表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
58/105

五十七話・模倣宝石



 報告会の後、俺は樹と共に伊賀のとある家に向かっていた。


 とある家。それは桔流家である。

 というのも、次に話を聞こう! と決めた相手が何を隠そう俺の友達、雨なのだ。


 雨は忍びではない。のに、昔から一部の間では情報通として知れていて、伊賀内では顔が広く、いろんな情報を持っている。まあもちろんなんでも知ってるわけではないし忍びの専門的な話だったりはあまり期待できないのだが、俺はよくその情報網を頼っていた。朔様の弱点がトマトだということも雨から聞いたものだったりする。

 情報通になるほどのコミュ力を備えているにもかかわらずアイツが忍びの道を選ばなかったのは身体能力的なものもあるのだろうけど、おそらく俺達忍びが頼れる〝知る人ぞ知る情報屋〟という役割を全うしたいから…なんじゃないかと俺は思っている。忍びじゃない、という立場を逆に利用しているあたりもマジで向いてそうなんだけどな、忍び。


「あ、そうだ樹」

「何」

「情報提供料としてお前の情報求められっと思うから、昨日の一匹狼で俺しか友達いない新人影忍って設定元にして、話せることなんか適当に考えといて」


 昨日買ったお面をつけて隣を走る樹にそう言うと、あからさまに嫌そうな声で「えぇ……なんで俺……」と返ってきた。


「俺の情報はもう話し尽くしてるし、昔の記憶ないことも知ってるから聞いても面白くないってわかってんだよなアイツ。で、そんなつまんねー俺のツレとして雨が今まで全く知らなかったお前って存在が急に現れる。するとどうなる」


 察したけど言いたくない……という風に黙り込む樹だったが、俺が何も言わないので観念したらしい。お面の下から小さく答えが聞こえてきた。


「……情報通としては俺のことも把握しておきたくなる」

「そ。だからほぼ100%お前が標的になんの」

「…………わかった」


 と言いつつめんどくさいオーラをこれでもかと発してる樹。まあでもなんだかんだちゃんと協力してくれることはわかってるし。大丈夫だろ多分。俺もフォローするし。


 そんなこんなで辿り着いた目的の家。

 いつものように雨の部屋の窓に小石をぶつけて来たことを知らせ、中へと上げてもらう。友達の家だし普通に正面から訪ねればいいのだが、情報屋として頼る時はこうすることにしているのだ。


 そうしてまず朱花と茉央について話を聞いた。しかし、これといって目ぼしい話は出てこなかった。どうやら二人共友達が多い方ではなかったようで、情報が少ないらしい。やっぱり樹が言ってた『俺達のは例外』が正しかったみたいだ。


「朱花の水遁が茉央への対抗ってのはマジなのか?」

「ああ、そんな噂もあったね。本人がそう言ってたかどうかはわかんないけど、属性的には有利だし、時期的にもその可能性は高いと思う」


 やっぱりそうか。そんな噂があった、ということは梅雨梨はそれをどっかで聞いたのかな。


「あとこれはもしもの話なんだけどさ……朱花が梯に寝返るとしたら、動機はなんだと思う?」

「え、それは流石にわかんないな~……でも梵さんか茉央くんが関わってる可能性は高いと思うよ。それ以外に執着してる印象全くないから。楽もでしょ?」

「まあ確かに……茉央はわかんねえけど、梵さん中心に世界回ってそうなイメージあるわ」

「だよねえ」


 じゃあ梵さんが梯だったら寝返る可能性あるよね、という話になり、それマジでありそうで怖いからやめよ……と話を切る。すると雨が急に俺の目をじっと見つめながら黙り込んだ。え、お、どうしたんだ急に……?


「……そういえば彼、変わった目をしていた気がするな。楽とはまたちょっと違った赤い目……なんていうんだろ、緑っぽくも見える? 混ざってる? みたいな」

「赤なのに緑……?」

「あ~あれだ、アンモライトって宝石みたいな感じ。アンモナイトって化石知ってるでしょ? それの宝石なんだけど」

「なんか貝みたいな……ぐるぐるの……」

「そうそう」


 赤と緑……どっかで見た気が…と考えている俺の元に、雨が部屋の本棚から宝石図鑑のようなものを持ってくる。

 それを開き、これこれ、と雨が指さした写真を見た瞬間、俺は思い出した。吟だ。吟の目がこれに近い色だったのだ。


「目の話で思い出したんだけど」

「お、あ、うん」


 吟の目の色とあの時の過呼吸になっている姿を思い出して混乱しかけたが、雨の声で引き戻される。そうだ今は取り乱すべきじゃない。雨に興味を持たれると厄介だし、吟のためにも冷静に……冷静に……。


「茉央くんの遺体、見たのは葬儀屋と一部の上の人と火鼠のメンバーだけなんだって」

「……? そんなもんなんじゃねーの、普通。あんま見るもんでもないだろ」

「そうなんだけどね。ただ他人である人達が見てて家族が見てないの、変だと思わない?」

「…………あ、たしかに?」


 言われて見ればそうかも知れない。ていうか普通なら葬式で遺族が対面促してくれたら顔見れるけど……その遺族ですら見てないって……おそらく上の見せないって意志が働いてた……ってことだよな……?


「そんでこれは情報というよりはただの噂なんだけどね」


 わざと内緒話をするときのように俺に顔を寄せて、雨は言った。


「彼のご遺体、〝眼球がくり抜かれていた〟……って」

「………………は?」

「だからほら、あまりにも……な姿で見つかったせいで遺族に見せられなかったんじゃないかなって読んでるんだけど……」


 雨は「ま、ちょっと小耳に挟んだ程度の話だから信じるか信じないかは楽次第だね~」と軽く続ける。一方で、俺はここにきてかなり重要な情報が出たんじゃないか? と考え込む。

 するとずっと静かに聞いていた樹が「噂の出どころ……わかんないの」と雨に話しかけた。


「出どころね~それが全くわかんないんだよね! 噂自体一部の上忍の間でちらっと流れただけ~みたいなことは聞いたけど、誰からかは見当もつかないね!」


 樹からの質問に嬉しそうに答える雨。これは……次の言葉、あれだな……。


「ところで君! 楽の友達なんだって? 名前は? 所属は? 得意な術は!?」


 やっぱりな。発言した途端、俺の読み通り樹が雨の標的になった。


 それからはもう雨の質問攻めのターンだった。一応もらった情報の分は答えてやろうぜ、と樹に目配せし、適当に考えた新人影忍のプロフィールや俺との関係性を雨に話した。

 ……がしかし無限に続く質問攻め。流石に樹が助けて……という視線を向けてきたので、「俺達これから任務だからさ~」とかなんとか言って、そそくさと桔流家を後にした。それにしても本当に樹の偽の情報で交換になるとはな……次来た時にもしバレてたら俺も変装だって知らなかったんだ~とかうまいこと言って謝っとかねーと……。


 そうして本部に戻る道中、昨日アイスを食べた辺りの公園に立ち寄り、雨から聞いた情報を交えて茉央についての話をすることに。


「……雨の話が本当なら、多分甲賀の奴が目だけくり抜いて死体を放置してた? ってこと……だよな」

「死体をあっちで処分しないあたり、梯ではなさそうだしね」

「……いや、この前首なし死体をわざと返してきやがったから絶対ないとは言い切れない」

「あ、そっか」


 偽空翔の話は対梯班のメンツには話していいとのことだったので、初期の方の班会議で話していた。本当なら甲賀者には絶対知られたくないような事件だと思うのだが、それを許可して少しでも梯の情報を共有しようとしているあたり朔様も本気で梯を潰しにかかっていることがわかる。


「でも茶紺達の話と照らし合わせるとやっぱ甲賀っぽいよなあ」

「それに甲賀者による猟奇殺人なら、里が隠したのも納得がいく」

「そうなんだよな」

「……万が一これと朱花って奴が失踪したこと、繋がってるとしたら」


 もしかして……と顔を見合わせる。


「甲賀者への復讐……が目的だったりして」


 まだ繋がってるとは言い切れない。しかし、雨も言っていた通り朱花が執着していたのは梵さんと茉央くらいだった、というあたりから考えても可能性は大いにある。

 もし本当に梯に寝返っていた場合は、尚更。甲賀者への復讐となると、伊賀を出た方がやりやすいに決まっているからな。


「仇討ち……か……」

「まあでも配属後は不仲だったみたいだし、復讐しようなんて思わないかもだけど」


 そうか……そうだよな……不仲……不仲かあ……。


「……もし里冉が伊賀者に殺されたらどう思う?」

「…………絶対聞く相手間違ってるよそれ」

「俺もそうだろうなって思いながら聞いた」


 間違ってるよと言いつつちゃんと考えてくれるあたりが流石だなぁ……と思いながら答えを待っていると、意外な言葉が返ってきた。


「……まあでもちょっとくらいは腹立つかも」

「お? マジ?」

「なんで伊賀者なんかにやられてんだよバカ兄貴。法雨の名を汚す気なの、って」

「ああ……ハイハイなるほどね……」


 里冉に教えたら喜ぶんじゃねえかとか一瞬思った俺がバカでした。いつもの樹だわ。


「楽なら?」

「え、俺ぇ? 誰が死ぬ前提で?」


 聞き返すと、えっ……と考え込む樹。


「……………………誰だろ、不仲って思いつかない」

「だよなあ、俺も」

「え? マジで仲悪い人いないの?」

「まあ………」


 思えばこう、面と向かって不仲! って相手はいないな……あんま関わってないから別に仲良くはない、ってのはそりゃいるけど……基本的に悪くはならない、かな……。

 てか一方的に嫌われたりすることはあるけど、俺からは別に嫌いじゃなかったりするし、嫌うくらい俺に関心あるってことだから話してみたら案外あっさり打ち解けたりもするしな。


「おかしいって絶対」

「初対面で合わないかも、って思っても気付いたら仲良くなってるんだよなあ」

「俺とか?」

「あ、今仲良いって認めてくれた」

「…………忘れろ」


 やだ~と笑うと、ぐぬ……と眉間に皺を寄せる樹。嘘だろそんなに認めたくなかったのかよ。


「ていうか、そもそもなんで眼球くり抜かれてたかは……」

「ああ、それなんだけどさ……俺、茉央に似た目の奴知ってるんだよな……」

「……もしかして吟って子?」

「なんでわかんの」

「目の色の話聞いたときの楽の様子からして、昨日の忠告と繋がったのかなって思って。あの子が前髪長い理由もそれなんでしょ、多分」

「すげえなお前、よくわかったな」


 察し良すぎるだろ、と感心する俺。それから目の話を聞いた時に直感的に思ったことを、改めて言語化してみる。


「怯えてたのも忠告も、多分この目がくり抜かれてたって話をどっかで聞いちまったせいなんじゃねえか、って……」

「ま、現時点じゃそうとしか思えないよね」

「しかも俺アイツの目見たとき『宝石みたい』って言っちまっててさ……」


 樹のうわ……というリアクションに、まあそうなるよな……と苦笑する。

 アンモライトというあの目に似た宝石があることは今日知ったが、知らなくても宝石と形容してしまうほど綺麗なものであることは確かだ。吟は俺にあの目の本当の価値(?)を知られたくなくて、忠告をしたのかも……。


「もし本当に茉央の目を狙った猟奇殺人とかだった場合、吟も危ないかも知れない……ってことだよな……」

「まだそいつが狙ってるかどうかにもよるけど、少なくとも狙われるほど価値のあるもの……ってことは確定しちゃうよね」


 ま、全部推測の域出てないし、的外れな推理かも知れないけど……と続けた樹。

 俺としてはむしろ的外れであって欲しい。でないと吟はこの先ずっと目を隠したまま怯えて過ごすことを余儀なくされてしまう可能性すらある。そんなのは嫌だ。……嫌だけど、なんとなくこの推測は当たってしまっている気がする。くそ、頼むから違ってくれ。俺とお揃いの赤目だね、って隠さずに笑い合える世界であってくれ。


「……いっそ全部繋がってなくて、目がくり抜かれてたことに理由はなくて、朱花がいなくなったのはただの家出で、殺したのも甲賀者じゃなかったらいいのに……とか思ってるでしょ」

「マジで察しいいなお前……」

「楽がわかりやすいんだって。顔に書いてる」


 そうかなあ……と両手を頬に持っていく。本当に書いてるわけはないんだが、なんとなく。

 数秒そのままでいたが、ぱちん、と両頬を打って弱気な思考を切り替えた。


「よし」

「何がよしなの」

「帰って修行すっぞ」


 あぁはいはい、と言いながらもどこか安心した様子の樹。さては俺がこのまま調べるのやめるって言い出すんじゃないかとか思ってたな? 残念、逆だ。吟が危険かも知れないのなら尚更このままにしておくわけにはいかないのだ。流石の樹でもそこまでは察せなかったか。


「……そういやさ」

「うん?」

「なんで梯急に大人しくなったんだろ」

「……確かに、最近目撃情報とか聞かないね」


 思えば対梯班ができてからは一度も姿を見せていない。他の班が遭遇したという話も聞いていない。


「師匠達がいなくなって、身虫が発覚して、それ以降……だよな」

「考えられるのは……」

「新人研修と歓迎会で忙しい……?」

「いや梯……え……そんな感じなの……?」

「なんか俺の知ってる構成員みんな仲良さそうだったから……寝返ってたとしたらそうかな、みたいな……」

「ええ……」


 樹が困惑している。そうだよな。自分から言っといてなんだが俺も新歓で忙しいからって大人しい梯はなんかちょっと嫌だ。


「……このままずっと大人しくしててくれたらいいのに」

「そうもいかないから今俺達が強くなろうとしてるんでしょ」

「そうなんだけどな~……」


 俺が茶化したせいで言わず終いになっているが、さっき樹が考えていたことは多分〝何か大きなことを企んでいる〟……だろう。


 偽空翔のときもそうだ。直接はあまり現れず、裏でコソコソ盛大なサプライズ発表のために動いてやがった。それも、関係ない人達の命を奪いながら。

次は一体何をしてくるのか、恐ろしくないと言えば嘘になる。でも俺達忍びはそんな脅威から里を守るために存在するのだ。ビビってる場合じゃない。


 とにかく今はこの〝元三人目の調査〟という任務を、樹と二人でやり遂げてやる。


 宵闇に包まれ始めた里を樹と並んで走りながら、そう決意した俺なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ