アダルト・マーメイド
タイトルにアダルトとかありますが、哺乳類的な猥褻は一切ありません。
だって魚類だし。
人魚の姫は迷っていました。
目の前ですやすやと眠る王子の胸を刺し、その血を浴びないと元の人魚の姿に戻れないというのです。
そう、今人魚の姫は魔女の薬を飲んで、下半身を人間と同じものに変えていました。
(刺したら当然王子様は死んじゃうわよね)
この王子様は人魚の姫の初恋の相手でした。
王子様を好きすぎるあまり下半身を人間に変えて、この城に居候として潜り込んでいたのです。
ですが王子様は人魚の姫と顔がそっくりな隣国の王女と結婚することになってしまいました。
かつて王子様が海で難破(ナンパではありませんよ?)した時に助けてくれた女性にそっくりだった、というのが結婚に至った理由です。
(助けてあげたのはわたしなのにさ)
助けた女性と人魚の姫と隣国の姫と、よく似た顔の女性が三人もいたら、設定破綻にも程があるということになってしまいますね。
助けた女性=人魚の姫であれば、そっくりさんは二人ということになり、「まあそんなこともあるかな」ということで、読者も納得してくれると思います。
それはともかく、人魚の姫です。
彼女はまだナイフを胸に抱えたまま、あれこれと悩んでいました。
自分と隣国の姫とを間違え、勝手に隣国の姫に熱をあげ、人魚の姫を結果的に振った男です。
可愛さ余って憎さ百倍状態になってもおかしくはありません。
そうなれば、後はもうぶすっと一発あるのみです。
しかしまだ人魚の姫の心には王子様への未練が残っており、心の中の悪魔の「景気よくやったれや!」との声を現実にすることができなかったのでした。
(はっ)
悩みつつうろうろしている間に、人魚の姫はあることに思い至りました。
(王子様の血を浴びれば人魚に戻れるというのなら、わたしの血を浴びれば王子様も人魚になるのでは?)
か弱い人間だったらナイフで胸を刺すと出血多量で死んでしまいます。
ですが人魚の体は、その肉を食らうと千年の寿命を偉えるほど頑丈なものなのです。
ちょっくらナイフで刺しても、その傷はすぐに塞がってしまうことでしょう。
(そうよ。どうしてそのことに気づかなかったのかしら)
自分の名案に夢中になった人魚の姫は、その理論がほんとうに正しいのか確かめもせずに、王子様の胸を刺してぶわぁあああっと噴き出す血を浴びます。
そして人魚の姿に戻ると、今度は自分の胸を刺し、その血を王子様の体に降り注がせました。
幸か不幸か、人魚の姫の考えた適当な理論は、生物学的に正しいもののようでした。
元の姿になった人魚の姫の胸の傷はあっという間に塞がります。
そして王子様の下半身が魚になり、その胸の傷もやはり速攻で癒えたのです。
人魚の姫はまだ眠っている王子様を小脇に抱えると、器用にぴょんぴょんと飛び跳ねながら城の近くの崖に行き、王子様とともに海に飛び込んだのです。
数日後。人魚の姫はいぶかる王子様を適当に騙しすかし、結婚式を挙げてしまいました。
そして数時間が経ち、いよいよ初夜ということになりました。
「姫。初夜とは言うが」
「なんでしょう愛しの王子様」
「今の僕の下半身は魚のそれだ。つまり、交尾のための道具がない」
「あらなんだと思えばそんなこと」
「そんなこと?」
「確かに野蛮な陸上生物のように胎内受精というのはできませんが、交尾そのものはもっとエレガントな方法でできましてよ。ふんっ」
人魚の姫がふんばると、おへその下十数センチのあたりから、ピンク色の丸いものがぽこぽこと湧き出てきました。
「さあ王子様。このわたしの卵に王子様の白子をかけてください」
「い、いやそう言われても、その、白子を出すための道具が…」
「気合でなんとかなります。興奮するためにおっぱい見ますか?」」
「い、いや、そういう問題じゃない。り、陸に返してくれ~!」