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帝都武道大会 本選


帝都武道大会の本選がついに始まった。

競技場の中心には、整備された広大な闘技場が広がる。

そこを囲むように設けられた観客席は、すでに満員だった。


貴族、騎士、軍人、商人、市民、さらには各国の大使や使節までもが集まり、この一大イベントの幕開けを見守っている。


「さあ、ついに本選が始まるぞ!」

「予選を勝ち抜いた猛者たちと、推薦枠の精鋭が激突する!」


観客の興奮は最高潮に達していた。


その中で、王国の一角に座る王太子は、ある名を聞いた瞬間、動揺を隠せなかった。


「……エミリア?」


王太子アルベルトは、まるで信じられないものを見るような目で、競技場の中央を見つめる。


そこに立っていたのは、かつて自分が婚約を破棄した元婚約者――エミリア辺境伯令嬢だった。

青い装束に身を包み、落ち着いた表情で相手と向かい合っている。


「そんな……なぜ、ここに?」


ただの貴族令嬢だった彼女が、なぜ帝国の武道大会に出場しているのか。

しかも予選を勝ち抜いて本選に進んでいるということは、相当の実力者である証拠だ。


「本当に、あのエミリアなのか……?」


王太子は困惑しながら、目の前の光景を見つめ続ける。


***


第一戦開始――実力の衝突


本選出場者16人のうち、エミリアは予選突破組。

対する相手は、騎士団推薦の、帝都の剣術名門・シュバルツ家の嫡男、ロイ・シュバルツだった。


「サラブレッドの騎士様が相手なんて光栄だわ。」


エミリアは青い装束の裾を軽く払いつつ、向かい合う男を見た。

ロイ・シュバルツは鍛え抜かれた体躯を持ち、整った赤髪と鋭い翡翠の目をしている。


「……貴様、平民か?」


ロイはエミリアの装束と身なりを見て、わずかに眉をひそめた。


「試合前に身分を気にするの?」


「当然だ。我がシュバルツ家は、帝国騎士の誇りを背負っている。弱いものを痛ぶることはできん」


「それは私も同じよ」


エミリアは微笑むが、その眼差しは冷静だった。


「……ふん、せいぜい足掻くがいい」


ロイは剣を構え、審判の合図を待つ。


「始め!」


審判の声とともに、ロイが動いた。


「――速い!」


観客が息を呑む。


ロイの剣速は、まさしく帝国騎士のそれだった。

鋭い突き、流れるような剣さばき。

普通の剣士なら、圧倒されるような猛攻だった。


だが――


「……ふぅん」


エミリアはそれを寸前で避け、軽やかに後方へ飛ぶ。


「かわした……?」


ロイの目が驚きに見開かれる。


「貴様、動きが妙に洗練されているな……まるで、帝国の実力者と組み手を繰り返していたかのようだ」


「さあね」


エミリアは余裕の笑みを浮かべながら、カウンターの一撃を繰り出した。


「なっ――!」


ロイは咄嗟に防御するが、衝撃で大きく後退する。

防御したにもかかわらず、腕がしびれるほどの威力だった。


「こ、これは……!」


観客がざわめく。


「シュバルツ家の御曹司が押されてるぞ!」

「いや、あの女……ただ者じゃない!」


ロイの顔から余裕が消える。


「……認識を改めよう」


今度は慎重に間合いを測りながら、低い姿勢で詰め寄る。

正確な剣捌き、無駄のない動き。

騎士として鍛え上げられた戦闘技術の粋を見せるつもりだった。


だが――


「悪いけど、終わりよ」


エミリアの青い装束が翻った瞬間、ロイの剣が弾かれた。


「しまっ――!」


次の瞬間、エミリアの剣がロイの喉元に突きつけられていた。


「……決着!勝者、リア!」


審判の声が響く。


「な、なんだ今の……!」

「一瞬で勝負がついたぞ!」


観客席がどよめく中、ロイは驚愕の表情で呆然と立ち尽くしていた。


「……完敗、だ」


ロイは悔しそうに唇を噛みながら、剣を収める。


「貴様の実力は本物だな……認めよう」


「ありがとう。あなたも強かったわ」


エミリアは礼儀正しく頭を下げる。

それを見て、ロイは苦笑した。


「負けた相手を素直に称える気にはなれんが……」


「……君は強い」


ロイの言葉を聞いて、観客席が沸いた。


「シュバルツ家の御曹司を破るとは……!」

「リア様、すげえぞ!」


こうして、エミリアは本選の初戦を突破した。


***


王太子の後悔


「嘘だろ……」


観客席からその試合を見ていた王太子アルベルトは、愕然とした表情を浮かべていた。


かつて、自分が婚約を破棄した彼女。

王宮では「田舎の冴えない令嬢」と評されていた彼女が、今目の前で、あれほど鮮やかに戦っている。


「綺麗だ……」


つい、そんな言葉が口をついた。


凛とした姿。

流れるような剣技。

あの冷静な表情も、挑発的な笑みも、すべてが――王宮にいたころの彼女とは違って見えた。


「僕は……何を見てたんだ?」


アルベルトの胸に、じわりと後悔の念が広がる。


彼女はもう、遠い存在なのか。

いや、そもそも、最初から彼女を理解しようとさえしていなかったのではないか――


アルベルトは、エミリアの背を見つめながら、静かに拳を握りしめた。

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