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辺境伯軍の変化


エミリアが辺境伯軍の指揮を執り始めてから1ヶ月が経過した。最初は反発していた兵士たちも、次第に彼女の実力と熱意に心を動かされ、少しずつ態度を改め始めていた。


早朝、エミリアは軍の訓練場に立っていた。彼女の手には木剣が握られ、目の前には新人兵士たちが並んでいる。


「これからなにが始まるんですか」

新人兵が先輩兵に聞く。

「まあ、一言で言えば洗礼だな。」


「辺境伯軍へようこそ。」

エミリアの、肺活量に裏打ちされたよく通る声が響く。

「この軍の目的は民を守ること!そのためには平時は魔物討伐や治安維持、有事は前線に立って盾になることが求められる。時には仲間を失うこともあるでしょう」

「でも!そんなこと私が起こさせない。日々厳しい訓練と有事に向けたシミュレーションを徹底して、民の誇る辺境軍となりましょう!」

「「おーー!!!」」

エミリアの鼓舞に感化された兵士たちが雄叫びをあげた。


「隊長、ガトナ」エミリアの声に筋骨隆々とした男が答える。

「はっ。今日の訓練メニューだ。模擬戦の結果割り当てられた1-30班ごとに違うから確認し、各自班長の号令に合わせて訓練を開始せよ。」

「「はっ!」」


25班に配属された新人兵のトンズが訓練メニューを確認する。

「え、こんなにキツイメニューをしてるんすか。あ、初日だから気合いを入れるために特別っすよね?脅さないでくださいよ」

「いい質問だな。もちろんこれは毎日のメニューだ。しかもこれは1班のように上級班になるほどハードなものになるのだ」

班長の答えに新人兵は思わず口を開けた。

「それに、あれをみろ。」

班長の視線の先には既に特訓を開始した1班と、その中心にエミリアがいた。

「お貴族様もやれるんだ。おまえも負けないように励むんだぞ。」


訓練後、新人兵のみが綺麗に屍となっているところへエミリアがやってくる。

「トンズ、あなたは脚力が素晴らしいわね。伝令の素質があるわ。体力が伸びたらすぐにでも第一線で活躍できるはず。期待しているわよ」

「俺の名前、なぜ知ってるんですか?」

「私が採用したし、ここにいるメンバーは皆命を預け合う仲間だもの」

エミリアはそう言って微笑むと別の新人に声をかけに向かった。

兵士は呟く。

「この部隊で出世したら、貴族の方と結婚するとかってできます?」

「....。ライバルは多いぞ。まずは伝令に昇格することからだな。」

班長はまるでその質問をよくされているかのようにスラスラと答えた。



★★

訓練に加え、エミリアは狩りの実践や森でのサバイバル術を組み込んだ新しいカリキュラムを導入していた。これにより、兵士たちはモンスターや野生動物への対応力を鍛えられるだけでなく、冬籠りに必要な物資を自力で確保する術を身につけ始めていた。


この日は、キングボアほどではないが、危険な獣「スノーウルフ」の群れの討伐訓練を行っていた。


あのだらけきっていた部隊が嘘のように、班ごとに統率された動きで、群れを制圧していく。


辺境軍のレベルの高さに見惚れていた新人兵の一人が獣に押し倒されそうになった瞬間、エミリアは素早く駆け寄り、狩猟弓で正確に矢を放ってスノーウルフを仕留めた。

「もっと状況を読んで動きなさい! 命がいくつあっても足りないわよ!」

叱りつつも、兵士を引き起こし笑顔を見せた彼女に、その場の空気が和らぐ。


エミリアの指揮もあり、この日も無事死者を出さずに討伐訓練を終えたのだった。


★★

ある日、訓練が終わり、兵士のリーダー格であるガルフがエミリアのもとに歩み寄った。


「姫様、いや、将軍……俺たち、最初は正直、将軍がこんなにやるとは思ってませんでした。でも、この1ヶ月で分かりました。将軍は本物です!」

周囲の兵士たちも、ガルフの言葉に同意して頷く。


「私を信じてくれるのは嬉しいけれど、まだまだこれからよ。辺境の地を守るには、もっと力をつけないといけないわ」

エミリアは微笑んで答えたが、その瞳には強い決意が宿っていた。


1ヶ月の訓練で兵士たちの狩猟スキルが向上し、冬の備蓄用の食料も格段に増えた。狩りで得た肉や毛皮を販売した利益は軍の運営費として蓄積され、財政の改善にもつながりつつあった。


その晩、訓練の成果を祝う宴が開かれた。

エミリアが特製のシチューを振る舞うと、兵士たちは口々に喜びの声を上げた。


「これが冬を乗り切る第一歩よ。これからも頑張りましょう!」

エミリアの言葉に、兵士たちは一斉に「「おう!」」と気合の入った返事を返した。


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