貴族領での調査
「ここが問題の領地ね。」
エミリアは問題の貴族領に足を踏み入れた。
「情報収集には酒場がおすすめだぜ。ギルドは地域によって縄張りが違うからな。」
なぜか一緒についてきてくれた、A級冒険者のジークが言う。
事前の情報収集のために市場や酒場を回ると、すぐに妙な話が耳に入った。
「最近、ここの領主様、やけに羽振りがいいらしいぜ」
「そうそう。前はそこまでじゃなかったのに、最近になって豪勢な馬車を新調したり、領館を改装したりしてるって噂だ」
エミリアはジークと視線を交わした。
「……急に羽振りがよくなる要因が、この地域の特産品の売れ行きによるものなら理解できるけど、そういう話はなかったわね」
「ねえな。むしろこの辺の農業はここ数年不作続きで、儲かる要素なんざねえはずだ」
「じゃあ、一体何が収入源になってるのかしら。」
「それと積荷消失事件の関わりを断定するには時期尚早だな。実際の輸送に紛れ込んで調査してみねぇか。」
「それもそうね。」
2人はジークの案で、積荷の護衛を冒険者として引き受けることを試みた。
しかし――。
「申し訳ないが、ウチの護衛は特定の冒険者にしか頼んでいないんだよ」
荷主の男は、にべもなく断ってきた。
「護衛の追加募集はないの?」
「ないね。信頼できる奴らに任せることにしてるからな」
「どんな冒険者が護衛をしているの?」
「それは言えないね」
エミリアがさらに食い下がろうとすると、後ろで腕を組んでいたジークが「もう行こう。」とエミリアを通りへ連れ出した。
「……クロだな」
A級冒険者の彼は、長年の経験からすでに答えを見出していたようだった。
「やっぱり、領主の関係者が裏で積荷を抜いてるんじゃないか?」
「可能性は高いわね。ただ――証拠がないと動きづらいわ」
エミリアは静かに答えた。
確かに、今の時点で不審な点はいくつもある。しかし、決定的な証拠がなければ、産業省が正式に動くのは難しい。
「省庁から公式な調査官を派遣できないのか?」
ジークが尋ねる。
「一応、データを元に働きかけてもらっているけど……ここは 公爵家 の領地なのよ。強引に動こうとすれば、政治的な軋轢が生まれる可能性があるわ」
「なるほどな。だから省の連中も二の足を踏んでるのか」
「ええ。これがもっと小さな貴族の領地なら、もう少し強気に出られたんだけど……」
エミリアはため息をついた。
データとしては明らかにおかしい。けれど、問題の貴族は 帝国の有力者である公爵家の一員。それだけに、証拠がなければ正式な調査許可を得るのは難しい。
「さて、どうやって証拠を掴もうかしら」
エミリアは考えを巡らせながら、手の中の帳簿を弄んだ。




