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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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二十九話・暗雲



 次の任務を待つ間も、師匠との修行は続く。

 しかしその内容は、紅を扱うためのものに切り替わっていた。


「利月くんは楽の友達だと聞いたが」

「あ、刹那さん~今日は見学を許して下さりありがとうございます~」


 そしてこれもいつもと違う。

 利月。ぶっちゃけ俺もまだ聞き慣れない名だが、知っての通りこいつは里冉である。俺との再会後、里冉は利月という架空の人物に扮して伊賀に潜り込むようになっているが、今日はこの前の宣言通りこうして道場にまで上がり込んできた。

 改めて思う。なんてやつだ。その顔面偏差値の高さで素性がバレないとでも思ってるのか。


 とはいえ、伊賀者には法雨家の名前は聞いたことがあっても、直接会って顔を覚えている者などそうそういない。まあ師匠がどうかは……わかんねーけど。


「楽様のお友達……ですか」

「うん。君は確か……桜日ちゃん、だよね?」

「馴れ馴れしくちゃん付けしないでください」

「らっくんには呼び捨て許してるのに!?」

「どうして知ってるのです」

「らっくんから話を聞くからに決まってるでしょう」

「……!」


 なんでちょっと嬉しそうなんだ桜日……?

 なんてはてなを浮かべていたら、里……利月が俺に向き直る。


「らっくん、紅くんとの修行は順調?」

「いーや……それがさ……」


 俺が目を逸らす訳。それは……


「発火すら上手く使えなくなったぁ!?」


 そう、能力が何も使えなくなったのだ。


 実は里冉と会った次の日の夜、俺は茶紺に「そういえば昨日は帰りが遅かったけど、何してたんだ?」と問い詰められていた。

 流石に本当のことは言えないし咄嗟に「コイツ使う練習してた!」と紅について話したら、茶紺は紅に興味を持ったらしく、発火能力を見せて欲しいと言ってきた。だから、修行ついでに今度こそ小規模の発火をしようとした。


 ……しかし、できなかった。

 何度試しても、煙すら上がらなかった。


「どうして急に……」

「わっかんねえ。紅が言うには『桜日を危険に晒した』って思いが俺の中で無意識にセーブかけちゃって力使えなくなってるんじゃないかって……」

「でも桜日ちゃんは無事だったんでしょ?」

「まあ……そうなんだけど……」


 人を簡単に殺せてしまう能力。多分、俺はあの時紅の炎をそう認識してしまった。

 炎の使い道なんて様々で、人を傷つけないように使うこともできるのに。忍びなら尚更、諸用に使うことを求められるのに。能力を使おうとするとどうしてもあのときの光景と恐怖が蘇り、枷となってしまっている……らしい。


 すると話を聞いていた利月が、意外な話を始めた。


「うーん……僕も実は付喪神の武器持ってるんだけどね」

「はあ!? 初耳なんだけど」

「まあ自分の武器や能力については無闇に人に話さないしね」

「それもそうだ」

「それでさ、僕のも簡単に人を殺せちゃうんだよ」

「……!」

「なんなら紅くんよりも殺人特化でさ」

「へえ……」


 マジで初耳なんだが……奥の手ってやつかな……。

 あ、いやもしかして再会した日の梯との交戦中使ってた忍刀がそれか……? 優達のショックで正直記憶は朧気ではあるのだが、あのとき刀で敵の喉を一突きにしていた里冉が見たことのない冷たい空気を纏っていて結構印象的だったんだよな……梯の奴等にも妖刀だとか言われてた気がするし、多分あれのことだろう。

 ……まあ今は師匠達の前だから、あの夜の話はできないけど。


「そんな危ない武器だから、使いこなせるようになっても滅多に使わないようにしてるんだよね。任務にない殺しは罪に問われるし」

「それでか……お前が体術に長けてるのは……」

「そういうこと」


 俺達の会話を聞いていた師匠が、その言葉に食いつく。


「利月くんは体術に長けているのか、ほう。一つ手合わせ願いたいところだな」

「いやいや、伊賀一の刹那様の前じゃ長けてるのうちに入らないも同然のものですから……相手にもならないと思いますよ」

「ふむ、それは残念だ。楽よりは見込みがありそうだと思ったんだがな」

「俺と比べたらそりゃそうでしょうよお!」


 一々俺を弄るのやめてくんねーかな師匠! 里冉強いんだもんそりゃそーだろ!


「……で、そう、付喪神の武器。危ないものが多いでしょ、だから使わないって選択肢もあるんじゃないかなって」

「あのなあ、俺がそれ選んだところでお前みてーに別のところで強くなれるとは限らねーだろ」

「そう……だね」

「お前みたいに戦闘センスがあるわけでもねーし、すばしっこいだけが取り柄だし」

「あと愛嬌ね」

「あぁまあ取り入るのは得意だけど…戦闘面で不安しか残んねーじゃん今現在」

「うーん確かに……」

「だから、こいつを上手く使えたら少しは役に立てんじゃねーかなって思うんだよ。火鼠に相応しい能力だし……」


 そう、火遁を得意とする火鼠として活躍するには打って付けの能力なのだ。

 まるで紅を手にして火鼠に入ることが決まっていたかのような、そんな出来過ぎた展開だと思ってしまうほどに。


「……あとさ、何より俺がこいつを使いこなしてみてーんだ」

「らっくん……」


 紅はまた立花のに使われることになるなんて、と言っていた。菊の露にあったということは少なくとも親父のでないことは確実だし、何代前かは知らないが……おそらくコイツは武器として使ってくれる主を待ち続けていた。

 それに、発火を試すうちに紅も紅なりに頑張ってくれていることに気付いた。あんな性格だし生意気だが、未熟で不甲斐ない俺に合わせてくれようと、使ってもらおうとしていることが伝わってきた。


 だから、使ってやりたいと思った。


「……じゃあまず威力をしっかりコントロールできるようにならなきゃね! そうすれば恐れもなくなるでしょ」

「恐れを無くさなきゃコントロールも何も出来ないんだけどな」

「あはは、そうだねぇ」

「恐れ、かぁ……」

「……あ、いいこと思いついた」


 先程から俺と里冉……利月のやりとりをじっと見守っている師匠。視線がなんだか、こう、何かを含んでいる気がして少しヒヤリとする。まさか、甲賀者ってバレてるわけじゃ……。


「あのね……ってらっくん聞いてる?」

「え? あ、うん、聞いてる」

「……? どしたの? 大丈夫?」

「……っ」


 熱でもある? と確認するふりをして顔を近づける利月。

 俺は思わず狼狽えかけるが、利月は「安心して、刹那さんは俺を売るような人じゃない」と囁いてきた。


「うん、熱はなさそうだね。よかった」


 なんでわかるんだよ? と俺が聞く前に、里冉はパッと利月に戻って話し始めてしまった。まあ……里冉がそう言うならいいか……いいのか……? うーん……


「……で? 思いついたいいことってなんだよ」

「あぁそれはね、誰かを傷つけるために使おうとするんじゃなくて、誰かを守るために使おうとしたらもしかしたららっくんなら、と思ってね」

「お前……天才か……?」

「えへへ」


 俺の言葉に嬉しそうに笑う利月。こういうのは演じてる可愛さなのさ素なのか、いまいち分かんねーな。


「なるほどな、楽なら確かにその方が使えそうだ」

「でも炎で守るって結構むずくないっすか……? どういう状況……」

「今が真冬なら誰かと雪山に放り込むんだがな」

「ひぇよかった春先で……」

「でもそれくらいの状況は欲しいですよねえ」

「楽様を危険に晒すなんてだめです!」

「桜日、俺これでも火鼠……」

「まあらっくんだもんね~……」

「それ利月さんが言うと腹が立ちますね」

「理不尽だなあ。桜日ちゃんもしかして俺のこと嫌い?」

「今気づいたんですか?」

「えーんらっくーん桜日ちゃんがいじめる~」

「楽様に引っ付くなぁぁ!」


 なんだか楽しそうな利月達を他所に、考え込む俺と師匠。

 浮かぶには浮かぶが、どれもこれも失敗した時のリスクがでかすぎて今の俺には向かないものばかりだ。でもこの際無理矢理でもいい、とにかく俺自身の中にある紅との壁をぶち壊したい。そうすればきっと、俺は今より少しは火鼠で活躍できるようになる。


「……一先ず地道に楽の意識を〝守る為の力〟に変えていくしかないか。コントロールはともかく、まず使えるようにならないと危険な状況に置くわけにもいかないしな」

「そっすね……地道に……」


 修行の間、桜日のように律儀に待ってくれる梯ではないだろう。一刻も早く強くなりたいのは、やはり変わらない。

 それでも今は、地道にやるしかないのだ。


 少し前までの包帯だらけの手を思い出す。無茶が悪手だということは桜日に、師匠に、しっかり叩き込まれた。だから焦らず急がず、やれることから。


 そうして逸る気持ちを抑えた俺は、利月が見守る中この日も修行に励んだのだった。




   * * *




「やあ(ふう)

「師匠、こんばんは。いい夜ですね」


 その夜、刹那は直属班の一つである光竜(こうりゅう)に所属する、諷という忍びと会っていた。

 色素の薄い髪の襟足を伸ばし、左耳に星型のピアスを付けた長身の青年。しかし彼の素性を詳しく知る者は、この里には数える程しか居ない。刹那はどうやら、その内の一人らしい。


「伊賀の暮らしには慣れたか」

「そうですね。お陰様で」

「だがそれも偽り、か……」

「どういう意味です?」

「ふ、お主が一番わかっているだろう」

「……さあ?」


 含みのある笑みを浮かべた刹那は静かに諷に近づき、その耳元で何かを囁く。囁かれた諷は一瞬、ほんの一瞬だけ表情を変えたが、すぐに紳士的ないつもの笑顔に戻った。


「それをどこで聞いたのです?」

「さあ?」


 いたずらっ子のように笑いながら同じ返しをする刹那に、全く……この人は……と笑う諷。


 次の瞬間、


「……まさか貴方からになるとは。私も驚きですよ、師匠」



 刹那の首筋には、諷の苦無があてがわれていた。

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