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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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六十話・独善[2]



「ところでさ」

「ん?」


 神社で千昊を待つことにした俺達。

 ただ待つだけでは時間が勿体ないので並んで#息長__おきなが__#をしていたが、珍しく樹が修行中に口を開いた。


「ずっと気になってたんだけど、楽は元三人目のことを調べて……どうしたいの?」

「あ~……最初はただの好奇心だったけど……」


 語尾を濁すと、樹が「……まさか仇討ちたいとか考えてないよね?」と言うので、俺はうーん……と考え込む。


「え、うそでしょ……流石にやめてよそれは……」

「あぁいや、うん、それは思ってない」

「そう……ならいいんだけど」


 漠然とあった考えを言語化することは難しいな、と思いながらも、話を始めた。


「……なんつーか初めはさ、アイツら……茶紺と恋華は同じ敵を見てるのに俺だけ蚊帳の外で、なんで話してくれないのかとか、ちょっとムカつくから勝手に調べてやる、とか思ってたんだよ」

「うん」

「でも知ってく内に俺まで段々アイツらが大事にする仲間を、茉央を、アイツらから奪った奴が憎くなってきて」


 樹が黙り込む。俺は続ける。


「とはいえ俺が仇を討つのはなんか違うことはわかってて……でもこのまま野放しにしておくのも、茶紺と恋華が仲間の死に囚われて漠然と甲賀を嫌いなままでいるのも、朱花が梯に行ってまで復讐しようとしてるのも、どれもこれも俺には黙って受け入れるとか無理でさ」


 まあ最後のは完全なる憶測でしかないけど、と付け足す。


「だから、どうしたいかって質問の答えは……今はわかんねえ。でもこのどうしようもない状況をどうにかしたいって思ってんのは確か」


 現時点での結論まで話し終え樹を見ると、納得したようなしていないような、そんな顔をしていた。


「楽らしい答えだなぁ……」

「そうかな」

「うん、バカっぽくて」

「おい」




   * * *




 山中にある小さな神社。当然、周りは森である。

 その木の上に、ひっそりと二人の話に耳を傾ける人影が。


(…………本当、らっくんらしい答え……)


 先に下山したはずの案内役は、今度こそ他の班の偵察に戻るのだった。




   * * *




 千昊を待つ。


 それは俺達の想定より根気がいる選択だったようで、辺りが暗くなっても奴は神社に戻ってこなかった。その後も修行をしながら待ち続け、日付が変わった頃。流石に交代で寝るか、と野営をすることになり、樹を先に寝かせた。


 そうして一人で見張りをすることになった俺は、なんとなく解散前に里冉が言っていたことが気になって、思い出していた。


 危険、か……。

 まあ間違ってはないし、なんなら里冉の言う通りではあると思うんだけど、やっぱりアイツは俺のこと忍びとして信頼してなさすぎると思うんだよな。(俺弱いし、気持ちはわからなくもないけど……)


 忍びの任務は、何よりも生きて里に帰ること。

 こんなところで簡単に死ぬわけにはいかないし、俺だってミサンガ渡さないまま死ぬとかダセェことしたくないし、せめて姿を消したあの日の話をちゃんと聞いて許してからじゃないと嫌だ。

 ……ってどんだけ俺が死にたくないって思ってても、そう上手くはいかないことも、頭ではわかってはいる。いつ梯の構成員に遭遇してあっさり頭を跳ねられるかもわからないし、現に数時間前も千昊に眼球を狙われたっていうのだから、里冉が心配するのもそりゃそうだ。

 いつどんな想定外が俺を殺しにきても、おかしくない。


(でも『危険だから』なんて理由で乗りかかった船から自分だけ都合よく脱出すんのも違うし、な……)


 空を見上げる。

 雨隠れとも呼ばれる甲賀は雨が多いらしいが、そういえば今日は運よく晴れていた。おかげで、綺麗な夜空が俺を見下ろしていた。


(樹は今頃夢の中かな。どんな内容かちょっと気になるな……つかそもそも夢見んのかなアイツ……)


 里冉が出てきた日は「酷い悪夢だった……」とか言ってそうだな~、なんて考えて思わずくふふと笑ってしまう。

 樹って口は悪いし、里冉と仲良い俺の前であろうと容赦なく里冉の悪口言うけど、有る事無い事でっちあげてなんでもかんでも悪く言うってわけではないし、なんなら『里冉のことをよく知ってる人しか言えない悪口』が多いからあんま嫌な気分にならないんだよな。

 酷いこと言ってるけどなんだかんだコイツも里冉のこと好きなんだな~って思える悪口っていうか、うん、アイツのことちゃんと見てる人にしか見えてこない短所を鋭くツッコんでるだけ、ってのが多いんだ。そんでやけに的確(事実)だからこそ俺もアイツも下手に言い返せない、っていう。


 嫌いなとこ語らせたら下手したら俺より詳しく里冉のこと饒舌に語ってる樹が見れるんじゃないか、なんて思った瞬間、胸の辺りがなんだかモヤッとした。

 そりゃ弟だし、知ってて当たり前……なんだけど……少し妬けてしまう。

 思えば甲賀者に知り合いの少ない俺にとって、樹って初めて目の前に現れた『俺より里冉を知る奴』……なんだよな。


(なんか今急に……昨日里冉が言ってたこと、分かったかも……)


 俺の知らない里冉の話を聞く度、本当は遠い存在なのだと、俺はアイツのことを何も知らないのだと、嫌でも実感させられてしまう。

 それが少し、痛くて、悲しくなる。


 里冉は樹に俺の話を聞いたりはしないんだろうしちょっと違う気もするけど、自分の知らないところで仲良くなっているというのは確かに遠く感じてしまいそうだし、不安になる……のだろう。ていうかそう言ってたし。


(………遠いままなら割り切れてたことが……同じ班になって、近くなって、割り切れなくなってきてる……?)


 なんて考えていたら、いつの間にか人の気配が一つ増えていることに気が付く。


 一瞬千昊が戻ってきたのかと期待したが、昼間感じた気配とは全然違う……なんだ? 千昊よりずっと嫌な……気持ち悪い気配……いや、視線……?


 千昊からも異質な好奇心のようなものを感じてはいたが、今のこれは……くそ、わっかんねえ、でもなんかこう、ゾワゾワする……!


「誰……だ………?」


 恐る恐る声に出してみる。すると気配はこちらに近づいてくる。


「ねえ、君が千昊に偽の依頼を持ち込んだ子で、合ってる?」


 返ってきたのは、中性的な高い声。おそらく男だ。

 というかこの声……どこかで聞いたことのあるような、無いような……。


「アンタ……千昊の知り合いか……?」

「そ。こんばんはぁ!」

「ひっ……!?」


 飛び上がる俺。なぜなら声の主が急に目の前に現れたからだ。

 長い黒髪にライムグリーンのインナーカラーを入れたその若い男は、やはりどこかで見たような気がする。


「ね、ね、君で合ってるんだよね?」


 そいつはインナーカラーと同じ色をした瞳をやけにキラキラさせ、至近距離で俺の顔を覗き込んでくる。

 その瞬間、気持ち悪さの理由がなんとなくわかった。これは多分、人間相手に向ける視線では、無い。


「そ、そう…だけど……」

「やっぱり! んっふふ、ねえその〝目〟ちゃんと見せてよぉ……♡」

「目……?」


 なんでだ……? と聞く暇も与えず、そいつは俺の顎を引っ掴んで顔を月光の方へと向かせる。


「……ッ!? な、何す……」


 男は、期待に満ちた目で俺の顔を凝視してきた。

 あまりに突然のことに固まってしまい、そのまま数秒されるがままに見つめられていた俺だったが、男がゆっくりと手を離したことで体に自由が戻る。一先ず解放されたことに安堵するが、一方で男は俯いて、だらりと両手を垂らした。


「……れた」


 何を言ったか聞き取れず、聞き返しかける。直後、俺は勢いよく胸ぐらを掴まれた。


「騙された!!! 千昊の奴!!!! 許さねえあのクソガキ!!!!」

「……っ!?!」

「悪魔の目じゃねえじゃん!! 本物見つけたって言うからわざわざこんな山奥まで来てやったのにさあ!!!! ハアア!!? ふざっけんなよアイツ!!!」


 さっきまでとはあまりにも違いすぎる男の様子についていけず、困惑する俺。

 ていうか今なんて言った? 悪魔の目? は……?


「ああぁ~~~~……!!! やっと、やっと本物が手に入ると思ったのにィィィ……!!!!!!」


 男はヒステリックにそう叫びながら、地面に叩きつけんばかりの勢いで俺を掴んでいた手を離す。そしてその場に蹲り、頭を抱えた。


「また……また偽物……あぁぁ許せない……二度もボクを騙すなんて……あのガキ……いつか絶対コレクションに加えてやる……許さねえ……クソがぁぁ………………いや……そういえばアイツ……髪が白くなった時って言ってなかったか……あれ……じゃあ今は普通で合ってるのか……なんだ……そうか……まだ偽物と決まったわけじゃ……まだ……まだ……」


 投げ出された体勢のまま呆然と男の様子を見ていた俺は、ハッとする。

 コイツはやばい。まずい予感しかしない。逃げなきゃ。今すぐ。樹を起こして────


「どこいくの、ボクの悪魔の目」


 逃げ出そうとした俺の左腕に、何かが刺さった感覚。

 その瞬間、体がピクリとも動かなくなる。


「ええ~、どうやったら白髪になるのかなぁ……?」


 辛うじて動かせる視線を腕に向けると、棒手裏剣が深く突き刺さっているのが見えた。


「声も出せないくらいの恐怖が何分か続くとなるんだっけぇ……ああでもそれは眼球飛び出ちゃうってどこかで聞いた気もするし美しい物は手に入らないかもなぁ……じゃあストレス与えてみる……?」


 少しずつ声が近付いてくる。そのあまりの恐ろしさに、棒手裏剣のせいで動けないのか恐怖で動けないのか、分からなくなる。

 樹に助けを求めたいが、声も出せない。

 気付けば体は意思に反してゆっくりと男の方を振り向いていて、こちらを見つめるライムグリーンの瞳と目が合う。


「逃がさないよォ…………♡」


 男が拳を振り上げるのを、俺はただ見ることしかできなかった。


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