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外伝 Finalへの布石

「やはり例の魔物【草原の悪夢】の生息範囲は大陸を横断しているようです」


 ドリファスの報告に耳を傾けつつ、渡された資料に目を向ける。


「山岳地帯に湿地帯。森林地帯に岩礁ギリギリの海岸線にまで……バカみたいな規模だな」

「ええ、何かしらの意図を感じるほどに」


 ドリファスの言葉にオレも頷く。


「大陸の西側全域が連中の縄張りになってたら、向こうの調査は無理だな」


 オレの言葉にドリファスは驚きの表情を見せる。


「何さ、無理な物を無理と言うのは当然だろう?」

「では、おやめになりますか?」

「それは無いな」

「そう仰ると思いました」


 諦めたようにため息をつかないで欲しい。


「ちなみに海上からも無理ですよ? 大型の魚竜や水竜の縄張りになっております。海流に巻き込まれて流された小舟も破壊されるそうです」

「……破壊されない程、強烈な船を作ればいけるんじゃないか?」

「破壊されずとも転覆はするのではありませんか?」


 確かに。


「空っ! もっと無理だよなぁ」

「こちらに来られた時のようにハクオウ様にご依頼されてはいかがでございますか?」

「ハクオウが護衛についてくれれば確かにいけそうだけど……ここはハクオウ以外の王竜の縄張りらしい。オレのわがままでハクオウを仲間と争わせるような真似をしたくない」

「左様でございますか」

「それに、これだけの勢力で大陸の西側を守ってるとなると、空にも何かしら防衛機構が備わってる気がする」


 ダランベールにはワイバーンを使った飛竜隊もいる。それに冒険者の中にも空を飛べる魔物を使役している【テイマー】もいるからな。

 人間は飛べなくとも空を飛べる存在がいる以上、対策を講じている……のではないかと思われる。


「単純にこの【草原の悪夢】が大繁殖しているってのなら、もう調査は無理だろうけどな」

「そうでございますね。四六時中地面から湧き出る魔物の相手をしながら、目的地である旧ハイランド王城まで前進し、更に王城を保護しながら勇者召喚に使われた魔法陣の調査まで行う……とても現実的ではございません」


 勇者召喚に使われた魔法陣の写し、ではないがそれに使われた技術は大体解析が出来た。

 解析して分かった事がある。そもそもこの技術は未完成だ。解析できていない部分もあるが、そもそもこの魔法陣では世界を超えた召喚なんかできやしない。それでも勇者召喚が行われたのであれば、完成された技術があったという意味でもある。

 それと、解析できなかった部分が異世界への接続を司っている部分だと思われる。詳細は不明だが、何を示しているのかはわかる。

 それは『誰』を『どこから』呼び出すかの部分。

 地球のある世界軸以外にも、異世界があるのは既に分かっている。天界や冥界、悪魔達がいた世界も異世界だ。もし、この部分をおざなりにして召喚陣を起動させたら、それこそ何が出て来るかわからない。

 実際に使われた魔法陣、もしくは魔法陣のあった場所に赴き、魔力的な観点で調査をしないと、異世界のどことつなげるかを知る事は出来ない。

 呼び出す技術がどうであれ、異世界と繋がる技術だ。

 なんとかして、地球のある世界との繋がりをつかめれば、そこから向こうに足を運ぶ事が出来る……そう思っている。


「草原の悪夢という魔物、これも謎でした。何度か捕獲を試みたようですが、討伐後は時間を置かず、砂のように崩れてしまったとか」

「らしいな。畑にまいたらいい肥料になったそうだ。まあ入手するのも命懸けだけどな」


 視界一杯に広がる、恐ろしい数の魔物。そう表現されている以上、簡単ではないだろう。


「それでも挑戦なさるのでしょう?」

「ああ、どうしても帰らないといけない」

「……失礼かと思いますが、それが私には理解できないのです」

「ん?」


 ドリファスが珍しく、どこか叱責するような口調でオレに言った。


「旦那様には力も、財も、立場も、何より美しい伴侶に恵まれております。この現状に何の不満がございますでしょうか。今お持ちのもの以上の物が、旦那様の世界にあるのでしょうか? 旦那様だけでなく、姫様や奥様方を巻き込んでまで、帰る価値のある場所なのでしょうか?」

「……」

「はっきり申し上げますと、私は反対です。こちらの大陸まで来られるのにも、空を飛べる技術だけでは納得できませんでした。ハクオウ様という護衛がいて安全であるとの確証を得ましたので何も言いませんでしたが」


 ドリファスが机越しに、オレの前に並べていた資料の束を手に取る。


「調べれば調べるほど、旦那様方に危険が迫ると、二度と帰って来られないかもしれないと。そのようにしか感じられません。確かに何者かの意図が感じられる以上、この草原の悪夢の防衛線を突破できれば、安全な場所を確保できるかもしれません。ですがそれも確証はない、あくまでも可能性の話です」

「そうだな。だが可能性は高いと思う」

「……可能性の高い低いの話ではありません。このような命をチップに賭けた行いを、諫めない従者がどこにおりましょうか」


 ドリファスの言葉に力が入る。


「旦那様、ダランベールでとは言いません。こちらで、安全な場所で奥様方と愛を育み、家を守り、旦那様の好きな研究を行ってはいかがでしょうか。元の世界に帰られるのが栞様やエイミー様の望みであれば、私や妻のハルティアが必ず説得いたします。どうか危険な真似はおやめください」


 じっ、とドリファスがオレの目を見る。


「言いたい事は分かるよ」

「……旦那様は頭も良いですから」

「そんなに持ち上げなくていいよ……向こうにしかなくて、こっちには無い物は確かに多い。こっちと向こうで、どちらが裕福かと聞かれたら間違いなくこっちだって答えられるよ。何といっても女神クリア様の加護の力付きだ」


 自分の手のひらを見つめる。


「でも、オレにも両親がいる。栞にも両親、兄弟、エイミーも。せめて一言『ちゃんと生きてる』って言っておきたい。小太郎達がどんな風にオレの家族に伝えたかは知らないけど、これはオレ自身の口で直接言わないといけない事なんだ」

「……」

「それに小太郎達に、仲間達に死んだって思われてるかもしれない。それを否定しないと、否定してやらないと、あいつらの心にずっとトゲが刺さったままになっちゃう。まあ稲荷火はアレだけど、他の連中にはちゃんと挨拶したいんだ」

「……私にはそれが必要な事だとは思えません」

「オレにそれが必要なんだ。イドにも言ったけど、オレは全部終わったらこっちに帰ってくるよ。イドのお腹には子供もいるし、新しい家族が生まれるんだから」

「どうしても、必要なのでしょうか……」

「ああ、だからドリファス。許してくれ」

「許しなど……でしたら、お約束ください」


 約束、か。ドリファスからそんな提案が来るのは珍しいな。


「どんなだ?」

「必ず、戻られると……それと、向こうの世界に行く前にお声かけを」

「ああ、分かった」

「それと旦那様のご両親にもご挨拶をしたいですね。私も連れて行ってください」

「はぁ?」

「旦那様のいらした世界に興味もございます。それに旦那様の周りには強い方が多い、それでいて旦那様を諫める方は多くありません。元来戦闘能力がほとんどなく、肉体的に見ても老人である私を安全に運ぶ、そのようなシステムでないと他所の世界にいかれるなどという絵空事、承認出来かねます」

「いや、そりゃあ……」

「旦那様はご自身が一番弱いと、そう常々お考えですので、更に弱い立場の私がいればより慎重になられるでしょう?」

「いや、そうかも知れないけど……」

「これが私の出来る最大の譲歩にございます。ご了承いただけますね?」


 ああ、本気だ。参ったな。


「ああ、わかったよ。ウチの父さんと母さんを驚かせてくれ」

「お約束ですよ? 必ず成し遂げてください」

「了解だ」


 オレの返事にドリファスはにこりとした表情を浮かべ、持っていた資料を机に置き立ち上がる。


「使用人の立場にあるまじき言動、どうかお許しください」


 立ち上がったドリファスは腰を折り、深く深く頭を下げた。


「ドリファス」

「はっ」

「色々と至らない主人で申し訳ないが、今後もよろしく頼む」


 オレの言葉に頭を下げていたドリファスが頭を上げて、ゆっくりと膝を曲げて腰を落とす。


「や、それ騎士の礼だよな」

「私の気持ちの表れですので、お気になさらず」


 真剣な顔をして、オレの言葉を待つドリファス。

 オレに王様の真似事をしろと?


「我が執事ドリファス、お前の働きに期待する」

「老い先短い命でございますが、光道長様にすべてを捧げる所存にございます」


 そんなこと、嬉しそうに言わないで欲しい。

本編には入っていませんが、最終章に関わる話です。本編中にいれようと思ってたんですが、話の流れが切れそうだったのでこうして外伝に入れました。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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