吸血鬼化
身体を作り変える(物理的に)
莉々愛の姿が消えた。
体育の授業の最中だったから携帯は持ってないし、魔力で探知することもできなくなった。
……どういうことだ?
場所を間違えた?
いや、正式な場所まではわからなかったとはいえ周囲に隠れられる場所はない。
それに魔力を感じられる場所なんて莉々愛が居る場所しかないんだから間違えようがない。
なら何故莉々愛がいない!?
もう一度周りをよく見る。
すると窓が一つ開いていた。
「………まさかな」
ここは4階。だけどつい下を見た。
1階……地上では黒髪短髪、日に焼けた健康的な肌の少女が走っていた。
その少女は一度こちらを見て、顔を背けるとそのまま走り去っていった。
金髪で腰までかかる長い髪、陶器のような白い肌の莉々愛とは対照的なまでに違う。
が、しかし———
「莉々愛…っ!!」
———俺はその少女が莉々愛だと確信していた。
いつもの俺なら気付かなかっただろう。
しかし今は莉々愛の魔力が暴走している状態。半眷属である俺には少女の中で暴走し、危険に渦巻く魔力を感じ見ることができた。
何故か探知できなくなったが、こうして実際に見ればどれだけ変幻してても莉々愛だと判断できる!そんな重要なことがわかった。ただし渦巻くほど多くの魔力が暴走している時に限るが。
それに少女が顔を背けた時、ほんの一瞬翼が生えた事に人間離れした視力と動体視力のおかげで気付けた。
これでもう莉々愛だと確定だ。
しかしわからないことがある。
何故莉々愛は視聴覚室から抜け出し———いや、素直になろう。
何故———莉々愛は俺から逃げ出した?
先程も一度こっちを見て俺を認識したのに無視してそのまま走り去っていった。
それに何より、莉々愛は俺の魔力探知を遮断した。……拒絶された。
携帯もダメ、魔法もダメ。ここまでされると莉々愛を見つけるのはかなり困難になるだろう。
そこまでして莉々愛は俺から離れた!
いくら『変幻』しようが一目見てわかるぐらい魔力が暴走している危険な状態だってのに!
何かあったらすぐに俺と合流するように父さんから言い付けられていたのに!
想像もしたくないが、俺のことを見たくないぐらい嫌いになったのなら今の行動にも納得できる。
……いやごめんやっぱ無理だわ。全然納得できないわ。何がいけなかったのか全力で問い詰めて仲直りしてみせる。
それに父さんの、組織の言い付けを破るのは危険すぎる。
それだけでも十分莉々愛を追う理由になるのだが……正直、そんなのは後付けだ。
何か考える間も無く———俺は助走をつけ———窓枠を蹴り、教室から外へ、4階から『空』へ、飛び出していた。
「うおおおぉぉおおぉおおお!!!」
莉々愛はあの時、一瞬だけこっちを振り返った後、袖で目を擦っていた。
莉々愛は泣いていた。
莉々愛が———泣いていた!!
それなのに逃げた?だから追いかけない?……ハハ、ふざけんな。
「……上等じゃねぇか…!!」
妹が泣いていたら助けてあげるのが兄ってもんだろうがよ!!
逃げるなら全力で追いかけてやるよ……兄貴ナメんな!!
そのまま階数の低い運動部部室練の屋上へと飛び移る。
いくら身体能力強化されてるとはいえ所詮身体は人間。さすがに4階から落ちたら大怪我だ。
それに吸血鬼の能力を使っている以上、人目が多い場所には行けない。
「莉々愛……!!」
部室練の屋上から周囲を見渡す。
しかし莉々愛の姿は見つからなかった。
「……クソッ!!」
一目見ればわかるとはいえ、まずは見つけ出さなきゃ意味がない。
魔力探知ができない以上、虱潰しに探すしかないのだが……出来るのか?俺に。本気で逃げる莉々愛を。
何より俺が莉々愛に『認識阻害』や身体を操作される『身体操作』の魔法を使われればもうダメだ。お終いだ。
半眷属だろうが結局、ただの人間である俺にはどうする事もできない。
「……………」
………いや、あるか。
莉々愛を探すことができ、莉々愛に追いつき、そして莉々愛に認識阻害や身体操作の魔法を使わせない。そんな方法が一つだけある。
だがこれを使えば俺の身体も……俺の立場もかなり大変な事になる。
父さんが今やろうとしている事を知ったら本気で怒るだろう。ブチ殴られる確証がある。
それに組織だって黙っちゃいないはずだ。莉々愛だって悲しむ。それぐらい馬鹿な事だ。
そもそも組織に逆らうのは危険だと先程自分で言って理解している。
……が、もしこのまま莉々愛を逃したらもう二度と俺の前に現れない。第六感か何かがそう告げてくる。何故かそう思えて仕方がない!
で、あれば……とにかくやるっきゃないだろ!!
ドクン、ドクン、ドクン………
緊張感が半端ない。
当たり前だ、これがどれほど危険なことかわかっているから。
だが迷っている時間も躊躇っている時間もない。
「………よし!」
覚悟を決め、一息に———
「———ガブッ!」
———自分の右手に噛み付いた。
血が出るのもお構い無しに、いや、血が出る事を目的に、噛みちぎる勢いで手に食らいつき———自分の血を吸う。
まるで莉々愛のように。……『吸血鬼』のように。
某巨人になる少年はこんな気持ちだったのかな———なんて痛みによる現実逃避を考えれたのもほんの数秒。
「ぐ……お…おぉ……!」
最初に喉が灼けるかのような痛みが———
「…ぐが……がががが……!!」
次に身体全体の血が沸騰するかのような衝撃が———
「ぐぎゃ……ァ……ァアアアァァアアァアア!?」
———最後に、脳が震える。
「グォアアェァアアアァ!?ァ……ガ……ガァァァアアアア!!」
身体が全て作り変えられるような痛みにただただのたうち回る。涙が、鼻水が、唾液が、全身から多量の汗が噴き出る。
喉が乾く。が、欲しいのは水ではない。
この脳に訴えかける渇きを潤すには……血だ。血が欲しい。血が飲みたい!!
血。血。血。血が欲しい。この喉の渇きを癒すために。誰か、誰でもいいから血液を———
「———ガハッ!!?オ゛……ア゛……ッ!!」
渇きのあまり、空嘔吐き。
「ハァ——ハァ——………ハァ……はぁ……」
だがおかげでなんとか正気に戻れた。
……これが人の身で吸血鬼の力を使う代償か…。
辛い、苦しい、痛い、渇いた……正直もう二度と体験したくない。あまりの苦しさに逆に正気に戻るってどーゆーことよ?
でもこれで……俺は多少、人の身でありながら吸血鬼の力を使えるようになった。
莉々愛に何年も吸血され続け、半眷属となっている俺の身体には吸血鬼の因子が若干含まれている。
だから莉々愛に魔力を貰えれば人外の身体能力を出せるし、魔力の配給元を辿るだけの『魔力探知』程度の超初級魔法、さらに少しなら魔力を察知することだってできる。
まぁそのぶん認識阻害や身体操作の影響を受けるのだが。
とりあえず、魔力が供給されている今、俺の吸血鬼因子は活性化している。
そして俺は今、自分の血を吸血する事で吸血鬼化を進行し、莉々愛の魔力供給だけじゃなく自分自身で魔力生成する事に成功した。
これにより多少の魔法抵抗ができ、今までの『人外じみた』身体能力から正真正銘『吸血鬼』の身体能力へと飛躍的に上昇した。
これで莉々愛を追えるし追いつけれる!やったね!
そしてこれは———言うまでもなく禁忌である。
まぁ当然だよな。眷属化の進行すら危険視されてるのにいきなり吸血鬼化だもんな。
組織に知られたらどうなるか……正直、予想がつかない。あそこは何やらかすか常人には理解できない。
……普通の、人間らしい人間の方がなかなかいないんだけどね。魔族と本格的に関わってからその事に気付かされたわ。
とにかく、早く莉々愛を探し出さないとな。
見ろ、噛み千切る気持ちで深く噛んだ右手の傷がもう治っている。ついでに視聴覚室から飛び移った際の足の痛みもない。
自分で吸血しておいてなんだけどこのまま吸血鬼化し続けるのは本当にマズイ。
これ以上身体が作り変えられたら俺は人間ではない、吸血鬼にもなれない不完全なキメラになってしまう。……そして組織に処分されてしまう。
それに今はまだ安定しているが、いつまた吸血衝動が起きるかわからない。今この瞬間にも喉の渇きはどんどん激しくなっているし、渇きすぎて喋れない。
となればやる事はただ一つ。
俺流魔法———『魔力探知・改』!!
吸血鬼化してようが結局俺が使える魔法はこれだけなんだよねー。
でも以前のようにただ供給されている魔力の元を辿るだけじゃ莉々愛に感づかれて遮断されてしまう。
だからこの『改』では魔力そのものを探る!
幸い……では本来ないものの、可視化できるほど魔力が暴走している今の莉々愛なら遠く離れていてもまだ探れると思う。
だから気合いを込めて、想いを込めて、探す。
探す。
絶対に探し出す。
絶対に探しだして……泣いていた理由も、俺を避けた理由も!全て話してもらう!
吸血鬼だろうが組織だろうがンなもん知ったこっちゃない。兄貴ナメんな!!
————— ミ ツ ケ タ !!
「———ガァッ!!」
万が一、人に見つかった時用の為に視聴覚室から拝借したカーテンを頭から被り、莉々愛のいる方角へと跳び、駆ける。
吸血鬼の脚力に人間の脚の筋肉はすぐに断裂し、再生する。
一歩進む度にそれを繰り返し、莉々愛の元へ。
そして、辿り着いた先に—————
ルールや掟を破る時、それは自分の兄貴道を貫き通す時




