王都からの呼び出し
「さすがレオ、あの速度で仕留めるなんてね。もう少し早ければ、私の矢が無駄になるところだったわ。」
エミリアは冗談めかして言いながら、レオの方を振り返った。
「エミリアに言われると背筋が伸びるな。君の弓の精度には到底及ばないよ。」
レオは軽く笑いながら、獲物の解体を始める。
森での偶然の出会いから、二人は、週に一度、一緒に狩りに出かけるようになった。街の食糧確保、森の見回り、狩術の研鑽から始めた狩りだったが、互いに背中を預けて戦い、収穫を分け合いながら過ごす時間は、エミリアにとって段々心地よく楽しいものに変化していった。
いつも通り、2人で狩りの成果を鍋にして味わう。
「エミリアの味付けはいつも最高だな。きっと国王でもこんな美味しい料理を食べることは滅多にないぞ。」
「ふふっ、ありがとう。」
エミリアはそう返すもどことなく元気がなかった。
レオが気遣わしげに聞く。
「今日、元気ないな。何かあったのか?」
「実はこんなものが届いて。」
そう言ってエミリアが懐から取り出したのは、王家の蜜蝋が塗られた手紙だった。
そこには、王都への召喚命令が記されていた。理由は書かれていなかったが、文面からして急を要する様子だった。
「ふむ。王都からの呼び出しとは。心当たりはあるのか?」
「...。まあなくはないわね。実は私、王太子の婚約者だったの。ただ、何分田舎育ちだから王家とは波長が合わなくて。考えたくもないけど、何か厄介ごとが起きているのかもしれないわね。」
エミリアは手紙を指でたたきながら、遠くを見つめた。
「また興味深い過去をお待ちなようだ。」
「他人事だと思って面白がってるでしょう。」
「呼び出しなんて、有能な君が必要とされている証拠さ。だが、一人で行くのは危険かもしれない。道中、護衛をつけるべきだ。」
レオは静かに言った。その言葉に、エミリアは少し笑みを浮かべる。
「あなたが護衛してくれるの?」
「お許しいただけるなら」
冗談めかして答えるレオに、エミリアは軽く肩をすくめた。
「いいわね。それなら、私が王都でどう扱われるか見届けてくれる?」
こうして、エミリアは再び王都へ向かうこととなった。隣を歩くレオの存在に、彼女は少しだけ心を強くした。