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プロローグ:出会いと別れは突然に

──とある春の日。

人々は色々と(いそが)しくなり始めて、(さわ)がしくなるそんな季節。

僕は協力者である猫の背中で、どこに行くのかも分からないまま、ただただ座っているのだった。

そう、自分は人間ではなく「みゅー」と(しゃべ)る《小型のロボット》だ。

だけど、他のロボットとは違う、本当は持ってはいけないはずのとあるものを持ってしまった。

それは《感情》という名の本来、ロボットには無縁なはずのもの。

しかも、ただただ喜怒哀楽をするだけなら隠しておけば基本バレることはないのだが、僕はまた違う感情まで持ってしまったのだ。


(さかのぼ)ること、十二年前。

僕はとある家に招かれ、そこに住む男の子と楽しく暮らしていた。この時は終わりが来るなんて、思いもしなかった。

そう、人はとある歳になると、僕みたいに会話も出来ないロボットには興味を失くし、五年間の思い出が嘘だったかのように箱型の機械?に夢中になるらしい。

そしたら、僕は暗闇に移住させられ、気づけば外に座らされていた。

「えっ⋯どう⋯して⋯?」

その時の僕は何も理解出来ず、ただただ前へと動く箱を呆然(ぼうぜん)としながら見つめるだけだった。

もちろん、最初は忘れてしまっただけで気づけば戻ってくると信じていた。

でも、決して戻ってくることは無かった。

大雨の日、その事に気づいた僕は色んな事を考えて涙を流していた。

厳密に言えば、涙腺機能なんて付いていないため雨によりそう感じたのだ。そんな時だ。

彼女⋯いや、女神に出会ったのは──。


それからの毎日はとても楽しかった。

色んな場所に出かけて、遊んで、たくさん話してくれて、一緒に寝たりもした。僕はずっと願っていた。

今度こそはこの《幸せ》がずっと続きますように──。


でも、そうはいかなかった。

七年が経ったある日。

彼女もまた、その歳になった頃に僕から離れてしまった。

でも、一つだけ前とは違かった事があったのだ。

それは《彼女から離れようとしなかった》事。

そう、僕らは親によって切り離されてしまったのだ。

ただ、前みたいに家から追い出された訳ではなくただただ暗闇に移住させられる。

それだけだった。

もちろん、それでも最初は悲しくて、怖くて仕方がなかった。

でも、あの時より成長していた僕はただ待っているんじゃなくて、何か行動してみようと考えた。

良い機会だし、ずっと感じていた意味不明な感情についてもゆっくり考えるとするか⋯。


そして、僕はこの状況をどうするかよりも先に意味不明な感情についてを理解してしまった。その答えは想像を絶するもので、考えすぎた結果の思い違いだと思いたかった。

だって、それは僕らに《禁じられている》ものだからだ。

でも、何度考えたってそうとしか言えなくて僕はどうしたら良いのかより分からなくなってしまった。

その時、突然暗闇だったこの場所に一筋の光が差し込み、それと同時に聞き覚えのない澄んだ声が語りかけてきた。

「やぁ、オレはエドワード。通称、エドと呼んでくれ」

その声の主が誰か分からなかった僕は辺りを見回すが、どう考えても目に入ったのは目の前に居る大きな黒いもふもふだった。

「ちょっと、ここだって!上!」

見上げた先には確かに黒猫が居た。

だけど、本当にこの黒猫が喋っているのか半信半疑だった。

だって、猫ってにゃーとしか鳴かないのでは⋯?

でも、明らかに彼から発せられているものでそうだと信じるしか無かった。そう思っていると彼からまた声をかけられる。

「君はなぜ、ここに居るの?ここが好きだって感じには見えないけど⋯」

僕は理由を説明しようと必死に伝えてみた。

だけど、彼はそんなにしなくても⋯というくらいに首を傾げていて、どうやら全く伝わらなかったみたいだ。

「えーと?とりあえず、ここから出る?君が望むなら人間や動物になれる方法もあるし⋯。そもそも、君を連れてこないと、博士に怒られるだろうし⋯」

人間になれる方法⋯?そんな魔法みたいな話がある訳ない。これは外に連れ出すための嘘だと思った。

でも、もし本当に人間になれたのなら彼女とまた一緒に過ごせるんじゃないか。そんな考えが頭をよぎった僕はエドの言うことを信じてみようと思った。

「おっ、もしかして君もなりたいの?よーし!それじゃあ、行こっか!」

()?その言葉が少し引っかかったが、質問をする時間はどうやら無いらしい。

そして、彼は僕を背中に乗せて窓から勢いよく飛び出した。その瞬間、声にはせず心の中で強く思った。

「またね、僕かっこよくなって帰ってくるよ。」

そして、外に出て見えた景色はキラキラと輝いているようで、僕はなんだか冒険に出たような気分だった。


そして、今に至る。

そんなエドを信じて、長時間乗り続けているものの全然その方法とやらも教えてくれなければ、立ち止まることもなくひたすらに歩き続けている。

もしかして、本当に嘘だったのか?!と少ししかめっ面になり始めた僕に気づいたのかエドが慌てて話しかけてくる。

「そんな顔すんなよ!研究所、意外と遠いんだってば!でも、安心しろ!もうすぐで着くからな!」

どうやら、嘘ではないらしい。

そして、エドは突然立ち止まり自慢げに口を開いた。

「着いたぞ。ここが言っていた研究所だ。」

それを聞いた僕は急いでエドの頭へ行き、顔を上げる。

だが、目の前にあるのは人々が行くような何の変哲もない市民病院だった。病院でそんなことをやっているもんなのかと疑っていると、髪を後ろに結んだ茶髪のいかにもモテそうな爽やか系イケメンがこちらに駆け足で向かってくる。

「エド、ごめん!早めに迎えに行く予定が、女の子達に捕まっちゃって⋯」

「もー、博士はいつも捕まってるな⋯。まぁ、それはさておき⋯連れてきたぞ」

エドがそう伝えると、博士と呼ばれた男がこちらを見て、にっこりと微笑み、僕の事を優しく持ち上げると同時に口を開く。

「よく来てくれたね。それじゃあ、さっそく私の研究所に案内するよ」

そう言うと、彼は僕を連れて病院の中に入り、階段を下って、そこにある『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開いた。開かれた扉の先を見ると、どう見てもそこはただの診察室だった。

そこから、僕を机にある小さな席に座らせてから彼も席に座り、自慢げにニヤリとしながら両手を広げ、興味津々で問いかけてくる。

「ようこそ、オカ研究所へ!君は何になりたいんだ?人間?それとも、犬や猫?君のようなロボットは何にでもなれるよ!さぁ、言ってみ?」

「人間になりたいです!!」

思わず、彼の勢いにつられて言ってしまった。僕の声は相手にはみゅーとしか聞こえないため、伝わるはずがない。

そう思っていた。

「ふむふむ、君は人間になりたいんだね?合ってるかな?」

えっ、なぜ分かったのだろうか⋯。まさか、心の声が聞こえているとか⋯?いやいや、そんな訳が⋯。

そう思い戸惑っていたが、こちらをずっと見つめている彼を見て、このまま答えない訳にはいかないなと思い、僕は力強く何度も頷いた。

それを見たエドは目を輝かせながら彼に言う。

「さすが博士!どんな言葉でも理解出来るんだ!」

「いやいや、ただ脳内変換されて聞こえてくるだけだから間違ってることも多々あるんだよね⋯これ。しかも、ロボットにしか通用しないし⋯。これで女の子達のことも⋯」

その会話を聞きながら、話題に出してくるあたり、きっとこの人は物凄い女好きなのだなと思った僕だった。

そして、彼は再度こちらを見て目を少し見開き話し始める。

「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は岡本爽太(おかもとそうた)。みんなからはオカと呼ばれていて、良かったらオカ博士と呼んでね♪」

僕は名前を聞いてより謎が深まるばかりだった。

それはあまりにも人間すぎる医師の彼がなぜロボットを改造し、そんな事が出来るのか。そもそも、僕を改造してなんのメリットがあるのか。もし、面白半分なのだとしたらこちらは本気なため凄く困る。

そう思っていると、彼がそれに気づいたように少し怒った様子で話す。

「あっ、違うよ?!勘違いしないで欲しくて⋯。私だって、困ってるロボット達を救いたいからこういう活動をしてるんだよ。」

そう話す彼の目はとても真剣で嘘をついてるようには到底思えなかった。

だからこそ、僕は彼を信じて任せても良いと心から強く思った。

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