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王太子と婚約者、再び


王宮の大広間に集まった廷臣たちは、予期せぬ報せにざわめいていた。


「婚約破棄されたクレハ嬢が、再び王太子殿下の婚約者に?」


一度は婚約を解消され、田舎へと戻ったクレハ・フォン・リヒト侯爵令嬢が、王宮に舞い戻ったのだ。彼女の婚約が正式に復活したと知らされた廷臣たちは驚きを隠せなかった。


(まあ、正確には王太子が婚約破棄されたのだけどね。表向きはそうは言えないのだから。)

広間に同席していたエミリアの弟、フィリップはそう心のうちで呟く。


王妃は、どこか満足げな微笑みを浮かべていた。


「王太子には、やはり適切な伴侶が必要ですわ。先の婚約破棄は些細な誤解でした。クレハ嬢こそ、我が息子にふさわしい女性です」


王太子は、母の言葉に無言のままだった。彼の心に去来するのは、母に対する複雑な思いだった。

(婚約は僕のことなのに、母上はフィリップと2人で勝手に進めてしまった。母上は何をお考えなのだろうか。)



一部婚約破棄の真実を知るものは、クレハがすぐにまた王宮から出ていくのではと戦々恐々としていたが、この度王宮に戻ったクレハは、以前と少し様子が違っていた。


彼女がよく傍にいるのは王太子ではなく、フィリップだった。


前婚約者エミリアの弟でありながら、どこか掴みどころのない彼は、王妃からの過度な干渉を軽やかに受け流し、適切な言葉と態度で場を収める能力に長けていた。


クレハは、フィリップと過ごすうちに、彼が王妃の庇護を受けながらも決して彼女の道具にはならず、巧みに立ち回っていることに気づいた。


(王太子殿下とはまるで違う……)


フィリップは、王妃の寵愛を受けながらも、その支配から完全には絡め取られていない。その柔軟さと賢さが、彼女の目には魅力的に映った。


王太子は、その様子を遠巻きに見ていた。


フィリップとクレハが、親しげに言葉を交わしている。


自分の前では咲くことがなかった彼女の笑顔が、フィリップの前で咲いている。


(何だ、この気持ちは……?)


王太子は、胸の奥にじくじくとした嫉妬が芽生えているのを感じた。


★★


そんな折、帝国からの正式な招待状が届いた。


「帝都武道会へのご招待」


帝国の皇帝が主催する、伝統ある武道大会。そこに、王太子とその婚約者としてクレハが招かれたのだ。


「帝国……」


王太子は、しばらく言葉を失った。


帝都には、あの エミリア がいる。


彼女がどのような意図を持って帝国にいるのかは分からない。だが、彼女の弟であるフィリップは、今や王宮にしっかりと根を張っていた。


(エミリアがいなくても、フィリップは王宮で存在感を増している……そしてクレハまで)


王太子は、知らぬ間に自分の周りの人間が変化していくことに、焦りを感じていた。


王太子とクレハは、王宮の使節団の一員として帝国へ派遣されることになった。


(フィリップ……そして、エミリア……)


王太子は、言いようのない胸のざわつきを抱えたまま、帝国への旅支度を始めることとなる。

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