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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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四十七話・疑念[2]




 秋月を、茶紺を調べる。

 そう決めた夜、俺は恋華にそれとなく「茶紺の様子がおかしかったから見に行ってやれば」と茶紺の泊まっている部屋(もはや完全に茶紺の部屋なのだが)に向かわせた。


 班長と班員の関係とはいえ男の部屋に女の子一人で……というのは正直悩んだが、あの二人だし、茶紺には梅雨梨がいるし、大丈夫だろ、と。

 本当は卯李の方が警戒せずに話をしてくれるかと思ったのだが時間が遅く既に寝てしまっていたし、そもそもあんまり卯李を利用したくないという良心が働いていて結局いいタイミングで現れた恋華に任せることにした。


 だがそれはおそらく正解の選択だった。よく考えたらあの二人は、火鼠の仲間としては俺より長く時間を共にしている同士。俺の知らない話が出てくる可能性が高い。


 そんなことを考えながら、俺は隣の部屋から二人の会話に聞き耳を立てていた。


「恋華、なんで俺の様子がおかしいってわかったんだ……?」

「僕ってか、らっくんが気付いてたんだよね」


 うお、言うのかよそれ……まあそうか、そうだよな。恋華には「茶紺の様子が~」としか言ってないし。恋華にも、調べていることは察されるわけにはいかない。


「楽か……なるほど……流石だなアイツ……」

「地味によく見てるよねぇ、周りのこと」

「ああ……隠してたつもりだったんだけどな~……」


 地味にってなんだ地味にって。茶紺との付き合い自体は恋華より長ぇんだからな、俺。


「……甲賀と同班はしんどい?」


 恋華のその言葉に、茶紺が黙り込んだ。


「図星か~」

「ぐ……まあ、な……」

「上忍のくせにメンタルだめだめじゃん、大丈夫なの」

「上忍としては大丈夫じゃないな……」


 思えばこの二人だけの会話って聞いたこと無かったけど……なんか……いつも通りのようでいて全然違うっつーか……なんだろ、不思議な感じだ……。


「朔様が何を考えているのか…どう動くことを期待されているのか……分からなかった……」


 弱っているらしい茶紺の声は小さくて、隣の部屋からだとかなり聞き取るのが難しくなってきた。もっと接近するか……? いやでもバレたら面倒だな。

 ていうか茶紺、それで様子おかしかったのか? 俺が見た記憶のあれはなんだったんだ?


「別に期待通り動かなくてもいいでしょ」

「そうなんだが……それにしてもだな……」

「ふ、本当に甲賀嫌いだねえ班長」

「仕方ないだろ……というか恋華だって」

「……まあね。でも違うもん、里と個人は」

「…………大人だな」

「でしょ」


 まさか恋華も甲賀への恨み……あるのか……? 知らない話が出てくる予感にそわそわとしながら次の言葉を待っていたが、俺の期待とは裏腹に二人の会話は途切れ、しばらく沈黙が続いた。沈黙を破ったのは、恋華だった。


「……でもまあ、僕は班長と違って元々嫌いだったわけじゃないから、ね」


「あの子の仇以外にも…あるんでしょ、理由」


 は……? あの子……??

 この感じ……二人共が知る人物……だよな……??? となると……俺が思い当たるのは……まさか……


 俺の前の班員…って……


 ……いやいや待て待て気になることが増えたしどれが俺の知りたい情報に繋がってるのかわかんなくなったぞこれ。なんなんだよ茶紺の甲賀嫌い。気になるじゃねえかよ。


「……うん、あるよ」

「話せないこと?」

「ああ」

「なんで話せないかも言えないこと?」

「……ああ」

「ふーん」


 ふーんじゃねえよもっと食い下がってくれよ恋華……ッ!! 話せない理由すら話せないってなんだよ……ッ!! と思うが、忍び同士なのだ、話せないことがあるのは当たり前だし、これが聞けただけ十分だ。


「……ま、任務に支障が出ない程度に嫌ってればいいんじゃない、甲賀」

「はは、そうだな」


 すげー恋華っぽい言い方だな。支障が出ない程度に嫌ってればいいんじゃない、か……。こういうとこ、梵さんの影響強いのかな。


「いやぁ僕のとこの班長、そもそも女嫌いっぽくてこっちもこっちで打ち解けるの難しそうな班だからさ~……」

「そうなのか。それは大変だな」


 俺のとこも樹っつー問題児がいたしなぁ。全員それなりに大変な組み合わせだったのか……。


「もう一人の班員がうまく間繋いでくれてるけど、すごい壁感じるし……あっちの二人は仲良さそうだから疎外感もあるしで、結構居心地悪いんだよねえ」

「むしろ俺より大変そうじゃないか恋華の班……」

「いかに火鼠が気楽かわかったよね」


 マジでそれな。マジで、それな。いや話聞いてる限り俺のとこはマシな方だろうけど。


「班長に嫌われてると班員は居心地悪い……か。そりゃそうだよな。うん、よし、班長としての振る舞い、もう少し考えないとだな。甲賀が嫌いだとか言ってられないな」

「お、えら~い」


 なんか……あれだな、茶紺が意外と繊細というか弱いとこ弱いから、こういうときは恋華の方がつえーのか、メンタル。

 なんて思ってると、茶紺が「あ」と何かに気付く。……まさか盗聴バレたわけじゃねーよな?


「……もしかして朔様はわざと相容れなさそうな組み合わせにした……のか……?」

「あ~、かもねぇ。ほんと何考えてんのかわかんないよね~」


 バレてなくてほっとしつつ、なるほどなぁと思う。わざとなら……何が目的だ? まず班として打ち解けることが最初の試練として課せられてるのか? だとしたら俺と里冉の謎の殺し合い(?)のせいで早々に打ち解けた俺の班、優秀な方なのかもしれないな。わかんねーけど。打ち解けたと思ってるの俺だけかもしれないし。でも樹はあれが通常運転っぽいしなぁ。


「……ありがと、恋華」

「へ?」

「話聞きに来てくれて助かった」


 その言葉に恋華は少し間を置いて「……いや、」と言った。


「僕も話したかったから来た……と思うし、お互い様だよ。あのことを……僕が甲賀を嫌いな理由を知ってる班長相手じゃないと……話せないから」


 ん? 待て、恋華の甲賀嫌いを知ってるのは茶紺だけなのか……?


「なるほど。確かに、上が上手く隠したせいで甲賀と結びつけては話せないもんな、あれ」

「そうなんだよねえ……」


 上が……隠した……?


「話せたおかげでちょっとすっきりしたし、あとは明日でいいや」


 突然訪れたお開きムードに、うそだろもっと聞きたかった……! と思う俺だったが、マイペースな恋華はもうすっかり寝る気らしく「おやすみ~班長」と言って部屋を後にしようとしていた。それに茶紺が「おやすみ」と返すのも聞こえた。

 くっ……今日はここまでか……。


「ちゃんと朝起きるんだぞ」

「わかってるって~班長ほんとお父さんみたいだよね」

「それ楽にも言われたな……」

「あはは。……じゃ、また明日」


 恋華が部屋を出てった音がした。

 残された茶紺。そして隣の部屋に潜む俺。


 当たり前だが茶紺の部屋には静寂が訪れる。流石に茶紺ももう寝るだろうし、俺も寝るか……とそっと抜け出して、自室に帰った。


 それから布団に寝転び、俺は例の記憶を思い浮かべながら改めて聞いたことを振り返る。

 そして思った。多分だが、先程聞いた事と記憶に関連性は無いと。親父が茶紺に出した任務を恋華が知るはずないし、そもそも甲賀は関係ないだろうな、あの記憶。いやもしかしたら甲賀嫌いの理由には関わってるのかもしれないが、だったらどうやって調べろって言うんだよ……。何がどう繋がれば俺気絶させて謎の術かける怪しげな茶紺が出来上がるんだよ……あ~も~わけわかんね~~……。


 くっそ、つか上が隠したことってなんだよ。多分元三人目の話なんだろうけど、甲賀が関わってるってことだろ? 初耳だった恋華の甲賀嫌いはそれが原因で、んで茶紺はそれプラス他にも理由あるってこと……だろ?

 も~~~……なんでどれもこれも俺だけ蚊帳の外なんだよぉ!! 元三人目の話、また今度とか言ってたけどどうせ聞いても話してくれねーんだろ!! くっそ~~~……気になること……増えちまったなぁ……!!


 ……なんか、俺が仕向けたことなんだけど、上手く話を逸らされた気分だ。

 なんなら茶紺のことだし、盗み聞いてることをわかっててわざとあの話をしたのかもしれない。朔様何考えてるかわかんねーって話してたけど、上忍も何考えてるか全くわかんねーんだよな俺からしたら。結局あの術については全くわかってねえしさあ。それこそ俺を監視する系の術、とかなら盗み聞きは完全にバレてるだろうし……。


 悔しいが、なんか茶紺が色々隠しててすげえ怪しいということだけはわかった。焦りは禁物だ。気長に、着実に調べていこう。


 とりあえず明日の会議の後、おそらく卯李の家庭教師として来てるであろう長月先生から茶紺の話を聞き出そう。思えば昔の茶紺のこととか、全然知らないし。できれば裕威さんとか睦さんにも話は聞きたいが……会う口実が浮かばないしな。考えとこ。


 そんなことを考えながら、眠りについた。


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