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作者: 栄

爪を噛む…


ずっとずっと前に

夕暮れか深夜か

地下鉄だから窓の外は真っ暗で

乗り込んで来たのは

今時どうして?

学ラン着て詰襟しっかり留めた

スラリとした少年

青白い透ける肌は

ヌメ滑と艶やかに

電灯に薄ら照らされて

彼は何故か私の目の前の席に座った

読みかけの小説をパラパラして

どうしても気になって顔を上げた

空いた車内の端の席で

彼方を一心に儀視しながら

無性に手の爪を噛みちぎっては

咀嚼しないで飲み込んでいた

青白い肌は少し熱ってみえた

瞬間

私と目線が交わった

見てはいけないモノを視てしまったような

不可思議な気持ちに囚われて

私は手の中の本に救いを求めた

活字は並んでいるが

何も頭に入って来ない

美しい文章を気に入って

何度も読み返している小説だけど

今、目の前の美しい物体を

現実に目の当たりにして

完全にたじろいでる自分を

他人事のように

少し震えながらに無音で笑ってみた

そうっと眼差しを上げてみた

細くて青白い指という指は

全てが痛々しいくらいに深爪に

ふっくらと少し腫れてみえる

指先の柔らかそうな肉を

もう蘇生が間に合わないのだろう

爪は千切れて小さすぎて

表現する言葉が思いつかないくらいだった

私は乾いた息を飲み込んだ

唇を開いたまま何かを言いかけて

その言葉を身体の深いところまで押し込んだ


じきに私の降りる駅に着いた

何も無かったように電車を降りた


私は手にしていた小説を車内に忘れた


美しいモノ

もう、きっと二度と会えない


美しいモノ






…『爪』らら★Lala


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