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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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六十七話・邂逅



 陽も落ちていた。今しかない。里冉も探さねばならなくなったし、迷っている時間はなかった。

 そうして急遽編成された『楽救出班(仮)』は、以前白班が見つけた梯の拠点付近に大急ぎで移動していた。


 するとピアスの探知を続けていた白が「いた……!」と少し安堵の色を孕んだ声を上げた。


「やっぱりか」

「冉兄も近くにいた」


 なんで拠点がこの辺りなこと知ってるんだ、と疑問に思う樹と白。でもまああの里冉のことだ、白班の調査結果をしっかり頭に入れていたとしてもなんら不思議ではない。二人ともすぐさまそう自己完結して、切り替える。


「まずは冉兄と合流しなきゃね」

「ああ」

「まさかこんなに考えなしに動くとは……」


 呆れを隠す気のない樹の顔を見て、はは、と思わず笑いながら白は「意外な一面見つけちまったな」と返す。すると樹は拗ねたような顔で吐き捨てるように言った。


「よっぽど楽がお好きなようで」

「嫉妬かぁ? 弟くん~」

「うわうざ。違うし」




   * * *




「ん…………」


 いつの間にか気絶していたらしい。

 目覚めてまず感じたのは、体の違和感。これはおそらく……拘束されて……。


「目覚めたか」

「………………はっ!?!?」


 どこか聞き覚えのある声に、意識が一気に現実へと引き戻される。

 目を開けて、状況と相手を確認しようとする。が、布か何かで目を隠されているようで依然視界は真っ暗なままだった。


「どこだここ!? お前……誰!?」

「話をするのは二度目だな、立花楽」

「は……? ………………っ、」


 なんで名前を、とか二度目って、とかなんで聞き覚えがあるか、とか。聞きたいことが山ほど出てきて、数秒。俺が聞くのをやめたことで察したらしい目の前のそいつが、口を開く。


「思い出したか」

「お前…………え…………あれは…夢じゃなかったのか…………!?」

「さあどうだろうな」


 そう、思い出した。あの奇妙な夢を。なんで忘れていたのか不思議なくらい、今は鮮明に思い出せる。初めて白い俺が暴れたらしいあの日、気絶している間に見たあの夢だ。

 真っ白な空間の中佇む、恐ろしく整った顔をした神様のような男。間違いなく今俺に話しかけているのはそいつだ。芯のある静かな声。道理で聞き覚えがあるわけだ。


 男は二度目と言った。つまりあれは夢のようでいて夢ではない。多分。もしくは今また夢の世界にいるだけかもしれない。視界が制限されているだけに正確な状況把握が一向に進まないな。


 なんて考えながらも、あの夢での男の言葉を思い出す。

 そうしてあの時から感じていたことを改めて、問う。


「梯……なのか……」

「ああ」

「お前が……頭か……」

「ああ」


 案外あっさり認めるんだな。なんて少し拍子抜けしてしまうが、確定したところで状況が好転するわけでもなく。

 今俺多分だけど梯の拠点にいるよな。しかも拘束されて、目の前にはリーダーがいて。……殺されるのか? 今? ……いや、そのつもりで攫ってきたならとっくに目覚めることのない状態になっているだろう。意識が戻るまでリーダー直々に待っていたということは、それなりの理由があって生かされていて、しかも多分話がしたい……って感じか。

 白雪さんとの会話を思い出す。今の俺には梯が目をつけるだけの価値なんてない、と。ずっとそう思っていたんだけど。どうやら思ったよりあちらさんは俺に興味があるようです、参謀。


「……丁度いい、二つ、聞いていいか」

「答えるとは限らないが」


 まあそうだろうよ。

 思いつつも、最も聞きたいことが先に口をついて出る。


「師匠を……どこやった…………?」

「師匠……ああ、刹那のことか」


 明らかに知っているという口調。思わず体が反応し、拘束具がギチリと音を立てた。


「やっぱりお前達が……ッ」

「いいや、刹那自身の意志だ」

「…………は?」


 耳を疑う。男は続ける。


「彼は自らの意志で、俺達の仲間になることを選んだ」

「そん…な……嘘……だろ……」

「信じられないか? そりゃそうだよな。信じていた師匠が敵に寝返るなんて、考えたくもないことだったろう」


 聞きたくなかった言葉に、いとも簡単に動揺する心。……いや冷静になれ、俺。忍びらしくない。相手の術の可能性だってあるんだ。俺の心を折るためだけに嘘をついているのだとしたら、ここで折れたら思うツボだ。


「……なんで……」

「本人に聞くか?」

「……っ、」

「まだ受け入れられない、か」


 そう言いながら男の気配が少し近づいてくる。


「わかった、先に二つ目を聞いてやろう」


 落ち着き払った声。威圧感はあるが不思議とあまり嫌な感じはしない。殺気が無いから……か?

 朱花や関西弁の黒外套の男を思い出す。俺達──甲伊が抱いている梯のイメージとかけ離れた構成員が、確かにいる。

 判断するにはまだ早い気もするが、もしかしたらリーダーも、そうかもしれない。


「…………俺を……どうする気だよ……」

「ふむ、そうだな。結論から言おう」


 答えるとは限らないとか言っておきながら親切に結論から言ってくれんのかよ……と思ったのも束の間、男が発した次の言葉でほんの少し緩みかけていた緊張の糸が再び張り詰めることとなった。


「我々はお前の〝白偽〟の力が欲しい」

「しろ……ぎ……???」


 思い当たる節はあった。

 むしろ名前を聞いた瞬間、確信してしまった。


「記憶はないのか」

「…………っ、まさか」


 認識したくなかった。

 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、男は無慈悲にも言葉を続けた。


「うちの構成員が見ていたのだ、あの夜、お前が白偽となって暴れていたところを」

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