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三話 お嬢様、絶体絶命

「総員、撃ち続けろっ! 天使の翼をもいでやれっ!」


 天へと向かう弾丸の群れは、高度にして、地上より五十メートル前後に揺蕩う天使へと襲い掛かる。

 しかし。


「──《***》」


「「っ!?」」


 辺り一帯に天使の歌声が降り注ぐと同時に、弾丸は宙に結び付けられるように全ては停止した。


「ちっ! 《讃美歌》かっ!」

「あれが……魔法だと、言うのですか?」

「ああ。登録行動コード71《讃美歌》。高周波で自分の周囲を包み込んで停滞と停止を強制させる力だ」


 信じられない。アリアンナは恐怖に瞳孔を揺るがしながら、一歩後ずさった。

 やがて、宙に固定された無数の弾丸は、力無く雨の如く地に落ちる。


「大佐っ! 来ます! 魔力の増幅を確認っ! 登録行動コード72《聖槍》です!」


──それは、遠き世界にてかの聖人を突いたとされる一突きの槍のようであった。燦々と輝き、恒星のように熱を放つそれは、身の毛のよだつような恐怖と畏怖をまき散らしている。


「あり得ませんっ! あれはとても魔法と呼べる芸当ではないっ!」

「おいおい! 今更になってビビってんのか? メイドさんよ? あれが魔女だ。言ったろ? 怪物だって」


 魔法を行使するために必要なもの。それは魔力と呼ばれる特異な性質を持つエネルギー。人体に置き換えれば、カロリー。車で例えるのならば、ガソリン。

理論上、魔力とそれを運用する『術式』さえあれば、例外なく誰でも魔法は扱える。しかして、強弱の分かれ目になる要素が二つ。


「魔力量っ! 未だ上昇っ! 被害範囲の概算出ましたっ! 嘘だろっ! こんなのって!」

「早く言え!」

「……もしも、着弾地をこの基地の中心だと計算した場合、衝突からコンマ一秒以内に、半径三キロ圏内は全て……焦土と化します」

「はっ! 馬鹿みてえな、威力だなっ!」


一つは、術式の完成度。どれだけ効率よく魔力を活用し、現象として昇華できるのかという機関的性能差。

そして、もう一つ。それは、魔力の絶対数。保有できる魔力の上限。努力ではどうしようもない才能と遺伝の数値。決して、増えることはない限界。


「お嬢様っ! 障壁を張りますっ! 私の背後にお隠れくださいっ!」

「それではっ!」


 同じことになってしまう。またも自分のせいで。


「お嬢様をお守りするためならば、この命惜しくなどありません!」

「アリアンナっ! そんなのっ!」

「ラント様っ! ここはこの私がなんとしても防ぎ切りますっ! ですので! 私が死んだ時! お嬢様をよろしくお願いしてもよろしいですかっ!」

「……俺とお嬢が生きてりゃな」

「ええ! それで構いません!」


 アリアンナは両手を天へと向けた。同時に、その両掌から純白の円環が傘のように広がる。


「魔力障壁展開っ! 強度最大っ! 範囲! 私を中心に半径三百メートルっ!」


 黒い瞳に光が灯った。円環は音もなく、基地全体を覆うように広がる。


「アリアンナっ! 貴女っ!」

「すみません、お嬢様。隠していたわけではないのですが、このアリアンナ。ほんの少しだけ、魔法の行使には自信があるのです」


 ほんの少しだけ。その言葉があまりにも謙遜であると、ソフィアにはすぐに分かった。魔力障壁とは、最も容易にして実用的な魔法だ。しかし、その効力は通常、人一人を覆う程度だと習ったからだ。


「皆様、出来るだけ輪の中心へとお集り下さい。中心から離れれば、障壁の強度が落ちます」

「ほう、こりゃ心強い」

「アリアンナ! こんなの! どう考えても魔力の原則を超えていますわっ!」


 自分の持つ魔力以上の魔法行使は出来ない。そのはずだ。


「大丈夫です。お嬢様。私がお嬢様と共にいれば(・・・・)、限界などございません」

「──聖槍っ! 来ますっ!」

「各員っ! 衝撃に備えろ!」


 ついに放たれた一振りの槍は、障壁に衝突する。

 周囲の天幕は、激しく揺れたのちに倒れ伏し、土埃はまるで黒煙のように巻き起こる。


「ぐっ!」

「流石にっ! そよ風よりもなんぼか激しいな!」


 その穂先は障壁を徐々に破壊しながら、ソフィア達へと真っ直ぐに進む。


「あと五秒だ! そんだけ耐えれるかっ!?」

「大佐っ!? あれを使うつもりですか!」

「分かりませんっ!」

「ちっ!」


 展開された魔力の奔流は、まるで洪水のように長く、激しく障壁を削ってゆく。誰しもが、聖槍に焼かれるのは時間の問題。

 そう思った矢先だった。


「アリアンナっ! 一人では戦わせませんわっ!」

「お嬢様っ!?」


 体が勝手に動いていた。足は震えて、立っているのがやっとだった。

 けれど。


「──これ以上っ! わたくしのために死ぬなんて、絶対に許さないっ!」


挿絵(By みてみん)


 アリアンナの背にソフィアが触れた瞬間だった。ソフィアの髪と同じ金色の光が周囲を包み込んだのだ。

 柔らかく、神々しいとも言える光の本流。


「っ!? おいおいおいっ! なんだよそれ!」


 聖槍によって、障壁に生み出された無数の亀裂は補填されていく。

 そして、障壁は何層にも複製され、聖槍による破壊を、ソフィアの光による再生が上回り始める。


「障壁! 聖槍と拮抗し始めましたっ!」

「よしっ! もうちょいだ! 頑張れっ! お嬢さん方っ!」


 何秒が経ったか、既にソフィアとアリアンナには分からなかった。永劫にも思えるほど長く、狂いそうなほどの苦しみと煩いの時が続く。


「アリアンナっ! 無事ですの!?」

「はいっ、お嬢様!」


 しかして、二人は寄り添い合い、聖槍の衝撃と絶望に立ち向かう。

 そして、ついに。


「……せ、聖槍。完全に、消滅……耐え切りましたっ!」


 周囲からは歓声が上がる。同時に、もはや崩れかかった障壁の向こう側に澄み渡った青空が映った。


「全く、こりゃ規格外だな」


 ラントは、ほくそ笑んだ。それと同時に外套とベストを脱ぎ捨て、シャツの袖を捲った。

 同時に、その手には。


「さて、ここからは俺の仕事だな」

「ラント様、それは……」


 その手に現れたのは、漆黒の剣。装飾はなく、鍔もない無骨で無機質な一振りだ。


「ありがとよ、お二人さん。──反撃の時間だ」


 跳躍だった。一直線に、ラントは空を上り、天使へと差し迫る。


「ラント様も、魔法が使えますの……?」

「いえ、お嬢様。どうやら少し違うようですね」


 ラントは天使の正面距離にして、五メートルに差し迫ると、剣を抜く。

 漆黒の剣閃が解き放たれ、帳の如く空の一部を覆い隠した。


「──堕ちろよ、《福音》」

「****」


 純白の羽根が散る。


「****っ!?」


 ──それは絶叫だった。紛れもなく《福音》の。




イラストは、Sushiさんより頂きました。

お読みいただいてありがとうございます。

これからもがんばって続きを書いていきますので、ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いします!

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