認するために、そばにある泉をドキドキしながら覗き込んだ。

水面は鏡のように滋味雄の姿を映し出す。

少し癖のある黒髪、眼鏡、黒くて太い眉、丸い鼻、丸い輪郭……


「変わってない!!!!」


(せっかく異世界に来たのに、地味で冴えない僕のままじゃ意味ないよ……)


心底がっかりした滋味雄はその場に崩れ落ち、地面にうずくまった。

ーー30分ほど経った時。


「いでっ!?」


蹴られたような痛みと衝撃をお尻に感じて、滋味雄は思わず呻いた。


「きゃ!? ごっごめんなさい!」

「はぁっ!?」


頭上から女の子たちの声がして、恐る恐る見上げる。


尖った帽子を被り、ワインレッドのローブをまとった大人しそうなピンク髪の女の子。

その後ろに、アーマーの上にマントを羽織った、凛々しい金髪の女の子が立っている。


「うずくまってるのに気付かなくて、蹴っちゃってごめんなさい!」


ピンク髪の女の子の謝罪に、滋味雄は深いため息をついた。


(僕の存在感の無さって異世界でも変わらないんだな……)


小学生の頃の遠足では一人置いていかれたし、外食をすれば一人だけ水が運ばれて来ないことは日常茶飯事だった。


「あの、声が出ないほど痛いですか? そうだっ回復魔法を……」

「あっ痛みは大丈夫! 僕、存在感がなくていつも忘れられがちだから、あなたが気付かなくても仕方がないって言うか……」


滋味雄は言っていて悲しくなってきて、あははと誤魔化すように笑った。


「ところでアンタ、こんなとこでうずくまってどうしたんだ?」


金髪の女の子に尋ねられた滋味雄は、押し黙る。


「……信じられないと思うけど、僕、違う世界から突然この世界に来たみたいで……」


しどろもどろになりながら言うと、二人は驚きで目を見開いた。

どうやら異世界転移は珍しいらしい。


「違う世界から転移ですか……そんなことが現実に……」

「確かに、見たことのないカッコしてんな」


戸惑うピンク髪の子の隣で金髪の子が、滋味雄を上から下まで眺めてから呟いた。

学校帰りだったので、黒い学生服に紺色のリュックサックに運動靴。

滋味雄はふと、二人の格好を見て重要なことに気付く。


「……あの、ここから一番近い集落を教えてもらえないかな……?」


滋味雄が注目したものは、金髪の子が腰に提げている剣と、ピンク髪の子が持つロッド。

こんな武器を身に着けているってことは、この世界は日常的に戦う相手が存在するということだ。

人かもしれないし、モンスターかもしれない。

急に怖くなって、滋味雄は勇気を振り絞って二人に頭を下げたのだった。


「いいぜ」

「もちろん!」

「ありがとう!」


良い子たちで良かったと滋味雄はほっと胸を撫で下ろす。


「あたしはソラ、見ての通り戦士だ」


金髪の子ーーソラが自己紹介をすると隣のピンク髪の子も、「リルナです、一応魔法使いです」と言った。


「僕は滋味雄(じみお)、高校生……学校に通う17歳、です」

「17歳! あたしらと同じだ」

「同い年なのに僕が一番背が低い……」


どうせ僕は158センチ……と落ち込む滋味雄。それを聞いたソラとリルナは目配せをした。


「ジミオ、一番近い町まで一緒についていってやるよ」


ソラの言葉にリルナも頷いている。

滋味雄は、「えっいいの?」と尋ねた。

正直言って町までついてきてほしいと思っていたので、ソラから言い出してくれて助かった。


「ーーその代わり、頼みを聞いてもらえないでしょうか」


深刻そうなリルナの様子に「僕にできることだったら……」と返す。

ソラはリルナの肩を抱き寄せてから静かに口を開いた。


「ゴブリンに奪われた光のオーブ……リルナの母親の形見を、ゴブリンの巣から取り戻してほしいんだ」

「形見!? ゴブリン!? 協力したいけど、僕戦ったことがないから無理だよ!」

「ジミオさんの存在感の無さなら、ゴブリン達と戦わずに取って来られるかもしれないんです!」


リルナの言葉に滋味雄は目を丸くする。


(存在感の無さが必要とされる日が来るなんて! いやいや、そうじゃなくて)


「こういう世界って、冒険者のギルドに依頼できるイメージがあるんだけど……」


滋味雄が尋ねるとソラは渋い顔をした。


「ゴブリンは小柄な種族だから、巣の天井が低いんだ。体格のいい冒険者も入れないから、洞窟にいるゴブリン全員を遠隔で一気に倒せる強い魔法使いに依頼しなきゃなんねえ。けど、そんな強いやつは他の依頼で忙しいから頼めない」

「光のオーブは壊れやすいので、待っていられなくて……」

「だからもう、ダメ元であたしとリルナで突撃しに行く途中だったんだ……」

「ええっ」


(僕が断ったら二人はゴブリンの巣へ突撃……!?)


滋味雄は心配そうな顔でソラの方を向く。


「……ゴブリンってどんな攻撃してくるの?」

「主な攻撃は、かみつきだな」

「か、かみつき……」


ソラの返答に滋味雄が震え上がる。

その様子を見たリルナが、自身の肩掛けカバンから何かを取り出した。


「無理なお願いなので、緊急脱出できる魔道具をお渡しします」

「魔道具!?」


滋味雄はリルナから受け取った魔道具をまじまじと見つめる。

手のひらに収まる大きさの円形で、平べったい。


「真ん中の赤いボタンを強く押すと、ソラの元に戻るように設定してあります。ゴブリンに気付かれたら、オーブを取り戻してなくても、これを使って脱出してください」

「そ、それなら……」

「ありがとうございます!ではゴブリンの巣に向かいましょう」


ソラとリルナの案内で、ゴブリンの巣である洞窟の近くまでやって来た。

三人は樹の影から様子を伺う。

ソラから双眼鏡を渡されて、滋味雄は恐る恐る覗いてみると。


「ほ、ほんとにゴブリンがいる……」


ゲームなどで見たことのある姿そのままのゴブリンが、洞窟の中や周りに沢山ウロウロしている。

このゴブリン達は身長100センチくらいだそうだ。洞窟の天井は160センチほどだろう。

確かにこれではソラ(170センチ)とリルナ(164センチ)は勿論、大人の冒険者もとても入れない。洞穴の突き当たりの岩肌のくぼみに、きらりと輝く丸い玉が見える。


「あれが光のオーブだ。発光してるから、ああやって灯り代わりに使うんだ」

「なるほど……」


(わかりやすい場所にあってよかった。サッと歩いてパッと取れば、イケるか……?)


頭の中でシミュレートする滋味雄の目に、洞窟を行き来するゴブリン達が映る。小柄だが、牙や爪は鋭い。中には木の棒を持っているヤツもいる。


(噛まれたり叩かれたら痛いだろうな……うぅやっぱり怖い!)


光のオーブを取り戻せなくても良いとは言われているが、そうなればリルナとソラが危ない目に遭う。

逃げ出したいけれど、絶対に行って取り戻さなければいけない。


(この状況、なんか以前に経験した覚えがある、なんだっけ……あ、思い出した。忘れ物のプリントを取りに放課後の教室に入ろうとしたら、クラスの陽キャ達とギャル達と盛り上がってた時だ)


忘れ物が翌日提出のプリントーーしかも保護者の捺印が必要だったため、絶対に教室に入らなければ行けなかったのだ。


(あっ、あれに比べたら遥かにマシだ)


ガチガチに緊張していた滋味雄の体から、スッと力が抜けた。


「行ってくるね」

「無理しないでくださいね……!」

「魔道具はポケットに入れとけよ!」


滋味雄はリルナとソラに軽く手を振ってから、ゴブリンの巣の方向を向く。

背中に背負っているリュックを前側に移動させてから、洞窟に向かって歩き出した。

ソラとリルナは固唾を飲んで樹の陰から見守る。

滋味雄がゴブリン達に気付かれた場合、緊急脱出の魔道具を使ってここに戻り、三人で近くの町にリルナの魔法で転移する作戦だ。

息をつめて双眼鏡を覗くソラが急に声をあげた。


「あいつ、まるで自分の家に入るような自然な足取りで、ゴブリンの巣に入っていきやがる!」

「すごい! ジミオさん、まったくゴブリン達に気付かれてないわ!」


スムーズに洞窟の突き当たりに到達した滋味雄は、窪みにある光のオーブを手に取った。


「やった!」


ソラが歓声をあげた横で、リルナの顔色が曇る。


「まずいわ、光のオーブがなくなったことにゴブリン達が気付いた!」

「でもまだジミオの存在も、ジミオがオーブを持ってることもバレてないぜ!」

「流れるような手つきでリュックに入れたわね……あっリュックを前に背負っていたのはそのため!?」


ソラとリルナが驚いている間に、滋味雄は光のオーブを探し回るゴブリン達にぶつかることなく、あっさりと洞窟から出てきた。


「ジミオ!」

「はは……いけちゃった。はい、リルナさん」


滋味雄はリュックの中から取り出した光のオーブをリルナに渡す。


「ありがとうございます……!」


涙を流して喜ぶリルナの後ろでソラが、


「それにしても、動き回るゴブリン達によくぶつからずに歩けたな」


と感心した。


「あー……人混みを歩くのは慣れてるから」

「? ジミオの世界は窮屈なんだなぁ」


(同人誌即売会で慣れたなんて言っても、通じないだろうな~)


滋味雄がぼんやりと思い出していると、泣き止んだリルナが「ジミオさん」と声をかける。


「行くところがないんですよね? お礼に私の家に招待したいです」

「ええっ!?」



続く


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