新大陸の錬金術師⑦
『なあバカだよな! バカナガだよな!!』
「なんだよ、話せる状況になったら連絡してこいって言ったのそっちじゃんか」
皇女様が来た日の夜、ダランベール王国のシャク王子から連絡が来た。
今日の昼間に連絡を取ったからね。
『王族同士の会合となったんだぞ!? 向こうもこっちもなんの準備もなくしゃべるハメになったじゃないか! こういうのはもっと互いの情報を集めたうえで! お互いの利害をある程度探った後でないと出来ないんだよ!』
「だろうなぁ」
『知っててやったのか!?』
「ああ」
『てめぇ!』
「だってフェアじゃないだろ?」
『ぐぬっ!』
「お互いに情報が無い、大いに結構じゃないか。ダランベールとシルドニア、どちらもこれから歩み寄るんだろ?」
『そうだが! そうですけど!』
「信条(心情)的にはダランベールに味方してやりたいけど、オレとしてはあんまり国同士の話に入りたくないんだよ。出かける前に言っただろ?」
『ああ、確かに聞いた。確かに聞いたが……』
こちらの世界から日本に帰るのに、王城、王都、月神教、それに各地の古い図書館や資料室などの書物を片っ端から漁った。結果として分かったのが、今まで異世界というものからこの大陸に来た人間がオレ達しかいないという事、少なくとも『いた』という資料が無い事だった。
しかし、この大陸にはいないが、過去に勇者がハイランド王国に召喚されたとの資料はあった。黒竜王の被害からこちらの大陸に逃れて来たハイランドの貴族のもたらした情報らしい。真偽は不明。
それが女神による召喚なのか、人為的に呼び出したのかは不明だ。
だが人為的に呼び出したのであれば、逆に戻す事が可能かもしれない。
当の女神本人に確認を取りに、世界樹のダンジョンを通って神界に行ったが女神クリアと会うことは出来なかった。
全力で自宅に結界を張って、看板を設置してこう書いてあった。
『起こさないで下さい』
世話役の天使も困っていた。
あんにゃろ、1年以上寝続けてやがる。ダンジョン抜けるの苦労したのに。
クルストの街を離れるから錬金術師の補充を頼むとジジイに言ったら大分文句を言われた上に、どこ行くかも聞かれた。
まあ向こうもオレの目的はともかく、難解な調べ物をしているのは知っている。
西の大陸に向かう事を勘づかれてしまった。
ダランベール王国の第1王子と第2王子をジジイは抱き込んで色々と無理難題、お使いを頼まれたのである。
その一つがダランベール王国からの使者という肩書だ。
「オレはこの世界の人間じゃないからな」
あまり自分の爪痕を残すべきではないと思っている。
『向こうの皇女様とはどんな話をしたんだ?』
「しゃべってくれたのは区長を名乗る男だけどな、皇国の成り立ちを簡単に聞いた」
『それは興味深い話だな、俺にも教えてくれ』
オレは伝え聞いた話を覚えている限り伝えた。
『エルフの王と、魔導炉の技術の失伝か』
「興味深い話ですよね」
『ああ、特に魔導炉の技術提供は今後の交渉の切り札の一つになる』
「そう言うと思って、オレの方から魔導炉の作成と作成技術の指導を請け負っておいた」
『おまえっ! ふっざけてんのか!』
「うははははははははは!」
オレ様大爆笑。
『なあ、それがどれだけの情報か分かって言ってるのか?』
「もし上質な武具を作れるダランベール王国がシルドニアに攻め込んだらダランベール王国が圧倒的に有利になるだろうなぁ」
『てめぇ! わかってんじゃねえか!』
「だからだよ。オレはお前さんがいきなり武力に訴える様な真似はしないと思ってるけど、相手はそう思ってくれるとは限らないだろ。相手は怯えながらお前さんとの交渉の席につかなきゃならなくなる。さっきも言ったが、それはフェアじゃなさすぎる」
『それが外交だろ!』
「オレは使者であって外交官じゃないからな!」
『っざけやがって! 大体あっちはエルフの血族だぞ! 戦闘狂の血筋じゃねえか!』
「それでもだ。そもそも海を挟んだ相手の土地で交渉するんだぞ? 普通はダランベール王国が不利な状況で交渉すんだぞ?」
『そうかもしれないが! 有利になるんならその方がいいに決まってるだろ!』
「ああ、それともう一つ」
『まだあんのかよ』
疲れた声だすんじゃない。
「あの港町、オレが貰ったから。すぐに整備出来るように準備をしておいてくれ。貸してやるから」
『マジか! なあ! お前どういう交渉したんだよ!? ちくしょう! ああちくしょう! よくやったよ!』
オレはオレが思うようにやっただけだよ。
ちょっと短め。さーせん