当然の再会
帝都中央広場は、発表されたばかりの大会決勝のトーナメント表を見ようと詰めかけた市民であふれていた。
誰がどの位置にいるのか、どの有力者がどの試合でぶつかるのか――人々の関心は尽きない。
「“雷迅”はやっぱり本戦からか……」
「“破軍の騎士”もいるぞ! 帝国騎士団は今年も強そうだな」
「それより、“蒼の麗人”を見てみろ! 予選で圧倒的だったって話だ」
「“蒼の麗人”……? 女剣士なのか?」
「栗毛で、鮮やかな青の衣をまとった剣士らしい。顔も相当な美人だとか」
「へぇ……強くて美しいなんて最高だな!」
群衆の間で囁かれる噂に、エミリア――偽名のリアは無表情を保ちながらも、内心でため息をついていた。
(……さすがに目立たずに済むわけないか)
トーナメント表をじっと見つめる。
自分の名前があるのは当然だ。だが――
(レオの名前……ない?)
いくら探しても略してレオになるような名はない。
だが、それは予想していたことでもあった。
(……偽名で参加してる? それとも、そもそも出ていない?)
どちらにせよ、この場にいないとは考えにくい。
本戦が始まれば、何かしらの手がかりが得られるはずだ。
そんなことを考えていると、不意に背後から聞き覚えのある穏やかな声がした。
「まさか、君が帝国にいるとはね」
エミリアが振り向くと、そこには、金髪の美青年――アレクシスが立っていた。
「……アレクシス?」
相変わらずの優雅な笑み。
帝国近衛師団の長でありながら、その穏やかで洗練された態度は、まるで宮廷の貴族のようだった。
「久しぶりですね、エミリア嬢。いや……今はリア殿と呼ぶべきでしょうか?」
「あら、どちらでも構わないわ」
エミリアは肩をすくめて応じる。
「それより、驚いたわ。あなたも出場していたなんて」
「驚いたのはこちらの方ですよ。」
アレクシスは少し目を細め、優雅にため息をついた。
「あなたが帝国にいると聞いたときは耳を疑って、何かの間違いだと思いましたが……こうして会ってみると、間違いではなかったようですね。」
「さすがの情報網ね。」
エミリアは微笑みながら、彼の目を真っ直ぐに見つめる。
「……それで、何が目的でしょうか?」
アレクシスは柔らかい口調のまま、真意を探るように冗談めかして尋ねた。
「もしかして、私のことが気になって帝国まで来てくださったのでしょうか。」
「王国からの急な来訪者に懸念をお持ちかしら?」
エミリアは敢えて答えず、アレクシスに静かに問い返した。途端、2人の間に緊張が走る。
沈黙。
緊張を解いたのはアレクシスだった。
「帝国と王国は、準友好国ですから、そんな懸念は持っていませんよ。私を追ってきたわけではなさそうで残念です。」
肩をすくめながら話したアレクシスに、エミリアはくすりと笑って答える。
「あなたの推測は半分は当たりよ。」
「どの部分が当たりなのか教えてくださいよ。」
和やかな空気の会話を続けながらエミリアは考える。
帝国は少なくとも表面上は王国に喧嘩を売っている訳ではなさそうね。しばらくは安心だわ。
それに、アレクシスにここで会った時点で、もう「目立たずに行動する」必要はなくなったとみていい。
(ここからは、堂々としていればいいか)
エミリアは内心でそう開き直る。
武道会に出る以上、目立たずなんて土台無理な話だったが、アレクシスと話して、帝国にいることを間接的に許可してもらい、もう実力を隠す理由もなくなった。むしろ注目された方が、情報を集めやすいかもしれない。
「ふふ、リア嬢とは一度お手合わせをしたいと思っていたんです。剣を交えて、私の方を少しでも振り向いてもらえるよう、努めますね。」
アレクシスは微笑みながら、トーナメント表に目を向ける。
「どうやら、我々は反対のブロックのようですね。」
「ええ、決勝で戦うことになれば光栄だわ」
エミリアはそう答えながら、再びトーナメント表を見つめる。
(レオがどこにいるのかは分からない。でも、ここに来ているのなら……)
本戦が始まれば、必ず何かが動くはずだ。
そう確信しながら、エミリアは静かに目を閉じた。




