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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
56/105

五十五話・手掛かりと忠告




 翌日。いつも通り本部に集まった俺と樹は〝元三人目の調査〟という任務の為に動き始めていた。

 今は俺が考えてきた作戦を実行する為にとりあえず目的地に移動しつつ、樹にその内容を説明しているところだ。


 俺の作戦は忍びに色を替える、つまり難度の高いであろう元三人目の死や仇について直接調べるというのは避けて、易しい方法……元三人目に近しい人物(できれば茶紺と恋華以外)を調べてそこから元三人目に辿り着く、というもの。

 調査難度の順は、長>十二評定>直属班>ヒラ忍者>一般人と考えるのが妥当だ。なので手始めに最も易しい一般人から、そして俺は『元三人目に近しい人を知ってるかもしれない一般人』に心当たりがあった。梅雨梨と吟だ。そう、今向かっているのは菊の露である。


 そして今回行うのは、調べていることが極力バレてはいけない聞き込み。なので、実際聞き込みに行くのは伊賀の住民と話しやすい立場を既に持っており、比較的話術の類が得意な俺がやることに。

 忍びが得意とする大を小に、小を大に見せることの応用(実際は重要ではない話の優先度を高く見せかけて聞きたい話をどうでもよさそうに振るとか)、問うに落ちず語るに落ちる、喜車の術、うつけに見せる方法……あたりを上手く使いこなして、相手に自ずと語らせる。

 ……ってのができればいいな、と思ってはいる。ノープランだったとはいえ氷璃さんにあっさりバレたりしたし、ぶっちゃけあんま自信はない。

 樹にはとりあえず菊の露では盗聴のできる場所で待機してもらい、俺が聞き逃していたことがあった場合の保険と万が一の時の対応を任せることに。


 ちなみにこの後の聞き込み場所によっては二人で行う可能性もある為、樹には昨日言っていたように伊賀を歩ける変装をしてもらっている。いつもの特徴的な羽織やピアスは外してもらって、これといって特徴のない普通の忍び装束に。設定は……あまり表に存在が出ないから顔が知れていなくてもおかしくない影忍の新人、ってとこか。……にしても顔がいいので面をつけさせるかマスクをさせるかしないとな、と思い、その調達の為にも菊の露に来たのだった。


「梅雨梨~~~」

「お、楽。どしたの今日は」


 買い物。と簡潔に答えて、忍び向けの売り場へと向かう。


「何をお探しで?」

「それがさ~苦無なんだけど……この前もらった紅がなんか、いろいろあってあんま使えなくなっちまって」

「えぇ、なんでさ」

「話すと長くなる」

「あ、そう……」


 どうせこの後するだろうし紅の話に食い下がれられる前に「あと俺用じゃないんだけど狐面か猫面か……ある?」と聞くと、梅雨梨は店の奥から何種類かのお面を引っ張り出してきてくれた。そしてにやにやしながら「楽のじゃないんだ?」と聞いてくる。まあそうなるよな。


「……言っとくけどただの友達だかんな。梅雨梨が期待してるような関係じゃねえから」

「ええ~? ほんとかな~」

「…………逆に聞くけど、俺に彼女ができるように見えんのかよ」

「そんな切ない返しされると思わなかった」


 まあでも楽モテるイメージあるけどなあ、年下の男の子に。と言われる。それ絶対卯李と吟のことだろ。あとがくゆう。モテてるって言わねえんだよそれ、と思うがこの話は広げると俺がこれ以上の火傷を負うことになりそうなので面はさっさと目に付いたものを買うことにして、苦無を選ぶ流れに持っていく。


「ど~しよっかな……」

「どういうのがいいの? 紅は完全に使えなくなったわけじゃないんでしょ?」

「ああ、うん。使用頻度が落ちるって感じかな……」

「ほんとに何があったのさ……」

「あいつ、付喪神でさ」

「つくもがみ……付喪神ぃ!?」


 なんだ、梅雨梨も知らなかったのか。使い方次第ではゴミになるとか言ってたし知ってるもんだと思ってたが……。


「いやぁあの時は元の持ち主が言ってたことそのまま言っただけだったんだよね。ぶっちゃけ忍びじゃない私に忍器の良し悪しってわかんないしさ」

「なんだよ……てか元の持ち主!?」

「え、どしたの食いついて」

「あいつ、前使われてたときの記憶がないみたいで、能力の詳細が自分でもわかってないんだよ。だから生きてるなら是非とも会って色々聞きたいんだが……!?」

「ん? あれ? あんまり使えなくなったんじゃなかったの……?」

「あ……おう、そうなんだけど」


 とりあえず梅雨梨に端折りつつも紅についてのことを話した。いつのまにかアイツと話せなくなっていたことも。


「なるほど。それで意思疎通ができないから使えない、と」

「いや、なんつーか『使おうと思ったら使えるけど紅の意思が聞けない状態で能力だけ利用するのは気が乗らない』……って感じかな、どっちかっつーと」


 自力で壁を壊せなかった俺が主人面すんのもあれだし、と心の中で付け足す。


「はあ~楽なりにちゃんと考えて向き合ってるんだねえ」

「改めて言われるとなんか恥ずいけど……まあそうだな……」

「偉いぞ~、物を大事にするのはいいことだ。紅が気に入ったのは楽のそういうところなんだろうしね」

「なんだよ急に褒めんなよ恥ずいだろ」


 そんで、元の持ち主って生きてんの? と話を戻す俺。しかし俺の期待に反し、梅雨梨は「あ~……」と目線を逸らす。


「言えない……かな」


 思わぬ答えに、「え」と声が漏れる。


「それがさ、ここに紅を持ってきた時に自分のことは秘密にしてほしい……って言ってたんだよね。あとそもそもその人が自ら紅を使ってたかどうかも怪しいし……」

「あ、なるほど、主人とは別の奴が持ち込んだ可能性もあんのか」

「そ。ていうかその可能性の方が高い」


 あんまこういうこと話すべきじゃないんだけど……と梅雨梨は続ける。


「使わなくなったから売るってのももちろんあるにはあるけど、うちにある古い武器はだいたい主人を失った物、だよ。……里が回収したものとか、身内が持ってたけど手元に置いておくのは勿体無いから、とか」


 なるほどなあ。それにしても『秘密にしてほしい』って、どういうことなんだろうか。また気になることが増えちまったな……なんて思うが、これに関しては俺が調べるのは不可能に近いだろうし、現時点で唯一の手掛かりである梅雨梨は無理に聞き出すなんて手は使いたくない相手だ。今はそっとしておこう。


 ……立花の忍びに使われてたって言ってたし身内の可能性が高いようにも思えるが、紅のそれがいつの記憶なのか定かでないあたりあまり期待はできない。あれほどの能力を持っていて、立花という伊賀では有名な忍びを主人に持っていた……のに、俺や周りがあまりにも紅の噂や活躍の話を聞いたことがなさすぎる。まあ忍びの世界じゃ活躍の話なんて広まる方が稀だが……。


 ふと、もしかしたらアイツ結構やべー物なんじゃね……? という考えが頭を過ぎる。

 いやいやいやいや……いや……有り得るな……アイツも里に存在隠蔽されたものの中の一つだったりするのかもしれない……だとしたらなんで菊の露にあってあっさり俺の手に渡ってんだって感じだが……いやどうなんだ…隠蔽されてからしばらく経ってた場合はこうなってもおかしくない…よな……。

 まあいいや、今はこの話は。


「……で、紅とまた話せるようになるまでの繋ぎの相棒を探しにきたんだよ今日」

「そうだ、そういう目的だったね」


 そういう目的……に見せかけてるんだけどな。

 本当の目的は苦無ではなく元三人目について聞き出すことだ。おそらく樹は今かなり暇しているだろうし、そろそろ本題に入りたい。


「梅雨梨なんかおすすめある?」

「楽が持つなら軽いのがいいよね」

「あー確かに」


 そんな調子でしばらく色々物色したあと、うぅんと唸る。やっぱり火鼠としての俺には、紅があまりにも最適だったから。


「火鼠らしいのがいい……」

「あ~やっぱそれで悩んでんのね」


 苦無に火遁を求めるのがまず間違っているのだが、紅を知ってしまった以上普通のものではピンとこなくなってしまっている。困った。

 ……もしかして話せなくなったの、紅に頼ってないでちゃんと王道の火遁から習得し直せっていうお告げだったりすんのかな。だったらむしろピンとこないものの方がいいのか、はたまた……。


 なんて悩みながら、しれっと「……俺入る前の火鼠の奴ってどんな忍器使ってたんだろ」と呟いてみる。するとあっさり「あー、ごく普通のだった気がするなあ」と返ってきた。


「梅雨梨ってやっぱ誰が何買ったかって結構把握してんだな、すげえ」

「まあね。店主なんで」


 それから梅雨梨は「それこそ苦無ならこんな感じの~……」と王道デザインのthe苦無! という感じのものを手に取った。確かに普通だ……という感想が俺の口から漏れる。


「え……なんで火鼠だったんだろソイツ……特別な忍器に頼らないってことは異能持ちだったとかかな……それか瞳術か……? 火遁の瞳術ってなんか…かっこよさそうだな……」


 一人で勝手におそらく違うであろう方向に想像を膨らませる俺。元々バカっぽいとよく言われるのでうつけのフリは得意だ。(もはやフリなのかはわからないが)

 すると梅雨梨はあははと笑って、先程手にした苦無を持ったまま俺の隣に来る。


「なんかね、確か茶紺が班長に任命されるタイミングで恋ちゃんが入ることはすぐに決まってたんだけど、あとの一人は迷ってたみたいで」

「恋華……流石だな……」

「それで最終的に朱花くんとあの子……あ、茉央まおくんって言うんだけど、の二択になって、彼の方が中忍試験の火遁の成績が良かったから……みたいな理由だった気がするなあ」


 一気に名前と性別と近しいであろう人物が出てきた……! と心の中でガッツポーズする俺。茉央ってのか、マジで聞いたことないな……。

 え、ていうか待て、朱花って。失踪中じゃん。もしかして詰んだかこれ? うそだろ?


「だから恋ちゃんほど火遁使い! って感じでもなくて」

「そっか……じゃあ参考にはならねえな……」

「そうだね。ていうかあの子は茶紺達と組むことで火遁使いとして成長することが期待されてたんだよ、多分。育成枠ってやつ?」


 あー、なるほどなあ。だったら俺もあんまり火鼠っぽさ気にする必要ない? ……いや、いつまでも新人気分なのは良くないぞ俺。最近は対梯班優先だが既に火鼠としての任務も回してもらってるんだから、ちゃんと直属班の一員だって自覚持ってくれ俺。


「……ん? なんで二択のもう一人が朱花だったんだ……? アイツ水遁得意じゃん…??」

「あ~、朱花くんの水遁、茉央くんの配属が決まったあとに伸ばしたみたいで」

「あ……もしかして」

「そう。ライバル視してたっていうか……いや仲は良かったんだけど、あの子が選ばれたことでちょっと関係が拗れちゃったみたいで」

「へえ……」


 仲は良かったという言葉が聞けて、よっしゃ! と思う。が、関係拗れてたのか……だったら朱花も火鼠になってからの茉央ってやつのことはあんまり知らない可能性出てきたな……。


 あまり他人が掘り下げるものでもない域の話になってきたし、とりあえず元三人目の話はこの辺にしておいて……と俺はこの後、大人しく苦無選びに戻った。




 それから少しして選び終わった俺の元に、控えめに歩み寄ってくる足音が一つ。


「お、吟」

「楽兄……!」


 俺が先に気付いて呼ぶと、吟は嬉しそうに駆け寄ってきた。

 姿を見て、いつもの吟だ、と思う。どうやらあの日『おそろいっ!』と言って目を見せてくれて以降、また前髪で隠すスタイルに戻っているらしい。しかし今俺を見上げている吟の表情は、以前より少し明るくなったようにも見える。

 そんな吟の頭を撫でながら「最近全然来れてなくてごめんな」と言うと「ううん、へーきだよ。僕ね、あそんでくれる楽兄もすきだけど、任務がんばってる楽兄もすきだよ」と返ってきて、思わず感動する俺。やっぱ素直で可愛げのある弟分はいいな、癒される。……別に法雨兄弟をディスってるわけじゃないぞ。断じて違うからな。まあ樹はもう少し素直になってもいいと思うが。


「……もしかして俺が買い物終わるまで邪魔しないようにしててくれたのか?」

「へ、う、うん……」

「そっかそっか、偉いな吟は」


 えへへ……と嬉しそうな吟を見ながら、かわいいな…と思う。同時に、もしかして梅雨梨があれだけ知ってたということは吟も何かしら知ってるんじゃないか、と探りを入れたくなる俺が顔を出す。


「あ、あのね…楽兄……」


 どうやって自然に元三人目や朱花の話に持って行こうか、終わるの待ってたってことはあの話も聞いてたんだろうし……と考えていたら、吟が先に口を開いた。しかし吟は何か言いかけて、躊躇う。それから数秒「えっと……」とか「その……」とか迷ったあと、結局俺の手を引いて奥の部屋へと向かうことにしたらしい。なんだなんだ? 梅雨梨の前じゃ話しにくいことなのか?


「どした?」


 奥の部屋に連れて来られた俺が屈んでそう聞くと、吟は「あのね……」と俺の耳元に顔を寄せる。そうして囁かれたその内容に、俺は目を見張ることになった。


「楽兄はあのお兄さんのこと……あんまり知っちゃ……だめ……だよ」

「へ?」


 全く予想していなかった言葉に、思わず素で驚いてしまう。

 え、お兄さんってもしかして茉央のことか? 知っちゃだめって……え? まさかあの会話だけで調べてることバレた…のか……?? いや、相手は吟だぞ? そんなはずは……


「吟、それどういう意味……」


 思わずそう聞いてしまうが、吟は口を押さえて『言えない』という風に首を横に振る。


 ついバレたのかと思ってビビっちまったけど、俺があの話に特別興味を持っているようには見えなかったはずだし、あれか、これはもしや……吟の方が茉央の話題に敏感ってパターン……? 理由はわからないが、あの吟が自ら話そうとするほどに……。


 しかも『知っちゃ駄目』って……忠告なんじゃねえか……?


「なんで……」

「楽兄」


 だめって言ってるでしょ。と言わんばかりに名を呼ばれ、あまりに珍しい吟の言動に驚きを隠せない。吟はそんな俺に「……もどろ、楽兄」と言って、すたすたと梅雨梨のところへと歩き出した。

 俺は混乱する頭を連れて、なんとかその後ろをついていく。


 明らかに吟は茉央について何か知っている。しかもおそらくヤバいことだろう。けど、無理やり聞き出すのもな……と思う俺がいる。駄目って言った本人がそう易々と話してくれるわけもないし。

 とりあえず一回樹に相談しよう。それがいい。よし。と思考を放棄した脳で丸投げの準備を整えて、お会計を済ませたそれらを手に俺は店を出た。


 ついでに買ったアイスを食べながら合流場所で待っていると、少し遅れて樹が現れた。


「思ったより収穫あったね」

「だな」


 言いながら、樹の分のアイスを渡す。樹は自分の分があると思っていなかったのか少し戸惑いながらも受け取って、小声で「あ、ありがと……」と言ってからアイスを口に運んだ。


「樹の方、どうだった?」


 てか吟に茉央のこと知っちゃダメって言われたんだけどどう思う? どうすりゃいい? と予定通り丸投げする俺。


「俺の方は楽の得た情報量とあんま変わらないと思う。あの店主、これといって裏で何か元三人目について言及したりはしてなかったよ。楽の意図通り苦無についての方が気になってる感じだったし」

「そっかあ」

「どう思う、についてはそうだね、調査は続行でいいと思うよ。ていうか止めてもやるでしょ楽は」

「ふふ、流石。わかってんねえ」


 俺の丸投げにツッコまず真面目に答えてくれる樹に、お前のそういうとこ嫌いじゃないな…と思う。


「……あと、楽が店出た後の様子ちょっと見てたけど、やっぱりあの吟って子は何か知ってるね」

「お、どんな様子だった?」

「怯えた様子で『どうしよう……』って小さい声で言いながら奥の部屋で蹲ってた」

「マジか……そんなに俺に調べられるとまずいのかな、茉央のこと」

「そうなんじゃない?」


 最後の一口のバニラを味わいながら、一先ず脳内で情報整理を始める。

 俺の前の火鼠三人目の名は、茉央。(多分)男。朱花と仲が良かったが配属が決まって以降関係が拗れていたらしい。仲が良かった(ライバル視していた)ってことはおそらく朱花と同年代……つまり俺の少し上、だと思われる。特別火遁が得意だったわけでもなく、忍器は普通。

 そんでもって、吟が調べるなと忠告するほどの何かがある。……大方、死因だろうな。里が隠したことを吟が知っているかもしれないというのは少し引っかかるが、茶紺が梅雨梨と何か話しているのを聞いていたりなんだりしたのかもしれない。梅雨梨が茉央の火鼠配属の流れを知っていたあたり、茶紺なんでも話しちゃってそうだし(?)もし本当にそうだとしたら上忍としてはよろしくなさすぎるんだけど。


 ふと隣を見ると、樹は遅れて合流したせいで(食べるのが遅いせいもあるだろうけど)少し溶け始めてしまったアイスに苦戦していて、情報整理どころではなさそうだ。

 お坊っちゃまだし、もしかして棒アイス自体食べ慣れてなかったりすんのかな。てかそもそも庶民の食べ物は口に合わない可能性……でも文句言わずに食べてるあたりお気には召したのかな。普段家で何食ってんだろ。弁当は結構普通だった気もするけど……。

 なんて思っていたら視線に気付いた樹が俺を見て「……楽、ついてる」と言いながら自分の口の端を指でトントンとする。釣られて同じ位置に手を持っていくと、溶けたアイスが指の先についた。舐めとり、教えてくれた樹に礼を言う。


「……とりあえずあれだな、予定通り近しい奴……朱花から調べっか」

「そうだね」

「でもひとつ問題があってだな」

「何」


 きょとんとしている樹に、朱花……というか水蛇の行方が知れないことを話す。すると樹の表情が曇った。


「それもしかして……寝返ったとかそういう可能性……」

「わかんねえ。有り得なくはない、けど…」

「水蛇全員が失踪っておかしいよ。不自然すぎるって」

「確かにそうなんだけどな」


 なんで捜索もっと力入れないの伊賀? バカ? と言い始めた樹をまあまあ……と宥め、「もし寝返ってたらどの道対梯班で遭遇することになるだろうし、誘拐だった場合でも結局今やれることは拠点捜索とか構成員と対峙した時の対策を練ることだろ」と言う。樹は「確かに……」と納得してくれたようだったが、表情は曇ったままだ。

 ま、確かに梯が関わっていると決まったわけじゃないからな。師匠が梯の女の襲撃時に消えた、その同日に残りの二人も消えた……ってあたりから勝手に繋がりがあるって思い込んでるだけだし。


「……で? 失踪中の相手をどうやって調べる気?」

「朱花のことよく知ってそうな人なら、アテがある」

「どんどん遠回りになってない?」

「いーの。急がば回れって言うだろ」


 次の目的地が決まったので、移動を始める前に菊の露で買ったお面を樹に渡す。あまり気に入らなかったのか微妙な顔をしてはいるが一応つけてはくれるらしい。似合ってるぜ、と褒めると「適当に選んだくせに」と的確なツッコミが飛んできた。バレてたか。


 そうしてお面をつけた樹を連れて俺が次に向かったのは、忍冬。

 ここの店主である沙月さん……の旦那さんの飛翔さんが梵さんと仲が良く、朱花のこともよく知っているのだ。まあ飛翔さん本人はおそらく任務なため居ないと思うのだが、沙月さんもある程度なら話を聞いているはず。なんなら直属班メンツがよく集まる飲み屋となると、沙月さんの方が色々と情報通かも知れないまである。

 そんでもって朱花を調べていることは隠す必要がなく堂々と聞くことができるため、忍冬は聞き込みに最適なのだ。梯関係かも知れないから俺達も調査している~とかなんとか言って梵さんとセットで聞けば、本当は元三人目を調べているなんて誰も思わない。失踪中であることを逆手にとって聞き込みの理由にする。我ながらいかにも忍びらしい手法だ。……ま、遠回りであることは確かなんだけどな。

 しかしそれでもし本当に梯に辿り着いたら、それはそれで対梯班としての任務もこなしたことになるわけで。ぶっちゃけどう転んでも俺的には美味しいのが今回の任務なんだよな。


 そうして道中樹と話して『樹の扮する新人影忍が水蛇捜索に関わっており、俺は対梯班の活動の一環で情報収集に協力している』という体で聞き込みをすることにしていた俺達は、忍冬に着くなりカウンター席に座った。

 初対面である樹に興味を示しつつもあまり詮索してこない沙月さんに流石……ありがてぇ……と思いながら、さっき決めた事情を説明し、朱花や梵さんについて色々と話してもらうことに。


 そこで聞き出せたのは主に梵さんのことだったが、朱花についてもやはり俺よりは知っていたらしく家柄のことや俺が知り合う前の朱花のことを聞くことができた。


 沙月さんが話してくれたのは、小海家は優が継ぐはずだった永登の分家で、朱花は生まれながらに永登を守るための忍びとして育てられていたこと、そのおかげであまり感情を出さない物静かで人と距離を置きがちの性格だったこと、それが梵さんと出会って変わったこと、梵さんと同班になるために水遁の修行をしていたということなど。

 俺が気になったのは梅雨梨から聞いたのとは違う水遁習得の動機なのだが、おそらく両方本当だろう。茉央の配属への対抗心と梵さんへの憧れが重なって、結果的に配属に至るほど水遁を強みにすることができたんだと思う。ま、推測でしかないんだけど。


 そして話を聞いていて意外だったのが、飛翔さんと梵さんが『昔より仲が悪くなっている』と言われていたことだった。あれで仲が悪い……? と俺が驚くと、沙月さんは『昔は梵さんのお兄さんと三人でず~っと一緒にいたのあの人達』と教えてくれた。


「藜さんと梵さん、昔は仲良かったんだな~……」

「まあ兄弟ってそんなもんでしょ」


 今は忍冬を出て、人通りの少ない道を選んで遠回りしながら本部に向かっている。あっち戻ってからじゃこの任務については話しにくいからな。


「そんなもんか~……あ、じゃあお前らもそう?」

「……そう見える?」

「もしかして樹にもお兄ちゃん大好き~な時代があったのか?」

「…………あるわけないでしょ」


 これ以上いじるとキレられそうなので口に出すのはやめておくが、今の間は……あったやつだな……と勝手に少しほっこりする俺。なんかちょっと安心した……けど、逆に余計に何があって今こうなってるのかが気になりすぎるな。法雨兄弟怖い。


 ていうか昔の話を聞いて思ったのが、茉央と朱花の仲が良かったという話が本当かどうか疑わしくなってきたな、ということだ。あれか、もしかして人と距離を置きがちだった朱花の唯一の友達……とかだったのかな、茉央って奴。そこから想像できる茉央の人物像は多分、明るくて友達の多いタイプか、もしくは朱花と同じく人と距離を置くタイプか……。う~ん、後者の方が有り得るかな。前者だと朱花の方が嫌がりそうだし。……あ、でももしかして今の俺達とちょっと似てたりする? だったら前者でも有り得る……かも……?


「……樹はさ、なんでみるからにお前の嫌いそうなタイプの俺と仲良くしてくれんの?」

「急に何? てか自覚あったんだ?」

「へへ、まあな。……あ、てかなんか前にも似たようなこと聞いたな? 里冉の付属品どうのって言ってた気がする」


 よく覚えてるね……と言いたげな顔(人通りがないのでお面は外している)をしてから樹は少し考えて「それもあるけど、」と口を開く。


「楽、バカ正直だから変に嘘吐けなそうだし、法雨相手だからって媚びないし……他の奴よりはまあ、まだ信用できるかなって思った……から、かな」

「ディスられてんのか褒められてんのかわかんねえけど信用してもらえんのはすげー嬉しいわ、えへへへ」

「まだ、だから! あくまでまだだから」


 はいはい、とニマニマする俺に、うざ……と相変わらずな樹。そんな樹を見て改めて思ったことが気付いたら口から出てたので、やっぱり樹の言った通り俺はバカ正直なのかもしれない。


「俺もさ、すげー話しやすくて好きだな、樹。毒舌っつか辛辣だけど、だからこそ……っつか、ある意味すげえ正直で、普通は指摘しづらいような駄目なとこもハッキリ言ってくれるから、信用できる」


 樹は一瞬驚いてから顔を逸らして「……あっそ」と言う。それからすぐに「……で? 何の話だったの」と聞いてきた。こいつ、俺に「さては照れてるな~?」といじる暇を与えない術を覚えたな?


「あ~、朱花が樹で茉央が俺ってパターンあるかなって思ったから確かめただけ」

「は? 意味わかんないんだけど」

「友達作らないタイプと友達多いタイプが仲良い実例、って言えばいーのかな、なんかそんな感じ」


 そのふわっとした説明でも「ああ、言わんとすることはわかった」と返してくれる樹。流石。


「けど、俺達のは多分例外ってやつだと思うよ」

「え、なんで」

「仕事からの関係だし、いろんな要因が重なってやっと今、だと思うから」

「そっかあ、そうだなあ」


 思えば俺も最初は『人の懐に潜り込むのは得意だが、樹に限っては自信持てない』とか考えちゃってたもんな。うわ、あれからそんなに経ってないはずなのにすげえ懐かしく感じる。

 そのくらい今は仲良くなれたんだなあ。友達認定してもらえたり、信用してるって言ってもらえたり……本当、色々重なってくれて助かったな。こればっかりは白い俺にも助けられてる気がする。結果的に俺が樹を信頼するきっかけになったわけだから。


 そんな俺達のことを樹は例外って言ったけど、それが俺達だけとも限らないし、茉央がどんなだったかはやっぱ知ってる奴に聞かなきゃわかんないかな。あ、待てよ友達多いタイプだった場合俺が全く聞いたことなかったっての変だし、やっぱ茉央も茉央で孤高タイプだった可能性あるな。……とか考えてたら知ってそうな奴一人思い出した。アイツならもしかしたら死因そのものまで知ってる可能性すらある。次はアイツに話聞こう。


 …………とは考える俺だったが、やはりどうしても吟の忠告が気に掛かっていた。


 楽兄は知っちゃ駄目、か……。

 駄目な理由が聞けたら少しは中断も考えるかもしれないが、多分その理由=知ってはいけないこと、なんだろうな。そりゃ言えるわけねえよ。

 でも折角樹もやる気になってるし、ここでやめるわけにはいかないのだ。あわよくば失踪中の朱花にも辿り着きたいし。むしろその駄目な理由も気になってしまっている。おそらく俺のためを思って忠告してくれたであろう吟には悪いのだが、今の俺には調査をやめるという選択肢はない。


 忠告のおかげで何だか少し嫌な予感もしてきたが……恐れも侮りも考えすぎも、全部忍びの三病だ。やることは決まっているのだから、あとはやるだけなのだ。


 そうして俺は樹と本部へ戻り、寝るまでの時間を鍛錬に費やしたのだった。

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