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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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三十五話・調査




「おい、押すなって」

「はやく行こうよぉ」

「バカ、面会じゃなくてただ調査に来ただけなんだって。堂々と入れる立場じゃねーの!」

「堂々と入るためにそんな格好してるんじゃないの?」

「ちっげーよ、ただの身バレ防止だわ」


 そんな格好、と言われたのは美しい白髪を靡かせるどこからどう見ても美少女な人物。

 しかしこの美少女、実は男である。


「なんで急にわざわざ伊賀まで調査に来たの?」

「……冉兄から聞いたんだよ、アイツの今の家族がここに入院してるって」

「へぇ、冉兄にも協力頼んでたんだ白」

「まあな。最近伊賀に入り浸ってるし、わざわざ調べなくていいけどもし入ってきた情報があれば教えろって言ってたんだよ」

「なるほど~」


 そう、美少女は法雨白の変装である。

 付き添いで来たらしい英樹は、それに合わせて恋人に見えそうな男の変装をしている。(流石にこの体格で女装という選択肢はなかったようだ)


「それでどうやって調査するの」

「それは……そうだな……」

「まさかノープラン」

「や、だって、こんなさらっと入れると思わなかったから……」


 そして現在二人がいるのは伊賀の病院。待合室の端でコソコソと小声で会話しながらちらちらと病棟の方を気にしているため、少々不審な二人組になっている。


「あの」

「……ッッ!!?!」


 気を抜いていたのか背後に立つ女医に気づけなかった二人は、突然かけられた声に思わず飛び上がってしまった。

 いや、気を抜いていたにしても気配がなかったのは二人の気のせいだろうか。


「あ、すみません驚かせてしまって。面会の方ですか? 案内致しましょうか?」

「い、いえ……大丈夫です……」

「……もしかして」


 早速バレたか!? そんなに俺の女装だめ!? とヒヤリとする白。


「恋華さんのお見舞い……ですか?」

「えっ」

「わ、すごい、どうして」

「いえ、ただなんとなく……そちらの〝お姉さん〟の雰囲気が近いような気がしたので」

「……そう?」

「さあ?」


 顔を見合わせ、頭にはてなを浮かべる二人。そんな様子に女医──杏子は「気のせいでしたかね」と言いながらくすくすと笑みを零す。


「やっぱり案内致しましょうか?」

「……じゃ、じゃあ……お願いします」

「えっ」


 英樹が言おうとしたであろう「堂々と入れる立場じゃないんじゃなかったの!?」を杏子に聞かれる前に封じ込め、小声で「バカ、病室だけ聞き出して中入る前に隠れるんだよ」と告げる。

 あからさまになるほど! という顔をした英樹を小突きながら白が杏子の方に向き直ると、杏子はにっこりと笑って「こちらですよ」と案内を始めた。


 こんなに簡単に面会できてしまうのは病院として問題ではないのか? と思うが、なんにせよ探し回らなくて済んだのは幸運だ。

 忍びの里にある病院は、基本的に部屋に番号が振られていない。代わりに職員しかわからない呼び名で管理されており、誰がどこに入院しているかが外部の者にはわからないようになっていることが多い。例に漏れずここもそうだったので、どうやって探そうかと考えを巡らせていた白にとっては本当に好都合だった。素直に甘えておこう。

 ……いや待てよ、流石に美味しい展開すぎる。罠だという可能性の方が……と白が考え始めた時、杏子がすれ違ったナースに声を掛けられた。


「杏子ちゃん、そちら面会の方?」

「はい、そうですよ。恋華さんの病室へ案内しているところです」


 ナースの視線が二人に刺さる。おそらく関係者でないことがバレているのであろう。


「ふぅん……杏子ちゃんがいいって思うならいいのかもしれないけど……あんまり簡単に面会を許可するのもどうかと思うなぁ」

「大丈夫ですよ、この方達からは恋華さんへの嫌な気は感じられないので」

「だよね。感じたら即追い出してそうだもん」

「ふふ、そうですね~。大切な患者さんに危害を加えようものなら良くて半殺し、くらいにはしますしねぇ」

「あはは、程々にね~」


 あまりにも先程までと変わらない笑顔のまま恐ろしいことを言うので、聞いていた二人の背筋が凍る。

 さてはこの女医、可愛い顔をして実は相当やばい人物なんじゃないか。こんなのに素直について行って大丈夫なのだろうか。そんな二人の心配を他所に、杏子はあっさりと「着きましたよ、あちらです」と恋華の病室を教えてくれた。


「今は同じ班の皆様が面会中ですので、気まずいのであればこちらで待たれるのが良いかと」


 そう廊下のベンチを勧めて去っていく杏子。思わず拍子抜けした二人がその背中をなんとなく目で追っていると、杏子は曲がり角でまた別の同僚に出くわしたらしく「五十嵐ィィ! この野郎! 今度こそ大人しく戻ってもらうからな!!」と何故かめちゃくちゃ怒られながらどこかへ引きずられていった。

 取り残された二人は、なんだったんだあの人……と顔を見合わせる。


「隠れる必要、なかったね」

「一回案内断ったおかげで直接会うのは気まずいってのがバレてた、とか……? にしても……変な人だったな……」

「女嫌いの白的には大丈夫だったの?」

「あぁそういえば女か……」

「なんだと思ってたのさ。……あっもしかしてあの人女っぽいのは見た目だけで実は男だったり?」

「わかんねえけど、何故かあんまり気にならなかった」

「ふぅん」


 雑談も程々にして、二人は病室の扉の前に立つ。

 音を立てないように注意を払いながらほんの少しだけ扉を開けて隙間から中を覗くと、一番奥の窓際の病床にお目当ての彼女はいた。杏子が言っていた通り面会中のようで、何やら話をしている。が、奥までは白が思っていたより距離があり、流石に内容は聞き取れなかった。


「……仕方ねえ、コイツを使うか」

「使い捨てる気? 見つかったらまずいんじゃないの?」

「伊賀者の手に渡ったところでただのピアスとしか認識できねーよ。俺の術があって初めて機能するもんだからな」

「そっか! 確かに」


 白が取り出したのは、予備のピアス。

 法雨家の技術班に頼んで開発してもらった特注品で、白が術をかけることによって通信機として使える忍器だ。法雨の者(主に若い世代)は大抵これを体のどこかにつけており、これにより一定の範囲内であればだいたいの位置が白に伝わったり、会話ができるようになっている。


 ただし拾った音声は術者である白のみが聞くことができ、ピアスをつけている者同士が白を介さず直接会話することはできない。そして相手がピアスを体につけていない場合、白側の音声を聞くこともできない。

 ピアスの数に制限はないが、白が同時に自分の物と繋ぐことが出来るのは最大で二つまで。そもそも常に繋いでいるわけでもなく、気になる者の動向を探ろうと思った時(最近だと里冉が多い)や、現在位置確認、任務中の作戦伝達等の連絡に使われることが多い。


 どうやら今回はこれをそのままベッド近くの床に転がし、一方的に音声を拾って盗聴しよう、ということらしい。


「投げ入れたらすぐ逃げるぞ。見たところ面会中の片方は上忍っぽいし、気付かれたら厄介だからな」

「おーけい、でもこの廊下出れそうな窓とかないよ?」

「二つ隣の病室、無人だし鍵も開けといた」

「いつの間に!?」


 さあ、やるぞ。と白が隙間からピアスを部屋の中へと差し込む。

 できればベッドの下あたりの気付かれにくいところへ転がしたいので、その辺を狙ってピンと指で弾いた。


「おおー! ナイスコントロール!」

「っし、逃げるぞ」


 ピアスが絶妙に気付かれなさそうな、気付かれても誰かの落し物かと思われそうなベッド脇で止まったのを確認して、予定通り無人の病室の窓から外へと移動。

 痕跡も残さないよう、しっかりと元通り鍵を閉めて、二人は建物の傍の木の枝へと飛び移る。それから気配を悟られないくらいの距離まで離れ、身を潜めながら盗聴を始めた。


 幸い、面会の二人にも恋華にも気付かれていないようで、白にはしっかりと部屋の中の音声が届いていた。


「……何話してる?」

「ふ、ふふ……ふふふっ……」

「えっうわ何こわい」

「今日は本当にツイてるなぁ俺」

「まさか」


 ああ、アイツの話だよ。

 心底嬉しそうにニヤリと笑った白の目は、先程までは微塵も纏っていなかったはずの殺気で満ちていた。




   * * *




 本来ならば法医学者の仕事である、死体の解剖と身元の特定。

 ここ伊賀では、それも医療班が担っている。


 少し前、医療班のもとに大量の子供の死体が運び込まれてきた。その全てが衣服も持ち物も、それと頭部も、特定に役立ちそうなものが軒並み無いという不自然なもの。


「……ほんまに予想当たってるかも知れん」


 たまたま一つだけほんの少し他より腐敗が進んでいた死体を発見し、一人泊まり込みで調べ続けていた杏子。彼女は判明してしまったその人物に、思わず青ざめた。


 大量の資料の中から見つけ出した、一致するデータ。

 杏子はまじまじとその名を何度も見返し、様々な仮説を頭に巡らせる。

が、やはり最初に浮かんでいた最悪の事態がどうやら現実らしいと、認めざるを得なかった。


「まずい、ほんまに、なんでもっとはよこのご遺体に気づかんかったんやろ……」


 バサバサと机の上の資料が落ちるのもお構いなしに、杏子は慌てて部屋を出ていく。


 その手に掴まれたデータの主、それは



「あかん、はよ朔様に知らせんと」




 氷鶏の班員の一人。


 桔流 空翔。


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