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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
32/105

三十一話・氷と炎



「ししょ~~~! お願いします~~~」

「う~ん……」


 今日も道場に来た俺は、師匠に向かって手を合わせていた。


「……そこまで言うなら仕方ない」

「やったーー!」

「まさかお主がそこまで車がえしを習得したかったとは……」

「だって手合わせの時の師匠カッコよかったんすもん!!」


 そう、車がえしの術を教えてくれと頼んでいたのだ。初日の手合わせで目の当たりにしてから、ずっとやりたかった、あの車がえしの術である。

 俺の押しに負けた師匠は「少し待っておれ」と俺を置いて倉庫の方へと向かい、数分後何かを手に戻ってきた。


「教える代わりに、完璧に取れるようになるまではこのゴム製の手裏剣しか使ってはいけない事とする」

「あ……はい」

「お主に怪我を負わせたら私が屍木に怒られるんだからな」


 少しテンションの下がった俺を見て、聞かずとも理由を話してくれる師匠に、「なるほど」とだけ返す俺。納得はしたが師匠から見ればまだ不満そうな顔をしていたらしく、師匠はふっと笑ってゴム製の手裏剣を構えた。

 次の瞬間「……ほっ」というゆるい掛け声と共に師匠の手から放たれた手裏剣は、近くにあったダンボールにいとも容易く刺さった。


「ゴム製だからといって侮ると痛い目見るぞ」

「アッ……ハイ……」


 師匠が打つとなんでも凶器になる説あるな……なんて内心ビビったのも、師匠にはお見通しなんだろうな。


 それから師匠は特に説明もなく、というか「習うより慣れろ」とだけ言って俺に向かってゴム製手裏剣を打ち始め、俺はそれをキャッチしようと試みる、という修行がしばらく続いた。


 しかし師匠が打つとやはりそれなりの殺傷力を持っているように見えて、少し腰の引けてしまう俺。そんな調子で上手く取れるはずもなく、取り零したり反射的に避けてしまったりとなかなか打ち返すに至らない。


「師匠あの時どうやって取ってましたっけ……」


 そう言いながら、取り損ねた手裏剣を拾って師匠に返すついでに打つ。すると師匠は「ん? こうだが」と流れるような綺麗な動作でキャッチし、俺に向かって打ち返した。


「そんなさらっと……キャッチボールじゃないんすから……」

「ははは」

「笑ってないでコツとか教えてくださいよぉぉ」


 ところで、俺が今日術の修行をしたいと言い出したのにはもう一つ理由があった。それは、紅の能力が相変わらず全く使えないから、というもの。


 ここ数日、暇さえあれば何かしらの能力が使えないかと試しているのだが何も進展はなかった。聞けば紅もこんなことは初めてらしく、やはり今のところは里冉の言っていたように俺の意識を変えるしか方法が無さそう、ということだけはなんとなくわかった。


『楽さあ、ほんとに忍びなの』

「それは流石にひどくねぇ?」

『いやぁあまりにも下手だからさぁ』

「うるせーなぁ」


 苦無の姿のままこうして俺にだけ話しかけてくるのだが、相変わらず無駄に生意気だ。

 煽られる俺も俺なのだが、今みたいな主に向かってそれはないだろ……と思うようなことを平気で言ってくるからついカチンときてしまう。まあそもそも苦無だから、人の心など知ったこっちゃないんだろうけど。


「お前さあ、発火以外なんかできねーの」

『そこはほら、主様が引き出してくれなきゃ、ねえ?』

「都合のいい時だけ主人扱いかよ」

『あははっ、まあ思いついたらなんでもやってみればいいよ。僕も気づいてないだけで出来るかもしれないし!』

「なんだよそれ」


 こいつ、まさか主のいない期間が長くて使える能力忘れてるとかじゃねえよなあ……?


『ほらほら、今は車がえしの修行でしょっ』

「……これさ、キャッチしたあと瞬時に火車剣にして返したりできねーの? お前」

『ふはっ、あははっ、それキャッチできてない段階で考えることじゃないよねぇ』

「うっせ!」


 バカにして笑う紅にまんまと煽られて、一瞬、飛んでくる手裏剣から意識を逸らしてしまった。


 ────べちっ


「~~~~ッ、!!」


 ゴム製とはいえやはり師匠が打った手裏剣。顔面キャッチなんてしたらそりゃ痛いわけで。

 床に落ちた手裏剣を見て、うおおよかった……一瞬刺さったかと……と安堵する。


「いってぇ~~~……」

「ら、楽様大丈夫ですか……!?!」

「おう……大丈夫だけど……」


 どこから見ていたのか、桜日が心配そうに駆け寄って来てくれた。ほんっと優しいなあ桜日は……それに比べて……


『あははははっ!! マヌケすぎるって楽~~!!』

「お前はちょっとは心配しろぉ! 主だぞ俺!」

『ほんと間違えたよね、主にする人間』

「おぉいやめろ傷付く」


 やっぱり相変わらずな紅。……能力を引き出す前に、まずは仲良くなるところから始めた方がいいかもしれない。


「……大丈夫か?」

「あ、平気っす師匠、続けてください……!」

「ああ、そのつもりだ」


 心配そうな桜日にはもう一度「大丈夫」と笑みを送って、修行を再開した。




   * * *




 まだ綺麗な動きとは言えないが、だんだん向かってくる手裏剣が取れるようになってきた頃。


「やあやあらっくん」

「あれ、らっくんだ~」


 道場に現れたのは、恋華と空翔だった。


「は、え、なんでお前ら……!?」

「僕も一応ここの門下生だからねぇ」

「え、兄弟子!?」

「そうそう」


 知らなかった。思えば俺が師匠に弟子入りしてからの氷鶏は忙しかっただろうし、なるほど、顔出してる暇無かったのか。


「で、恋華は?」

「ただの見学~」

「あ、そう……?」

「そこでたまたま会ったんだよ。ね~」

「ね~」


 ……今気づいたけど、この二人どっちも僕っ子だしジト目だし前髪パッツンだし、並んでるとちょっと双子みたいだな。


「てかどうしたの顔のそれ」

「え?」


 恋華に言われてはてなを浮かべる俺。すると恋華は小さな鏡をさっと出して、俺の前に持ってきた。そしてやっと気付く。さっき顔面キャッチしたときの跡が残ってることに。


「………………手裏剣の跡ですね…」


 ぼそっと問の答えを零すと、恋華は途端に堪えきれないとでも言いたげにバカにした笑みをその顔に浮かべた。


「くっ、ふふっ、らっくん、なにそれ面白すぎ、ふふふ、今度班長にも話そうよ絶対ウケるよ」

「……お前、紅の性格の元になったりしてねえ?」

「は? 何言ってんの?」

『は? 僕のがずっと早く生まれてるのにバカなの?』


 やっぱ俺の扱いがほぼ一緒なんだよなあ……。


「ていうかなんで跡ついてんの教えてくれなかったんだ桜日も師匠も」

「す、すみません……」

「はは、まあ自業自得だしなあ」

「仰る通りっすけど」


 それからしばらく顔面キャッチの跡を弄られ倒したあと、その流れで車がえしの修行中だという話になった。どうやら恋華も空翔も完璧ではないがある程度出来るらしく、流石この歳で直属班なだけあるなあ……と少し見直してしまう。


 すると恋華が「そうだ、僕が修行手伝ってあげるよ」なんて言い出し、ゴム製手裏剣を俺に向かって打ち始めた。


「うぉぉぉいお前ただ俺に向かって打ちたいだけだろ!!?」

「あははバレた?」

「バレた? じゃねえよ!!」


 ツッコミながらも、なんとかキャッチして打ち返す。あ、なんかちょっとそれっぽくなってきたんじゃね?


「意外と取れるじゃん」

「そりゃ今日ずっとやってるからな」

「じゃあ増やしてみる? ほい、空翔も」

「いくよ~」

「おい、ちょっ、まっ、」


 俺が打ち返したのをキャッチする恋華。それから持っていたもう片方を空翔に打ち、空翔がそれをキャッチし、二人揃って俺に打つ。そんな流れで気付けば手裏剣のキャッチボール(ボールではない)が始まっていた。

 これ本物でやってたら絶対どっかで怪我人出そうだな、なんて思うが今はまだゴム製しか使えないのでまあ……大丈夫か。


「いい修行相手ができたようだなぁ」

「そ、そうでしょうか……」


 少し遠巻きに俺達を見守る師匠と桜日がそんな会話をしている。桜日、大丈夫だからそんな心配そうにしないでくれ。多分桜日の中で俺はキャッチすんのすげー下手な奴なんだろうな、とか思っちゃうから。


「らっくんよそ見してるとまた顔面キャッチしちゃうよ」

「もうしねえもん!!」

「ほらほら、集中しなきゃ」

「一気に難易度上げすぎなんだよお前らぁ!!」


 二枚同時キャッチはかなり難しいからな。しかもツッコミ入れながらだからな。お前らはナチュラルにボケ倒してるだけだから俺の苦労わかんねえかもしれないけど。てかほんとに双子みたいだなこの二人!


 そんなこんなでしばらく二枚同時キャッチ&ツッコミにチャレンジし続け(させ続けられ)、成功率がだんだん上がった俺。

容赦ない二人の手裏剣は師匠程では無いにしろ当たると痛かったが、結果的にいい修行になったので良しとした。


 それでもやはり跡が気になったのか……というかいくつか痣になってたみたいで、休憩に入ると同時に桜日が冷やした手拭いを持ってきてくれた。

お礼を言いながらそれを受け取り、一番痛かった顔のそれを冷やす。


「痛い?」

「うーん……今んなってちょっと、って感じかな」

「ああ、修行に熱中してる間は痛覚鈍くなったりするよねえ」


 冷やし手拭いを渡した後、桜日は師匠に呼ばれてどっか行ってしまったので、今は珍しく空翔と二人きりという状況だ。(恋華は気付いたら居なかった。猫みたいだなアイツ)


「空翔はさあ、どうやって車がえし習得したんだ?」

「んー……内緒」

「なんでだよ」

「なんとなく」


 俺みたいに誰かに手伝ってもらったのかな。それとも敵との対峙で自然と、とか? ならすげえかっこいいけど流石に危険だよなあ。それか忍烏が手伝ってくれたり……手裏剣打てる烏とかいんのかな。あ、もしかしてそれが奥の手として秘密だから言えないのかな。

 なんて俺が好き勝手に想像を膨らませていたら、空翔が話を振ってきた。


「らっくん、あの夾って子とここで知り合ったんだよね」

「え、うん、そうだな」

「……辛くないの?」


 それは多分、道場にいたら夾のこと思い出して辛くなるんじゃないか……ってことだよな。


「……まあ、そりゃ辛いよ」


 ふぅん、とだけ言って、空翔は少し遠くを見つめる。


「でもさ、ぶっちゃけまだ実感湧いてないっていうか……ほら、顔見てないから」

「ああ、なるほど」

「だから実感湧いてないことに凹むより、少しでも前進すんのが優先かなって。……つか、悲しむのは夾をあんな姿にしやがった梯をぶん殴ってからでも遅くないかなって」


 落ち込んで立ち止まることは、もうしたくない。俺が必要以上に動揺することで周りに迷惑もかけたくない。火鼠の一員となった今、やることはハッキリしているから。


「殴れるといいね」

「ああ」


 空翔は「思ったより強いんだなぁらっくん」なんて馬鹿にしてるのか褒めてるのかわからないことを呟きながら、腕に乗せた忍烏を撫でた。


「……もしかして空翔も、友達とか行方不明になったりしてんの」

「………………僕、友達少ないから大丈夫だよ」

「あ、そう……」


 やっぱ恋華と似てるんだよなあ。


「雨が無事だったって聞いたし、直属班の皆は狙われなかったみたいだし、僕の周りは被害者いないよ」

「そっか……そっか、雨も……そうだよな……無事ならよかったぁ……」


 紅やら自分のことに必死で忘れていたけど、そういえば雨も同年代の男だった。あ、でも忍びじゃないからターゲットから外れたのかな。……にしても、無事で本当によかった。


「……てか、もしかして俺のこと心配してくれたのか? 夾のことで落ち込んでんじゃねーかって」


 空翔は一瞬目を見開いて俺を見るが、すぐに「別に……そんなんじゃないけど……」と真顔に戻る。照れ隠しのようにも聞こえるが…イマイチわからん。

まあこの際、勘違いでもいいや。今日ずっと考えてたこと話せてちょっとスッキリしたし。


「ありがとな、空翔」

「……!」


 つい癖で卯李達にやるように頭を撫でてしまったが、よくよく考えたら空翔、年上だった。やべ、また怒られるんじゃね、俺。


「………………子供扱い、しないで」

「すんませんでした先輩」

「わかればよし」


 案の定怒られはしたが、さっきよりはわかりやすく照れたような口調の空翔。初対面の時とは違うことがわかって、少しは仲良くなれたのかとなんとなく嬉しくなった。


 気付けば痣の痛みはすっかり引いていて、話し込んでしまったことを認識する。そうして俺は「修行、再開すっか!」と立ち上がった。


「じゃあ次はもっと実践に近い感じでやろうよ」

「うわぁっ!? どっから出てきたんだよ恋華……!?」


 突然戻ってきた恋華に驚く俺。心做しか空翔もびっくりしてるように見えるが、イマイチ表情読めないんだよな。


「ふふ、ゴム製手裏剣追加でもらってきたんだ~」


 楽しそうにそう言う恋華に、まだ増やす気かよ……手、二つしかないんだが……とビビる俺だったが、どうやら二人の手元にある手裏剣を増やすことで次が飛んでくるまでの間隔を短くする&実践のように動きながらやるため、らしい。

 結構ガチで協力しようとしてくれてるじゃねえか恋華……と少し見直す。まあ俺が打ち返したのを更に取ることで、二人にとっても修行になってるみたいだしな。


「よし! 始めようぜ!」


 そうして始まった修行は、珍しく俺が早く終えたいと思うほどのハードさだったのは言うまでもないだろう。

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