予想外の出来事
本選の熱狂が渦巻く競技場。
観客の歓声が響く中、エミリアは違和感を覚えていた。
(……何か、変ね)
試合を終えたばかりの競技場で、ふと貴賓席を見上げた――その瞬間だった。
ヒュンッ!
耳を裂くような風切り音。
「――!」
矢が放たれる。狙いは、貴賓席の皇帝。
「弓兵だ! 屋根の上から狙撃されている!」
騎士の叫びと同時に、護衛たちが剣を抜く。
しかし、次の瞬間、影が飛び込んできた。
――剣士が、屋根から降ってくる!
「クソッ、弓兵だけじゃなかったか!」
騎士たちが迎え撃とうとするも、刺客は鋭い剣戟を繰り出し、次々と護衛を薙ぎ倒していく。
「……間に合わない!」
エミリアは迷わず動いた。
青の残光が、戦場を駆ける。
彼女は弾丸のように跳び、貴賓席へと飛び込んだ。
「はっ――!」
放たれた矢を剣で弾き、さらに襲いかかる剣士の一撃を受け止める。
敵は、ただの暗殺者ではなかった。
(……こいつ、強い!)
だが、エミリアも負けてはいない。
「――っ!」
鋭く踏み込み、一閃。
敵の剣をはじき、反撃の隙を作る。
「はぁッ!」
横薙ぎの剣圧が、暗殺者を吹き飛ばした。
そして、戦場の混乱の中――
もう一つの影が、疾駆する。
「……遅いぞ」
黒の騎士装束。
銀の飾りのついた剣。
そして、整った顔に鋭い目つきをした男――レオがそこにいた。
「――!!」
エミリアは探し求めていた人物の登場に目を見はる。
だが、彼と話す暇はない。
周囲では、まだ暗殺者たちが剣を構えている。
「……さて、どうする?」
レオが静かに呟く。
「お前は戦うのか?」
「当然よ」
エミリアは剣を構え、戦場を見据えた。
敵はまだ残っている。
そして――戦いが、始まった。
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数分後、暗殺者たちは全員地に伏した。
いくら強いとはいえ、エミリアとレオ、それに後から加わったアレクシスといった実力者の前では、暗殺者たちは敵ではなかった。
エミリアは息を整えながら、剣を納める。
レオもまた、血のついた剣を一振りし、静かにそれを鞘に収めた。
「……ふぅ、これで終わりね」
エミリアが振り返った瞬間――
ヒュンッ!
風が鳴った。
「――!」
咄嗟に身を引こうとするが、速い。
レオの剣が、すでにエミリアの目の前にあった。
ガキィン!
瞬時に剣を抜き、受け止める。
だが、衝撃が腕を痺れさせた。
「な――」
レオが、エミリアに攻撃を仕掛けていた。
「……皇帝に、近づくな」
低く、冷ややかな声。
「……っ」
エミリアは思わず息をのむ。
(……本気で、私を敵と見ている?)
剣を押し返そうとするが、レオの力は強い。
睨み合う二人。
だが――
「おいおい、随分と殺気立ってるな」
軽い声とともに、刃が滑り込んだ。
キィン!
レオの剣が、突如として弾かれる。
それと同時に、エミリアは後方へと引かれた。
「……ジーク?」
彼女を引き戻したのは、ジークだった。
「事情は知らないが、助けに入ったやつに刃を向けるのは感心しねえな」
彼は余裕の笑みを浮かべながら、レオを睨みつけた。
「……なるほど、冒険者か。」
レオはジークの剣を見つめ、一歩退いた。
「まあな」
ジークは剣を肩に担ぎ、薄く笑う。
「お前さん、近衛か? だったら、そろそろ手を引いてくれねえか?」
「……」
答えず、剣を引かないレオ。
「良い」
低く、重々しい声が響く。
皇帝の声だった。
「もうよい、レオ」
レオは剣を下げた。
「……ここはアレクシスに任せておまえは残党処理に迎え。」
「……仰せのままに」
皇帝の言葉を受け、レオは静かにその場を後にした。
エミリアは剣を収めながら、皇帝を見た。
顔を覆うような冠をつけた、大柄な男だった。
皇帝も、ただ静かに彼女を見つめていた。
「お前がエミリアか」
「……ええ、なぜ私の名を?」
皇帝はエミリアの問いには答えず微笑し、言葉を続けた。
「面白いな――帝都武道大会に、まさかお前が参加しているとは」
皇帝は興味深そうにエミリアを眺める。
そして、ゆっくりと言った。
「お前、我が妃としよう。」
エミリアは突然のその発言に驚愕し、目を見開いた。
「な...!」
その場にいたジークやアレクシスも驚いたように声を漏らした。




