ちょっとした悪戯
「……最近、あの公爵、綺麗な女の使用人を集めてるって話があるわ」
市井での情報収集を済ませたエミリアがそう言うと、ジークは眉をひそめた。
「つまり、お前がそこに潜入するってことか?」
「そういうこと」
「おいおい、仮にも貴族の身分なのに、そんな危ないことして平気なのか?」
ジークの声には明らかに心配が滲んでいた。エミリアはそんな彼を見つめながら、少しだけ悪戯心を働かせる。
――ふっ、とポニーテールを解く。
さらりと落ちる栗毛色の髪。彼女は首をかしげるように微笑みながら、一歩、ジークに近づいた。
ジークの顔が一瞬強張る。
「私じゃ、お気に召しませんか?」
かすかに甘い囁きが、耳元に触れる。
その瞬間――。
「う、うわーっ!」
ジークは勢いよく飛びのいた。戦闘で多くの敵を屠ってきた彼の素早い身のこなしは、今ここでも健在だった。
「な、何しやがる! ふざけんな!」
彼は顔を真っ赤にして、心臓を押さえながら叫ぶ。エミリアはそんな彼を見て、クスクスと笑った。
「ジーク、あなた、女慣れしてないのね」
「~~っ! そんなわけあるか!」
ジークの動揺をよそに、エミリアはポニーテールを再び結び直し、すっかり真剣な表情に戻る。
「じゃあ、私はこれから準備して、公爵家のメイドとして潜入するわね」
「本気でやるのかよ……」
「もちろん。本気じゃなかったら、こんなことしないわ」
彼女は軽くジークにウインクすると、その場を後にした。
こうして――エミリアは公爵家に、メイドとして潜入することになった。




