深夜に来る者
ある夜。とあるアパートの二階の部屋にて、二人の男がテーブルを挟み向かい合いって酒を呑んでいた。
いや、正確には呑んでいるのは一人。もう一人、その部屋の主である男は手に持つ缶ビールの蓋を開けることもせず、頭からまるでローブのように布団をかぶり、震えていた。
「……で、いい加減話せよ。店長、ブチ切れてたぞ。無断欠勤、無断欠勤。ようやく連絡ついたと思えばしばらく休みますとか。こっちにまで皺寄せが来て、ちょっと大変だったんだぞ」
「ああ、悪いと思ってるよ……」
「んー、そんな状態でそう言われると、こっちも責めらんないんだよなぁ。
まあ、店長も急なヘルプでバイト代、増やしてくれるって言ってたから俺はいいけどさ……。でも、理由くらい聞かせてくれよ。まあ、仮病じゃなさそうなのは見てりゃ分かるけどさ」
「ああ……その……実は見ちゃったんだ……」
「え、見た? レントゲンとか……?」
「いや、夜さ、歩いてたら……」
「え、はははっ、まさか幽霊とか言わないよなぁ?」
「あ……ああ、そう、そのまさかなんだ……」
「おいおいおいおい……」
「ほら、この近くに竹林があるだろ……? この間の夜、そこで、見ちゃって……。一瞬、光ったから何かなって思ってさ、で、あ、その……」
「ふーん。何かと思えば幽霊ねぇ……。で? 幽霊を見たからなんだってんだよ」
「その……あれ、取り憑かれたみたいでさ」
「はぁ?」
「毎晩、うちに訪ねて来るんだ……」
「はぁ……もう帰っていい?」
「ま、待ってくれよぉ! 頼むよぉ」
「はぁ……まあ、その様子。信じられないこともないかぁ」
「あ、ありがとう……怖くてさ、夜は、いや昼もろくに外に出られなくて……」
「でも、なんだってそいつは毎晩、まあ怪談話とかってそういうもんだよな」
「あ、ああ……まあ、多分口封じとか……」
「ふうん? ま、いいけどさ。で、泊ってほしいって話だろ? いいぞ。俺、割りと好きではあるんだよ。そういう幽霊系の怖い話がさ」
「お、おお……ありがとう……助かるよ……」
「でも、嘘じゃないだろうな? 本当に怖いのは死人よりも生きた人間、俺さ。的な」
「いや! ほ、本当に訪ねて来るんだ……」
「いいけど、ケツの穴はお前に向けないからな」
「ああ、ははは……」
そして夜も更け、部屋の明かりを消した二人。街が寝静まり、虫だけが慎ましく鳴く中、二人は息を潜め待った。
――ピンポーン
「お、きたな! マジなのか!? 仕込みじゃないよな? うおー、ドキドキすんなぁ」
「し、静かに……」
――ピンポーン
「よ、よし、まずは、こっから」
「あ、いや、ドアの覗き穴はペンで塗りつぶしているから……」
「はぁ、なんだよ。まあいいや、開けていいんだよな?」
「ああ、頼むよ……」
「へへへ、ドッキリとかじゃないよな? いくぞ、三、二、一……え、おま、これ、宇宙じエブバアエアサヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ
ラウラウヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァボウボブバババババババアラルラウウキキキアカカカカカヴァヴァヴァヴァヴァウナヌヌヌヌバアウヌア……」
「ふぅー……ごめんなぁ……へへへへへ……」