魔族と人間
吸血鬼ってなんか最強種族ってイメージありますよね
朝、あぁ朝。朝はどうして来てしまうのか。
明けない夜はない。が、朝よ、せめてもう少し遅く来てくれないものだろうか。
なんだかんだあって眠気は吹っ飛んだけどこれから学校だと思うと憂鬱な気分になる。
面倒くさいなぁ……でも今日は金曜日か……早く明日の朝来いや。
そんなことを思いつつリビングに向かう。
今日の朝飯なんだろなー。
「……ん?おぉ颯月、莉々愛。おはよう」
「おはよう父さん」
「おはよ〜、お父さん」
「どうした?今日は2人とも早いな」
「まぁちょっといろいろあってね…」
「お兄ちゃんに起こされた……」
『何をやってんだお前達は…』と苦笑しながら父さんが朝食を作る。
大丈夫だよ父さん、莉々愛がいつの間にか俺の布団に入って同衾してただけでナニもヤってないから。
今日も俺達は普通の健全な兄妹です。
そして数分後……俺と莉々愛、父さんの3人でテーブルを囲み、朝食を食べる。
これが俺、吾妻 颯月の日常だ。
ちなみに母さんはいない。ずっと昔に病気で亡くなってしまった。もう……顔も声もほとんど覚えてない。
母さんがいない、という事以外は他の家庭と変わらない日常。
……いやまぁ妹が兄のベッドに潜り込んでくるのは全然普通じゃないけど……それは理由があるので無視する。
普通の家庭。
少々特殊な家族構成。
普通の食卓。
普通に美味しい。
ごちそうさまでした。
母親が居なくても、 妹が義妹でも、その義妹が……世間には存在を秘匿にされている生物、吸血鬼だったとしても、俺達は家族だ。これが俺達にとっての普通の家族だ。
ただの普通の家族として、俺達は平和な日常を過ごしている。
「あっ、そういえば颯月、お前もうすぐテストだったよな?」
滅べ平和な日常。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そんじゃ、行ってきます」
「行ってきまーす」
「おぅ、行ってらっしゃい」
平和な日常がそう簡単に滅ぶわけなく、今日も今日とて俺達は学校へと向かう。
角がなく、尻尾もなく、翼もなく、金髪碧眼の、ただの欧米系の美少女……普通の人間にしか見えない莉々愛と共に。
世の中には知らない方がいい事がたくさんある。
表社会と裏社会の繋がり。
国と国同士の平等に見せかけた不平等な同盟関係。
そして……魔族の存在。
日本、いや世界政府は魔族の存在が公に出ると社会が大混乱に陥ると考え、魔族の存在そのものを無かった事にした。
幸い……という程幸せな事ではないのだが、魔族は元々数が少なかった事。さらに中世には魔族が大規模に迫害された事が原因でさらに数を減らし、現在まで魔族の存在が社会にバレる事はなかった。
しかしそれでも同じ地球に生きている以上、人間と魔族には最低限の交流があった。
そして『本当に魔族は人間社会に溶け込めるのか?』という実験の為に数名の魔族が人間側へと渡された。
体良く言えば『留学生』
だけど本当の意味では……魔族が人間に出した『人質』だ。
その人質に莉々愛は選ばれた。
と、いうのも莉々愛は孤児だったからだ。
孤児だから……最悪見捨てる事が出来るように選ばれた。
そしてそんな莉々愛の引き取り先に今度は俺の父親が選ばれた。
と、いうのも……魔族対応組織の職員達の中では比較的歳が若く、妻を亡くし、当時家族構成が幼い子ども(俺)だけだったから万が一の場合は比較的速やかに、全てなかった事に出来るという理由で、だ。
莉々愛も父さんも……そして俺も、何かあったときは責任取れるように、捨て駒として選ばれた。
……ほんと、世の中には知らなくていい事がたくさんありやがる。
そもそも父さんが魔族対応組織の職員だった事すら最初は知らなかった。
父さんがなかなか家に帰ってこなかったのは紛争地帯で医師として世のため人のため立派に働いていたから。
そして父さんはそこで孤児となり、人間とは見た目がちょっと違う莉々愛を保護、養子として引き取ったって信じ込んでた。
……まぁ今なら真実を教えられなかった事に納得できるがな。もし幼い俺が父さんの仕事について、魔族の事について友達とかに言いふらしてたら今頃平和に生きてるか分からんし。
だけど莉々愛は無事に人間社会に溶け込めた。
角や尻尾、翼は変身魔法で消し、目立つ真紅の眼は欧米風に碧眼へ変えた。
その他にも人間とは大きく違う所が多々あるが……それでも努力し、莉々愛は人間として生きている。
「……ん?どうしたの?お兄ちゃん」
家はともかく、外では完全にどこからどう見ても人間の金髪碧眼巨乳美少女だ。
仲の良い普通の……明らかに国籍が違いそうな、しかも義兄妹が普通かはともかく、とりあえず普通の義兄妹として生きている。
誰も莉々愛を魔族だと、吸血鬼だなんて思わないだろう。
……まぁそもそも一般人には魔族の存在なんて知らされてないから、関係者以外で莉々愛を魔族だと思うのは相当頭のおかしい人になるのだが。
「………あ!そうか!そういやまだだったね〜」
「ん?何が?」
「つまり〜……こういう事でしょ?」
—————チュッ♡
急に莉々愛が背伸びしたと思ったら、頬っぺたに熱く、柔らかく、瑞々しいしっとりとした感触が。
「な———ッ!?」
「行ってらっしゃいのキスがまだだったね♪」
……さっきの言葉訂正する。全然普通の義兄妹なんかじゃない。
いくら仲が良くても普通の義兄妹ならこんな事はしない……!!
そして莉々愛は……やはり人間には思えない!小悪魔だ…!!
他人に異常と思われても、それが僕らの日常