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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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七十二話・邂逅[6]



 対梯忍者隊本部、医務室。


「すごい、みんな奇跡的に軽傷だね」

「だね~」


 いつもいる杏子の代わりに、今日は恋華や桜日と歳が近そう(というか少し下?)な双子らしき二人組が運び込まれた俺を診てくれていた。

 といっても俺も酷く体力を消耗しているくらいで目立った外傷はなく、白偽が出た後の癖というかある種の経過観察? 的な感じで連れて来られた。


 あの後無事に全員合流し、その安堵と疲労から英樹さんの背中で眠ってしまった俺だったが、本部に着いたところで目が覚めた。救出に来てくれた六人と俺の計七名が医務室にいるものだからいつもより狭く感じるな、と思うと同時に、一人も欠けずに帰って来れて本当によかった、と心底ホッとする。


「小春、そっちで桜日さんと恋華診てやって。小麦はこっち」

「わかってるよお兄ちゃん」

「そうだよお兄ちゃん」


 わざとらしくお兄ちゃん、と呼ばれてお前らなあ……という顔をするのは、白さんだ。

 ……え? もしかしてこの双子って白さんの妹と弟?


「ああそっか、楽も双子とは初めましてか」

「おう」

「白兄の下の兄弟……つまり俺のいとこで、小春と小麦。見ての通り今回の隊では医療班」


 そう樹に紹介された双子は「よろしくー」「しくー」と挨拶してくれる。

 先に喋る小春の方が姉で、その後を追うように話す小麦が弟……かな。白さんの兄弟という割には里冉や樹に近い明るい茶髪で、流石は法雨の血といったところか、どちらも顔が整っていてそっくりだ。あ、よく見ると目元は確かに白さんに似てるかも。


 俺より絶対年下なのに、双子はテキパキと慣れた手つきで救出班の怪我を手当てしていく。すごいな、流石法雨……とさっきも思ったことを再び思う。

つか今医務室にいるの、全員子供じゃん。多分里冉が一番上……だよな? とつい視線をやると、目が合ってしまった。合流してからずっとやけに静かでいつもの微笑みが消えていた里冉がふ、とやっと少し柔らかな表情を見せる。


 アイツ今絶対俺に言いたいことめちゃくちゃあるだろ。俺もあるけど。あれか、ありすぎてみんながいる手前静かにならざるを得ないのか。


「……にしても、この前はやばい奴に殺されかけて、今度は梯に攫われるとか何? 楽は危なっかしさで世界一位でもとる気なの?」

「んぇ、すまん」


 樹が俺の頬をつねる。こればっかりは本当、迷惑かけまくっててすまん、としか言えない。巻き込み巻き込まれキングだよ確かに。双忍である樹は特にハラハラさせっぱなしで……マジで申し訳ない。


「そうだ、あの、助けに来てくれて…ありがとうございました。みんなが来てくんなかったら俺……本当、助かった……っす。ありがとうございます」


 俺がそう言って頭を下げると、皆は「どういたしまして!」とか「いやあでも上には怒られるだろうな~、勝手な真似して」とか「楽様が無事で本当によかったです……!」と口々に言って、今日のことを話し始めた。


「ていうかそこにいる馬鹿一人で行かせたら絶対どっちも今頃死んでただろうし? 忍びとしては見過ごすわけにもいかなかっただけで?」

「樹、せめて馬鹿兄貴って言ってやれ」

「馬鹿はいいんだ」

「今日の冉兄に限って言うと事実だしなあ?」


 白さん結構言うっすね……と苦笑する俺。里冉は反省してます……という顔で俺達の会話を聞いていた。

 ていうかやっぱ一人で行くとか言い出して白さんや英樹さんが着いて来ざるを得ない感じにしてたのか。法雨の大事な跡継ぎだしな。俺なんかのために死なれちゃ困るよ、そりゃ。


「そういや樹、脱出前誰かと話してなかった?」

「あー、それね……実は」

「ボクのこと助けに来てくれたんだよね♡」


 急に増えた気配と発された声に、思わず全員そちらを向く。


「廉……!!??」


 本日二度目のなんでお前が……!? という驚きを隠せない俺に、廉は「やあ♡」と片手を軽くあげてにっこりと笑いかけてくる。お前の笑顔、ぶっちゃけトラウマなんだが……? と思いつつ、今日の廉はなんというか、あの夜とはまた別の無邪気さを纏っているせいかそれほど怖くはない。むしろさっき助けてくれた……っぽいし。


「たまたま見つけたから利用しただけで、別にアンタを助けに行ったわけじゃない」

「冷たいなあ。でも君はそこがいいよねっ、瞳の色とすっごく合ってる」


 瞳の色の話をするな。せっかくちょっとトラウマ和らぎかけてたのに。ほれみろ樹も顔色悪くなってるぞ。


「利用した……って……?」

「取引したんだよ。こいつがどうしてもここから出たい~拘束解いて~助けてよ~ってうるさいから、じゃあ楽のこと里まで無事に護衛するって約束するなら、ってね」

「マジか。よく信じられたな?」

「だって楽ある意味気に入られてるし、こういうタイプって信頼できるプロかあるいは自分の手で……って思ってそうだから、楽が梯に殺されるのはこいつとしても避けたいことなんじゃないかなって思って」

「うわ、なるほどな……」


 里冉班と廉本人以外はなんの話? と頭の上にはてなを浮かべている。そりゃそうだ。でも茉央のこととか一から話すわけにもいかないのですまん、なんとなくで汲み取ってくれ。


「ね、ね、ボクちゃんと助けたでしょ? まだ今は貰えなくてもいいから生で本物の悪……むぐっ」


 どうやら梯との戦いで負った傷を手当てしてもらいにきたらしい。傷は浅そうではあるが刃物の跡がある腕を小麦に差し出ながら廉がそう言いかけると、樹が怪我を増やさんばかりの勢いで廉の口を塞いだ。……悪魔の目って言いかけたな。


「アンタを解放するのが護衛の対価だったでしょ? もう忘れたの? 馬鹿? ていうかアンタが喋ると話がややこしくなるから手当て終えたらさっさと消えてよね、邪魔」


 いつにも増して辛辣な樹に、廉が「ちぇ~~」と可愛こぶって口を尖らせた。そんな廉を見てると、俺は一つ聞いておきたかったことがあったのを思い出す。


「なあ廉、朱花は……?」

「……ああ、あの親友くん? ずっと囚われの可哀想なボクの見張り役兼お世話係をしてたよ。すっごく嫌そうにね」


 そっか。ちゃんと生きてたんだ。よかった。


 もう少し廉に話を聞こうかと思ったが、樹が「そういえば、梯全滅させちゃえば、とか言ってたんだよねこの馬鹿」と里冉への文句を言い始め自然と話題が今日のことへと戻ったので、俺は素直にその流れに乗った。

 それにしても、俺の護衛に廉を使おうだなんてとんでもない発想だよな。樹、元々頭良いとは思ってたけどこういう場面だと特に機転が利く奴だってのがわかる。……ただなんとなく、皆の前では言いにくい他の条件もつけて取引したんじゃないか、という気がしてしまって、少し心配になった。気のせいかもしれないが、やけに廉が発言するのを嫌がっているというか、口を滑らせることを恐れている感じがするのだ。単に嫌いなだけか、悪魔の目だとかその辺のワードを人前で言わせたくないだけかもしれないが。


 そんなこんなでしばらく医務室で話し込んだ俺達だったが、怪我の処置が一通り終わると廉は俺を見て立ち上がり「今日のところは帰るよ。またね、ボクのらっくん♡」と笑いかけてきた。一応名前で呼んではくれたが、どう考えてもルビがらっくんだっただけで〝コレクション〟だったその言葉に、思わず鳥肌が立つ。

 そうして俺が青ざめるのと同時に、医務室が殺気で張り詰めた。放っていたのは里冉で、直に向けられた廉は「じゃ、じゃあね」と言いながら足早に去っていく。


 いつもならここで樹や白さんが「ほんっと楽のことになるとすぐキレるんだから」とか弄り始めるのだろうけど、あまりに本気の殺気だったためか誰もそのことに触れず、「さ、上に報告行かなくちゃ」とか「冉兄無事だって連絡入れといて」とか言いながら解散する流れになった。白さんと樹が先に部屋を出て、英樹さんが二人を追うようにそれに続く。里冉もだったがやけに静かなのは恋華も同じで、それが気になっているのがバレていたのか俺に向かって「あとでね」と一言かけてから出ていく。里冉が何も言わずそれに続いて、桜日が残った。


「例の件ですが」

「……わかってる」


 さっき楽様って呼ばれたときに察していた。今まで通り、知らないふりをする。わかってる。親父達には絶対に、知ってしまったことがバレないように。


 俺が頷いたのを見て安心したのか、「それでは。楽様は安静にしていてくださいね」と微笑んで桜日も部屋を出て行った。


 そうして法雨双子と共に医務室に残された俺。


「……なあなあ、小春が姉で小麦が弟?」

「そうだよ」

「だよー」


 やっぱりか。


「あのいっくんと仲良いって本当?」

「本当?」

「冉兄とはいつからどういう繋がり?」

「繋がりー?」


 あ、やばい。法雨の人間からしたら俺って─────そう思った時にはもう遅く、双子から質問攻めにあってしまった俺は寝たふりをしてなんとかその場を凌いだのだった。

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