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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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四十話・初対面




「これからよろしくね、立花くん」

「こ、こちらこそ……」


 ニッコリ笑って俺に握手を求めてくるのは、


 他でもない法雨里冉その人だった───────




 どうしてこうなっているか、それは、数時間前に遡る。


 いつもの如く、長屋敷に集められた俺達直属班。

 しかも今回は直属班の中でも選ばれた班のみらしく、主戦力と言っても過言ではない面々。そこに問題児扱いされがちの火鼠がいた事にぶっちゃけ驚きつつ、朔様の言葉を待っていた。すると、


「伊賀と甲賀は、一時的に手を組むことになった」


 そう静かに発せられた一言目。

 あまりに突然の発表に、各班から動揺の声が上がる。


 ……まあ俺はというと誰かさんのせいで事前に知っていたし、取り立てて驚くことも無かったのだが。


「これから今の班とは別で、甲賀の忍びを含んだ〝対梯班〟の編成を発表する」


 朔様は言う。動揺を鎮めるような、落ち着いた声色で。


「……とはいえ今ここで甲賀者の名前を言ったところで伝わらないからね、まずは移動しよう」

「お待ちください! 甲賀者と手を組むなど、何故……!」


 どうせアイツの希望が通って同じ班なんだろ……(満更でもない)とか俺が思っていたら、甲賀嫌いの茶紺が長に向かって異議を申し立て始めた。

 おいおい、一番まともなはずの班長までんなことしたら、余計問題児扱いされんじゃねーか……?


「前々からあちらの長と話をしてはいたのだよ。梯を討つには互いの協力が必要だ……とね。それに、空翔の件があっただろう? 内部の情報を抜き取られたとなると、現在の班のまま動いたところで対策を練られてしまう。そこで梯を討つ為だけの班を作ることにしたのさ」

「そんな……! 私は反対です…!」


 朔様は少しだけ語気を強めて「茶紺、落ち着け」と言い、続けた。


「何も馴れ合えと言っているわけじゃない。あくまで梯を討つ為だけに、忍びとして協力する。それだけだよ。……それに、上忍である君が私情を挟むのは頂けないね」

「…………取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」


 茶紺は未だ腑に落ちないという顔ではあるが、一応飲んではくれたらしい。

 そんな茶紺の様子に朔様はにっこりと笑い、再び全体へと語りかける。


「それじゃあ、甲賀の者達との待ち合わせの場所まで行こうか。他に里に潜り込んでる者がいた場合も考えて、一班ずつ、時間をあけてここに向かって欲しい。急遽用意した対梯忍者隊本部だ」


 そう言って、これといった印の無い簡素な地図の一部を扇子で指し示す朔様。(指で触れて示すと、万が一地図があちらの手に渡った時にバレバレになる可能性があるためだ)


 あまりにも地図に情報量が無さすぎて俺には正確な位置が掴めないのだが、茶紺には伝わったらしく「御意」と自信満々である。この辺りは、流石上忍というべきか。




 そうして俺達は、その本部へと向かった。

 十二支の順番だと勘のいい相手には気づかれるため、朔様がシャッフルした順番で。火鼠の番は、最後だった。


 全員が本部に到着したのは、俺達が屋敷に集められてから数時間後。あちらの長はどうやら不参加らしく、朔様がその場を取り仕切っていた。


 俺は集まった面々をキョロキョロと見回す。伊賀からの梯任務への参加班は火鼠、光竜、黒馬、氷鶏。ちなみに水蛇も参加班だったらしいのだが何故か全員失踪中なため不在で、氷鶏の空翔の穴は既に里冉と同い年くらいの青年で埋められていた。茶紺と近い髪色だし、さっき秋月って呼ばれてた気がするから茶紺の親戚……か……? わからん、後で聞いておこう。


 一方、甲賀から集まったのはどうやら主に法雨家の面々らしい。

 何故見ただけでわかるか? 明らかに顔面偏差値の次元がおかしいからだ。

……というのは半分冗談で、殆どの者の羽織や装束に、里冉の装束に入っている爪痕のような模様が施されていたからだ。そしてその中の一部の者達の耳には、里冉と同じ雫型の綺麗なピアスが光っていた。


 ていうか、とんでもない顔面偏差値の面々を引き連れているにも関わらず、どう見たって里冉が一番美人である。そのことになんとなくケッこれだから完璧超人は……なんて思っていると、俺が見ていることに気づいた里冉が笑いかけてきた。

 いや待て今の笑顔、俺が少女漫画の主人公なら120%恋に落ちてたぞ。……とか思ってしまったあたり、相当アイツの顔に弱いんだろうな、俺。


 いや違う違うそうじゃない。お前な、俺らが仲良いのバレたらどうすんだよ。何笑いかけてくれちゃってんの。流石に愛想が良いとはいえ限度がある。なぜなら俺は立花の跡継ぎで、アイツは法雨の跡継ぎだ。一番仲良くしてはいけない関係性なのだ。

 せめて俺だけでも仲悪いふりしとくか? と、眉根を寄せてぷいと顔を背ける。……多分、里冉の目にはツンデレにしか映っていないだろうけど。


 ……とまあそんな風に俺が里冉の笑顔に振り回されまくっている間に、朔様の話が本題に入った。


「それじゃあそろそろ対梯班の編成を発表しようか」




 ここで、冒頭に戻るのだ。

 やはりなんというか、里冉の権限とやらは相当強かったらしい。俺の班。班員は俺と、同い年くらいの法雨の美少年。そして班長は、法雨里冉。


 まあ里冉までは知ってたし、それはもういいとしよう。問題はもう一人の法雨の奴。朔様が呼んだ名前は確か、樹とかいったか。


「よろしくな!」


 初対面のフリをしながら里冉と握手した後、そのまま流れで樹とやらに握手を求める……が、ガン無視された。なんならめっちゃ冷たい目で睨まれた。顔が良いだけにすげえ怖い。

 え、いや、最初からこんな嫌われることある……?


「ごめんね、この子……俺の弟なんだけど」

「弟ォ!?」


 あ、やべ、普通にリアクションしてしまった。俺らここで初対面設定なんだって。マジでびっくりさせてくんなよ里冉。いやてか、は!? 弟!?


「そ……そう、なんだ」


 俺が咳払いして仕切り直すと、里冉は必死で不仲を装っている俺が面白いのか少し笑いながら「うん」と返した。おいこら、俺の努力を無駄にしようとするんじゃねえ。


「……でも反抗期でさ、誰に対しても……特に俺には無愛想で塩対応なんだよね」

「へえ……」


 コイツに弟がいた事にも驚いたが、まさかここまで正反対の性格だとは。

俺には兄弟いないからわからないけど、兄がこれだと弟はこうなるもんなの? それか反抗期だからツンツンしてるだけで本当はすげえ優しかったりする?


「ほら樹、流石に失礼だよ。挨拶くらいは」

「うるさい」


 話しかけんな、と言わんばかりに樹が里冉の言葉を遮る。


 うわ、マジで反抗期だな。

 恐ろしく澄んだ青い瞳。嫌悪を滲ませた静かな声。里冉に向けられたはずのそれらはあまりにも冷たくて、俺までゾクリとしてしまった。


「……とまあこんな感じなのさ」

「あぁ、そう……」


 どうやら里冉はうるさいと言われるのをわかっていて、それを俺に見せるために話しかけたらしい。困ったように俺に笑いかけ「間に挟むことになっちゃってごめんね」と里冉は言う。


 新たな班が編成される度に思ってる気がするけど、マジでこの先任務とかやっていけんのか……? と不安になる俺。

 前回これを思わせた恋華が可愛く見えてくるくらいに、樹の印象は〝問題児〟なのだった。




 そんなこんなで班の発表が終わると、再び朔様が前に立って話を始めた。

 その内容は『明日からの任務に備えて、新しい班に馴染むための軽い演習を行う』というものだった。


 明日から……? 不安しかないが……? と思いつつも、上の判断ならやるしかないのでなんとか今日樹と……せめて会話が成立するくらいにはなっておきたい………いや目標高いか? でも会話できなきゃ任務にならねえしな……。


「里冉班。君達はここへ向かって、現地に潜んでいる演習用の敵の持つ苦無の柄に付いたリボンを一人一本ずつ持ち帰ってくること」


 朔様がそう言って班長である里冉に渡した巻物は、やっぱり情報量の無さすぎる地図だった。

 案の定ドコ……? とはてなを浮かべる俺。一方で、完璧に理解したらしい里冉。そして樹は、巻物を確認しようとする気すら見えない。


 俺、人の懐に潜り込むのは得意な筈なんだが、樹に限っては流石に自信が持てないな。


 ……でもまあ、頑張ってみるか。


「頑張ろうね、二人共」

「おう!」


 二重の意味で頑張るぞ! と気合を入れる俺と、無反応なまま不機嫌顔の樹。ガン無視には早くも慣れてきた俺だったが、やはり班として機能する気はしていない。これでもし樹が里冉並に優秀だったとしても、連携が取れないのでは意味が無い。


 これ……大変だろうな……里冉班長……。

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