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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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六十九話・邂逅[3]



「ちょ~っと楽に甘すぎやしないかなぁ、リーダーさぁん?」


 項垂れた楽から聞こえてきたのは、弾んだ声。


「……お出ましか」


 まるで最初から拘束なんてされていなかったかのように目隠しに手をやり、ゆっくりと外す。

 そんな楽の髪は、真っ白だった。


「お待たせ。僕優しいから、お望み通り出てきてあげたよ♡」


 楽────いや、白偽は顔を上げ、不気味に光る瞳を覗かせた。その目は、真っ直ぐに男を捉えている。


「……それにしたって、そのまま見せるなんてもったいない真似してくれちゃってさあ……自分で気付かせるのが僕達年長者の役目でしょ」

「……おそらくだが貴様と比べたら、俺など赤ん坊に過ぎないだろう」


 その言葉に「あ、ジジイ扱いしたな~? ぎっくん怒っちゃうぞぉ」なんて茶化す白偽だったが、男は淡々と続ける。


「此奴には直接見せるくらいが丁度いい。むしろこうしない限りは信じないだろう」

「あれぇ無視かなぁ?? ……まあいいけど。でももうちょっと楽しみたかったんだよぉ? 僕としては」


 男は少し呆れたように間を空けて、それから白偽を見据えた。


「俺達に協力する気は無いか」

「それは楽次第だよぉ。……それよりさあ」

「なんだ」


 嫌な予感がして、男は臨戦態勢に入る。


「ここで僕が君をぶっ殺しちゃったら、君の描いているシナリオはぐっちゃぐちゃになっちゃうよねえ?」

「……!」

「もちろん楽がやったことになるから、構成員みーんなに命を狙われることになるよねえ、コイツ」


 言いながら胸に手を当て、くく、と笑う白偽。

 そうして不自然なくらい口の端を釣り上げ、言った。


「それも……すっごく面白そうだと思わない……? ────ねえ、つづる




   * * *




 一方、里冉達は拠点のすぐ近くまで来ていた。

 拠点の位置を確認するために木の上に登り、乗り込むタイミングを見計らう。そんな中ずっと術で楽の状況を探っていた白が「……まずい」と呟く。


「どうしたの」

「なんか戦闘してるっぽい。しかもさっきリーダーって聞こえた」

「なっ……! 他はなんか言ってた……!?」


 ずっと冷静だった樹も、流石に少し動揺する。その後ろで桜日が心配そうな顔をするのを見ながら、白は耳を澄ます。


「うーん……ちょっと前からノイズが酷くてほとんど聞き取れねえんだよな……」

「班長の術を遮るような強い術がかけられてる、とか……?」

「おそらく」


 少しこのメンツに慣れてきたのか恋華が発言した、と思ったらまた黙り込んでいた里冉がすっと木から下り、躊躇う様子もなく一人拠点の方へと走り出した。


「……ちょっ、兄貴、暴走すんなって言って……ああもう!!」


 追うしかなかった。むしろ里冉が暴走していなくても、楽が危ないなら乗り込むしかない状況だった。

 そう半ば無理矢理自身を納得させ、白は作戦開始を告げたのだった。




   * * *




「久しぶり、お坊ちゃま」


 先に突入した里冉を出迎えたのは、対峙したあの夜より少しピリついた雰囲気の柊だった。


 救出に来ることはなんとなく察していたような梯内の空気感に反し、拠点の入り口で一人で待ち構えていた柊。流石に正面から来るとは思っていなかったのか、それとも全てわかっていて柊一人で待っていたのか。拠点全体に他の構成員の気配はあるものの、里冉に向いていた敵意は目の前の男からだけだった。


「やあ。彼、どこ?」


 手短に聞く。柊は乾いた笑いを溢しながら「言うわけないじゃん」と答え、続ける。


「お前でもそんな顔するんだ、思わぬ弱点みっけ」

「今は無駄話してる気分じゃないんだよね。彼、どこ?」


 もう一度語気を強めて言う里冉。


「ははっ、殺気やべー」

「早く案内してよ、────」

「黙れ」


 打って変わった雰囲気の柊が、里冉の言葉を遮った。今度は里冉が口の端を上げる。


「へえ、やっぱり地雷なんだ」

「わかってるなら黙ってろよ」

「黙ってて欲しかったら案内しなよ」

「そりゃ無理な頼みだな」


 これ以上話しても無駄だとお互いに理解したらしい。柊の言葉が戦闘開始の合図となった。


 ────しかし、勝負はあっさりと決まる。

 数分後には失神する柊を見下ろしながら、居場所聞き出すの忘れた……と少し冷静になった頭で考える里冉の姿があった。


「本当に馬鹿だよね」

「樹……作戦通り来てくれてたんだね」

「まあ……そりゃ……」


 物陰から出てきた樹。彼は今日何度目かわからないため息を露骨に吐きながら、倒れている男を手際よく拘束し始めた。

 重傷こそ負わせているものの、なんとか白の指令は頭にあったらしい。里冉はとどめを刺さずに半殺しで済ませていた。一方的すぎて流石に少し可哀想だったな……なんて柊に軽く同情しつつも筋弛緩剤を射ち、さて、と立ち上がる。


「恋華ちゃんは?」

「先に奥行ってる」

「桜日ちゃんは」

「作戦通り」


 ていうか言うこと聞かないのアンタだけだよ、という弟からの冷たい視線に、里冉はうん……ごめん……と申し訳なさそうに眉を下げた。しかし呑気に会話をしている場合ではない。すぐに切り替え、次の行動へと。


「樹は恋華ちゃんの加勢に」

「わかってる」


 俺は桜日ちゃんと合流してらっくんを救出するから。

 言うまでもなく視線でそう伝え、別れた。




   * * *




 同時刻。桜日は白の指示通り拠点の裏から忍び込み、おそらく楽がいる部屋への最短ルートであろう廊下を偵察しながらどう突破するかを考えていた。

 絶対に何人かは楽のいる部屋の付近で待ち構えているはず。そこに能力が割れてる構成員がいればあるいは、と淡い期待を抱いていたものの、そう都合良くはいかないようだ。


 視線の先では全く見たことのない、ただ刹那が消えた日に五十嵐を襲ってきたあの女にやけに雰囲気が似ているくノ一が一人、楽がいるであろう部屋の前で番をしている。


 まだ距離があるため気付かれてはいないが、もう少し近づかないと部屋の状況が判断できそうな音や匂いなどの情報を拾うことも難しい。楽の安否が気になるが、未知数の相手に一人で、なんて無謀な行動は忍びとしては絶対に取るわけにはいかなかった。


 悔しいが里冉を待つしかない。そう思っていた時、目指しているその部屋の扉が開き、中から赤髪の少女が出てきた。


「松枷達を呼びに行くのか」

「あっ、はいっ!」

「気をつけろ、誰がどこに潜んでいるかわからない」

「はい!」


 幸い少女は桜日が潜んでいるのとは逆の方向へと走っていった。加勢を呼びに行く、ということはもしかすると今あの少女をつけたら他の拠点も割れる……? と一瞬過ってしまう桜日だったが、今回の最優先は楽を無事に里に連れ帰ることだ。桜日自身誰よりもそれを望んでいる自信はあるし、今は余計なことは考えるな。そう言い聞かせて偵察に戻る。


 そうして数分。里冉が来る気配がないことに段々と、まさかやられたんじゃ……と不安になる桜日だったが、今は信じて待つしかない。冷静に、機を伺う。スイッチは入れたまま平常心を保つために一度深呼吸をする。極限状態でも精神のコントロールをしなければいけない忍びにとって、呼吸は大事だ。


 落ち着いた桜日は作戦を思い出す。そうだ、最悪、里冉が来なくても動かねばならない。というのも、見張りを引きつけて突破するという作戦自体の実行は里冉ではなくもう一人、英樹との連携で行うことになっていた。

 見張りをしている構成員との能力の相性が確認でき次第どちらが相手をするかを決める予定だったが、全くの未知数ときた。能力の都合上、今回の作戦で白からの指示を受け取れるのは法雨の人間のみ。ピアスのスペアを持たされてはいるもののこちらの状況を伝えるだけで、白の声は聞くことができない。

 つまり指示を受け取っているはずの英樹が動かないということは、自分が引きつけ役である可能性が高い。里冉が来るのを待っているのかもしれないが、状況が状況だ。そう長くは待てない。桜日は目を閉じ、覚悟を決める。


 スゥ、と呼吸を整え───────瞬間、頭の片隅で違和感を感じとる。

 匂いだ。覚えのある匂いが急に近くなった。それを認識した途端、逃げなきゃとどこか本能的に思い、瞬時に戦闘モードへと切り替え目を開く。


「さっきから見てたのは君か」


 見張りをしていたはずのくノ一が、その躑躅色の瞳で桜日を見下ろしていた。

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