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紅雨-架橋戦記-  作者: 法月 杏
一章
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二十七話・捜索



「今日はよろしく頼むよ」

「ああ、こちらこそ」


 火鼠と、氷鶏。

 二班が集められた今日は、合同任務を行うらしい。


 どうしてこの二班なのかというと……


「しかし倭くんの捜索を氷鶏が引き継いでいたとはね」

「……ろくな成果は得られていないがな…」


 そう、捜索初日に火鼠が誘拐の線を見出したことにより危険な任務かもしれないと考えた上が、倭捜索を氷鶏に引き継がせるという判断をしていたらしいのだ。(多分この判断は俺みたいな新入りがいる未完成な班よりも、倭と元々接点がある睦さんがいて実力も経験も豊富な氷鶏に……ということだろう)


 しかしやはり相手が悪いのか、なかなか進展が見えない今回の失踪事件。いよいよ人手に頼ることにしたようで、初日の捜索をしていたこともあり火鼠がまた加わることになった。それが今日だ。


 ……というか茶紺の話によると他の班も何件か不自然な失踪事件を追っているとのことで、暇なのが火鼠くらいだったらしい。失踪事件が同時に起こるなんていよいよ事件性が増してきたな。すげえ嫌な予感がする。


「それじゃ始めようか」

「はい! 班長!」

「なんだ楽」

「連携とるためにまずは改めて自己紹介をしてはどうでしょうかっ!」


 桜日と恋華とかなんか初対面っぽいし!


「なるほど、そうしようか。……俺は秋月茶紺、火鼠の班長を任されている。よろしく頼むよ。次」

「一鬼恋華。火鼠でーすよろしくー」

「立花楽、火鼠の期待の新人でっす!」

「いやぁ期待されてないって」

「やめろ恋華、地味に傷つくからそれ」


 火鼠が名乗り終わると、茶紺が睦さんに視線を送る。


「狼谷睦。氷鶏の班長だ」

「桔流空翔でーす。こっちは僕の忍烏達。よろしくね」

「……五十嵐桜日と申します。本日はどうぞよろしくお願い致します」


 ……んん? なんか桜日……道場で話す時と雰囲気違うような……? ていうか今日集合してから一度も笑顔を見ていない気がする。仕事モードってやつか?


「……自己紹介も終わったし、そろそろ」

「班長質問!」

「今度はなんだ楽」

「なんで今日の集合場所ここなんすか!」

「それは睦に聞いた方がいいな。ていうかそれをこれから説明してもらうんだよ」


 話を振られた睦さんが、静かに話し始める。


「……任務を引き継いでからの数日、俺達は倭を誘拐しそうな者について調べていた」


 やっぱそこなんだな。そりゃ睦さんのいる班に任せるよな。


「しかし誘拐犯からの連絡はないし、そもそも誘拐だという確たる証拠もない。あるのは倭が突如消えたという事実だけだ」

「なんか、神隠しみたいっすよね」

「そうだな。おかげで調査は雲を掴むようなものだった。関係者を片っ端から調べ、聞き込みを続け、辿り着いたのが……」


 一拍置いて、睦さんは続けた。


「やはり梯の仕業である可能性が高い、という結論だった」

「……!」

「……これといって何か手掛かりを得た訳でもなく、単に里内の者の犯行である可能性は低いことがわかった、というだけですが」


 桜日が淡々と補足する。すると、大人しく話を聞いていた空翔が口を挟んだ。


「里も半ばヤケクソで梯に押し付けてる感じだよねえ。梯の仕業にしてしまえば、里内でのいざこざかもしれないことも外に責任押し付けられる……っていうか」

「確かにそうとも取れるが……」

「だってほら、変だと思わない? どうせ外部の仕業にするなら甲賀者でもいいじゃんね」

「あ~……」


 思わず納得しかける俺だったが、茶紺が反論を始めた。


「いや、甲賀は無駄に伊賀に喧嘩を売るような真似はしないはずだよ。余程の理由があるか、里の意思を平気で無視できる狂人による犯行でない限り……ね」

「……ま、逆に言うとその狂人説はあるけど、それを言ってるとキリないもんねぇ」


 そう言って恋華が肩を竦める。

 なるほど、確かにそう思うと梯に行き着くのもわかる……というか確率的に高く見えてしまうのも仕方ない。誘拐をする理由がない(ように思える)という点では梯も甲賀も同じだけど、甲賀には更に伊賀に喧嘩を売りたくないという『無闇に手を出さない理由』もあるから、自然と梯が怪しく見える……と。


 うぅんなるほど、俺が初日になんとなく勘で話してた犯人梯説が氷鶏の調査のおかげで濃厚になってしまったわけか……。

 いよいよ倭が無事か怪しくなってきたな。誘拐事件の生存タイムリミットって確か72時間とかそんな感じだった気がするし、今日の任務を聞いた時点で薄々手遅れかもしれないとは思ってたが……いやこれって目的によるんだっけか……うぅん、目的がわかれば苦労してないんだよなあ……。


「……話はもういいだろう。俺達忍びは与えられた任務をやるだけだ」

「そうだね、捜索を始めようか」

「はーい」


 話を聞いて、質問の答えはわかった。

 集合場所がここ……里外へ続く森の入り口だったのは、今回の任務が『倭の捜索』ではなく……


 『梯の拠点捜索』だからだ。




   * * *




 任務開始から数時間。

 梯の拠点は見つからないが、代わりに見つかったものが一つ。


「これ…は……」


 二手に分かれていた氷鶏から合図があり、急いで駆け付けた火鼠が見たもの。

 それは─────奇妙な死体だった。


「なんでこんな……」

「うわぁ……」


 俺と同年代くらいの少年であろうその死体。

 何が奇妙かというと、服と首が綺麗さっぱりなくなっているのだ。


「……明らかに人為的なご遺体ですよね……」

「ああ…調べても大丈夫かなこれ……」

「触ったら怒られちゃうでしょやめなよ」

「あ、僕烏で忍警呼んでおくね」


 冷静に観察する十代組。一方で大人組はそれを一歩引いて見守っていた。


「なんか…全員プロの忍びといえど子供が死体を見てここまで冷静なのを見ると……俺達がやってる教育は正しいのかと不安になってくるな……」

「同感だ……」


 まあそりゃ忍びだしなあ。推定身長的に倭ではないし、身内の死体でもなさそうだし……。それにしても綺麗な切り口だが…首はどこ行ったんだ……? わざと体だけここに捨てた…ってことか……? ていうか恋華と桜日はよく男の全裸死体を平気で見てられ……


 …………ん?


「な、なあ桜日……こいつ……見たことないか……?」

「へ……?」


 俺が凝視しているのは、そいつの腕にある大きな傷。

 桜日もそのことに気付いたようで、サッと顔色を変える。


「まさか……な……」

「い、や……でもこの傷は……あの方……ですよね……」

「やっぱ……気の所為じゃない……か……」


 一気に血の気が引く。調べるまでもない、こいつは……


「夾……だ……」

「夾様……そんな……」

「二人共、知り合いか……!?」


 知り合いと気付いたことで思わず取り乱しかけるが、なんとか冷静に夾についてのことを皆に話す俺と桜日。その途中「おそらく廃村の孤児で……」という言葉を聞いた茶紺の表情が変わった。


「………楽、この子の見た目をもっと詳しく話してくれるか」

「えっと……目付きが悪くて……ぼさぼさの灰色の髪を後ろで一つに結んでて……」

「やっぱりか……」

「茶紺も知ってんのか?」

「ああ……」


 茶紺は受け入れ難いと言わんばかりの険しい表情で、続けた。


「俺の記憶が正しければおそらく……この子は昔卯李と一緒にいた子だ……」

「……!!」


 え、ええ……!? それは全く予想してなかった……まさかそんな所に繋がりがあるとは……。


「そうか……なるほどな……幼い卯李は『きょうくん』が言えなくて『こーくん』と呼んでいたんだ……」

「なあ茶紺……これってもしかしなくても……」

「ああ……梯の仕業だろう……。まさか奴等は……当時の卯李の関係者まで抹殺しようとしているのか………?」


 その言葉を聞いてからもう一度死体を見ると、さっきは感じなかった得も言われぬ恐怖が襲ってくる。

 そんな…あの夜もし里冉がいなかったら……卯李もこうなっていたかもしれな…………ん? いや待てよ? だったらなんで頭部と服を無くす必要があったんだ……?


「茶紺、その話は俺達が詳しく聞くことはできない話か?」

「……睦になら。できれば一応里には秘密に……」

「ねえ、ちょっと聞いて」


 先程から次々現れる忍烏と何か話して(?)いた空翔が声を上げた。

 見ると、普段は無表情気味なその顔が困惑に塗れていて、何事かと空気が変わる。


「他の班も……同じような死体を見つけたって……それも一つや二つじゃない……」

「……!!?!」


 この報告を聞いて、気付いた。

 どうやら梯の目的は卯李の関係者の抹殺ではない、ということに。




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