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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
29/105

二十八話・捜索[2]




 突然あちこちで見つかった少年の首無し死体。


 これがもしも梯の仕業だとしたら現場の付近に何かしらの痕跡が残っているかもしれない。


 そう考えた俺達は、夾(であろう少年)の死体の回収や現場のことは空翔が呼んでくれていた忍警に任せて拠点捜索を続けた。

 痕跡を見つけることができれば……運が良ければ構成員と接触……もしくは一方的に発見し追跡が出来るかもしれない、という可能性にまずは賭けてみることにしたのだ。


 ……しかし、結果は案の定だった。それどころか更に多数の死体を発見して、混乱するばかりで。

 そうこうしている内に月が出てきてしまい、一度佐伯家で氷鶏と合流しどうするか話し合おう、ということになり俺達は里へと戻ってきた。


「あれ、氷鶏はまだのようだね」

「うちより奥まで捜索行ってたのかな」

「だろうなぁ」


 玄関に並ぶ靴の数を見てそんな会話をしながら、俺達は佐伯家に上がり込んだ。(茶紺が調査用に合鍵を預かっていたらしい)

すると居間に近づくにつれ、話し声が聞こえてくる。

 二人いるみたいだけど……あれ? なんか……


「でね、睦ってば笑い堪えてんの。酷いよね、私が必死でやってんのにさあ」

「いや睦が笑い堪えてるのとかなんでわかんの裕威……俺には無表情にしか見えないんだよな~……」


 ん!? 裕威さ……ん!? と……聞き覚えがある声……


「あ~……チャイム鳴らすべきだったかな……」

「え、班長……」


 俺が言い終わる前に、居間の襖を開ける茶紺。


「裕威~バレたぞ」

「あ………まいっか」

「いいんだ」

「え……!?」


 俺が驚いたのは二つ。


「……ふ、驚かせちゃってごめんね?」


 そう言って妖艶に微笑む裕威さんが、オネエだったこと。

 そしてもう一つ。


「なっ……せんせぇ!?」

「あ、やっほ~楽。元気してた?」

「元気っすけど!? なんでいるんすか!? あ、え!? まさかいつメンのあと一人って……」

「そ、おれおれ~。留守番係暇だからって裕威の話し相手に呼ばれたんだよ~」


 裕威さんと仲睦まじげに話していた相手が、昔からの知り合いだったこと。


 王生 長月(いくるみ なづき)、俺の元専属家庭教師。この前恋華が言っていた「名家あるあるの家庭教師」ってやつの、その先生だ。

 髪が長くてチャラめで女子力高めのにーちゃんで、俺は少し前までずっとこの人に勉強を教わっていた。今は俺じゃなく卯李の家庭教師をしていてまた立花に頻繁に出入りしているらしいのだが、タイミングが合わずしばらく顔を合わせられていなかった。なのでわりと久しぶりだ。


 そういえば長月せんせも茶紺と同期って言ってた気がするなあ……!? 道理で裕威さんが「楽くんはよく知ってると思うな」とか言ってたのか…!! はぁ~なるほど……。


「あはは、楽くんいいリアクションするね」

「いやぶっちゃけ今日色々起こりすぎてて頭が追いついてないんすけど……」

「何なに、任務でなんかあったの」


 普通に素の方で話してくれる裕威さんに戸惑う俺を他所に、茶紺が今日のことを話し始めた。


 ……確かに初対面の時から綺麗な人(手先とか仕草も)だなとは思ってたけど、まさかオネエだったとは……ていうかこうして素で話してる姿を見てると普通にお姉さんに見えてくるな……。特に女装とかしてるわけでもないのに、なんなら男として振舞ってる時を知ってるのに自然と女性に見えるのは、仕草とか話し方とかに内側から滲み出る女性性ってやつ…? が、なんかこう…すごい出てるんだろうなあ……(?)変装術の参考になりそう……とか思いながら観察してる自分がいるのは……気付かなかったことにしておこう……。

 ていうかもしかしてあれか、長月せんせの女子力ってもしかして裕威さんの影響だったりしたのか。そう思うと茶紺、このメンツに囲まれててよくここまで普通~な感じに育ったな……いやこのメンツだからこそなのか……?


「……らっくん、裕威さんにちょっとドキドキしてるでしょ」

「は、してねえし」

「え~すけべなこと考えてたんじゃないの~」

「なんでそうなるんだよ」

「ガン見してた」

「……見た目男なのに綺麗なお姉さんにしか見えないのすげーなと思ってた」

「まあそれはわかる」


 やっぱ恋華にもそう見えるんだなあ、すごいなあ、と思う俺は一体なんの参考にしようとしてるんだか。やめようこれ考えるの。

 なんて思っていたらいつの間にか茶紺の話は終わってて、裕威さんと長月せんせの表情が先程とは打って変わって曇っていた。


「大量死体、ね……またやけに物騒な事件に巻き込まれたね茶紺」

「俺がっていうか、伊賀全体がだと思うぞ」

「そうだよな~……縁起でもないこと言いたくないけど、倭ももしかしたらそこに……」

「……まだわからないけど、可能性は大いにある」


 やっぱりそう思うよな。今のところ俺達が判別できたのは夾だけだが、何せかなりの数の子供が同じ目に遭っているわけだ。倭がその中にいてもおかしくはない。

 むしろ、倭の場合は梯に狙われる理由が無さすぎて無作為に選ばれた中にたまたま入っていたと考えた方が納得がいってしまう……。


「問題は、何のために奴等はこんな数の死体を用意したのか…だ」

「絶対なんか理由ありそうだもんな、じゃないとわざわざあんな姿にしないだろうし」

「僕達を無駄に惑わせる為だけにそうした可能性もないとは言いきれないよ」

「…って読むことまで計算した上で、更に裏をかいて……とかも考えられるしなぁ」

「まああっちも忍びだからねぇ、見える情報だけじゃ本当は何考えてるかなんて全くわかんないよねぇ」


 そう、多分今は答えを求めるだけ無駄だ。それでもあらゆる最悪のケースに対応するために想像しておくことは無駄ではない……と思いたい。つか未だにあれが夾だって実感湧いてないし……道場来ないなぁとか思ってたらあんな姿になってるとか誰が想像したよ……マジで心の準備する時間くれ梯……いや違うな、普段からしておくべきなんだな……。


「ていうか本当に梯の仕業なの?」

「うちの里に出入りが出来て、こんなことをやりそうなのは奴らくらいだろ」

「まあ確かに……ね」

「しかし梯の考えそうなこととはいえ、実行犯が梯だとは限らないな……」

「そう、内部に裏切り者がいる可能性あるなって思ってさ」


 なるほど、確かに実行犯が伊賀者だとしたら里内で動いてても不自然に見えない分かなり厄介だな。


「………なあせんせ」

「どした楽」

「あれ……なんて言ったっけ……」

「あれって?」

「ほら……なんか……前習った教えでさ……木を隠すには森的な……」

「ああ、木陰の大事?」

「そうそれ!」

「木陰の大事がどうかした…………、っ!」


 長月せんせがハッとする。俺達の会話を聞いていた茶紺も気付いたようで、ふむ…と考え込んだ。


「人を隠すのは人……つまり」

「……子供を隠すのは子供、か」

「なるほど、一理ある…」

「なに、つまりどういうこと?」


 恋華が聞くと、茶紺と長月せんせが神妙な面持ちでこう答えた。


「伊賀の子供の中に梯の協力者がいて、そいつが実行犯な可能性がある」

「もしくは、隠さなければいけない子供の死体を隠すために用意された死体の山かもしれない…ってとこかな」


 俺が考えたのは前者だったけど、そうか、死体に関してもそうだな……!?


「だとしたら、そこまでして隠さなきゃいけない死体ってなんだろうね……?」

「伊賀中の子供を調べて回るのは骨が折れそうです……」


 急に増えた声に振り向くと、そこに居たのは……


「空翔! 桜日!」

「遅かったな睦」

「待たせたな」


 半分が子供とはいえ、流石に一部屋に八人は狭いな……!? と思いながら俺が席を空けようとすると、睦さんに制止された。


「いい」

「え、でも」

「すぐに報告に向かう」

「あ、なるほど」

「……茶紺、話はもういいか?」

「ああ、合流できたし、行こうか」


 そうして俺達は佐伯家を後にした。




   * * *




「なあ桜日、気になってたんだけどさ、なんで今日いつもとキャラ違うんだ……?」

「あっ……えっと………」


 班長達が長に報告に行ってる間、俺達子供組は長屋敷の玄関口で待っていた。

 その間暇なので今日ずっと気になってたことをふと聞いてみたのだが、口にしてからもしかして聞いちゃいけないことだったか……!? と思う俺。気づくのが遅すぎるだろ今日一日死体見すぎたショックで思考回路ポンコツになったか?(?)とか考えてたら、桜日は俯き気味にぽそぽそと小声で回答をくれた。


「恋華さんが楽様を侮辱しておられるのを見て…つい…壁を作ってしまいまして……」


 ……??? 侮辱って……もしかして自己紹介のときの「期待されてないって」ってあれか……? と、恋華と顔を見合わせる。

 コイツ初対面から俺の扱い酷かったし、そのせいで毒舌マイペースって認識してるから特に気にしてなかったけど……周りからしたら侮辱なのか、あれ。……だめだ侮辱の基準がわかんなくなってきた。


「……この子らっくんの信者か何かなの」

「ちげえよ」


 いつにも増してジト目で俺を見てくる恋華に、食い気味でツッコんだ。……え、違うよな? 違う……はず?


「ていうか僕らっくんが楽様って呼ばれてることにちょっと引いてるんだけど」

「俺一応立花の跡取りだし様付けされることくらいあるって」

「あ~はいはいそういえばお坊ちゃまですもんね~」

「……そういうところが解せないのですよ」


 そう呟く桜日に、あ……もしかしなくても合わないんだな桜日と恋華……と思う俺。しかし恋華並に(以上に?)マイペースらしい空翔はそんなことお構い無しのようで。


「せっかく同年代で同じ直属班のくノ一なんだから仲良くしたらいいのに~」

「かっ……空翔……知っているくせに……」


 知っている…? 何を…? とはてなを浮かべる俺と恋華に、桜日は再び小声で話してくれる。


「……実は…以前ここで火鼠の皆さんと鉢合わせた時思わず隠れてしまったくらい、桜日は人見知りなのです……」

「ああ、あったねそんなこと」

「そっか、あんとき桜日いたんだ…!?」


 そういえば道場で俺に見つかった時もビクビクしてたな……てっきり尾行がバレた後ろめたさからきたもんだと思ってたけど、なるほど、人見知りだったのか。

 ていうか、つまりあれか。人見知り&俺を侮辱した恋華への壁で笑顔が消えてたわけだな……?


「人見知りは僕もだから気にしなくていいよ。壁作っちゃうのもわかるし」

「恋華さん……」


 あ、珍しく恋華が歩み寄ってる。やっぱコイツ俺以外にはそんなに辛辣じゃないんじゃ……?


「……まあらっくんの何がいいかはちょっとわかってあげられないけど」

「やはり仲良くなるのは難しいかと」

「なんなんだお前ら……」

「あはは」


 そんな少し打ち解けたような、そうでもないような感じのまま、班長達が報告を終えて戻ってきた。二人は梯の拠点捜索を続けたいと直談判しに行っていたようなのだが、長にはやはり次の指令を待てと言われたらしい。

 そんな訳で、今日は案の定このまま解散することになった。


「それじゃ、おつかれ」

「お疲れ様でした」

「じゃーねー」

「気ィつけて帰れよー!」

「らっくんもねー」


 同年代の子供の死体を見過ぎたせいか、ついつい俺より強いはずの空翔の心配をしてしまうな。まあ梯相手だと直属班の忍びでもかなり危ないのは確かだし。なんて思いながら手を振った。


 それからすっかり慣れて当たり前のように茶紺と並んで家の方へと歩き始めた俺だったが、ふと茶紺が足を止め、つられて立ち止まる。


「……?」

「どした茶紺」

「……いや、なんでもない」


 帰っていく恋華の後ろ姿を見ていたような気がしたけど……気の所為か?


「ほら、帰るぞ楽」

「先に立ち止まったの茶紺じゃん!」

「はは、そうだな」


 そうして俺達は立花に帰り、任務の疲れを卯李に癒してもらったのだった。









 この時の俺達は想像すら出来ていなかった。


 あの大量死体に隠された、本当の意味を───────

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