パーティに出る錬金術師⑥
先日の話し合いを行った会議室と違い、仰々しい旗や装飾品、それと豪華な衣装を身に着けた貴族達が並ぶのは謁見の間。
こういう場はダランベールと変わらないんだなと、そんな事を思いながら進行をしているアラドバル殿下の声を聞き流す。
向こうもオレが飽きているのに気が付いているのか、苦笑いをしている。
オレがこっちで行った事を順に説明していた。
旧港町に巣食っていたベインの討伐。
魔導炉の技術提供。
ミリオンマッシュの毒の対処方法の確立。
炎竜3匹の討伐。
大量発生したアンデッドの討伐。
魔王討伐程じゃないけど、色々頑張ったなぁ。
流石に自由都市での出来事には触れていないけど、それぞれの功績を勿体つけて回りくどく、脚色でブクブクに太らせてご紹介してくれている。
アンデッドの件はオレ主体じゃねえけど?
「何よりも我らが祖父。ケンブリッジ祖王を連れてきてくれた事が何よりも大きな功績であると言えましょう!」
「「「 おおおお!! 」」」
式典なんて長いイベントに、動かないで我慢しないとだなんて嫌だと豪語していたケンブリッジさんはこの場にいませんがね!
ずるいよね。
ずるいよね!
「そして旧ハイランド王国にて、勇者が振るったと言われる宝剣も発見。更にそれを我が国へと献上。ライトロードにはこれらの功績の褒美として、我が国内での行動の自由権、ならびに王城内の図書塔の自由閲覧権を与えるものとする。道長=ライトロード、前へ」
「はっ」
殿下の言葉に合わせて、オレは立ち上がり2歩だけ前に進む。
その視線の先にいるのは大柄のハーフエルフ、エイドラム皇王だ。
「ライトロードに我が名の元に褒賞を与える」
「ありがとうございます」
陛下は玉座から立ち上がり、オレの前まで歩み寄ってくる。
そして殿下から書状を受け取ると、それをオレに差し出す。
その書状を両手で受け取り、オレは先ほどの位置に戻る。
「ライトロードを俺の客とする」
「「「 はっ! 」」」
陛下の言葉にオレ達以外のこの国の人間が返事をした。
その返事に頷くと、陛下は右手を挙げて退出の指示。
客人であると言われたが、国とはかかわりの無いので騎士に先導されて先に退出である。
この後、夜にパーティがあるらしい。
はあ、面倒臭い。
◇◇◇
「是非我が領にも魔導炉の導入をお願いしたく……」
「申し訳御座いませんが、そちらの件は皇族案件に御座いますので……」
はい。囲まれております。
やっぱ面倒になった。
ある程度距離感のつかめた相手ならばともかく、どちらの人も年上の貴族様方。うるせえ黙れと言えないのが悩ましい。
「ライトロード殿は何人もの美姫を妻に迎えられているとか……お連れの方も大層お美しく」
「素晴らしい女性と巡り合う機会に恵まれましたので」
エルフと元クラスメートとお姫様ですから、素晴らしいです。
「お屋敷を陛下から賜ったそうですな、使用人は足りておられますか?」
「ありがとうございます。もしもの時には頼らせていただきます」
足りてるからいらんよ。
「我が領は魔物が少なく、ハイナリックからも安全に移動が出来ますぞ」
「素晴らしい事ですね、ですが錬金術師としては残念と言わざるを得ません」
どちらかといえば魔物素材が欲しいのです。
「ライトロード様。貴方様を見つめているだけで胸が高まりますの」
おばちゃん、勘弁してください。
煌びやかなパーティ会場で色々な人に話しかけられては離れていくを繰り返していく。たまにミリアに肘で叩かれるのが地味に辛い(物理的な威力の意味で)
や、ちゃんと対応してると思うんですけどね?
「こちらには特使としていらしたのでしょう? 既にダランベール側との港も準備していると聞きますが」
「そちらは代理のハインリッヒに任せてあります」
「新しく任命された伯爵か、まさかエディロヴが復権するとは思わなんだ」
「皇都の文官系貴族の家系らしいですね」
エディロヴとはハインリッヒさんの名字。出奔する前はハインリッヒ=エディロヴだったらしい。
ハインリッヒさんの話題を口にすると、当然彼にも視線が集まる。
そんな彼はアラドバル殿下に守られているようで、二人で話している様子。殿下が楽しそうに話し、ハインリッヒさんは仏頂面で応えている感じだ。
仲が良さそうでなにより。
「ダランベールの代表も来られたそうで。互いの交流が活発になると良いですな」
「ウルクスには既に魔導炉があり、ダランベールの窓口にも近い。ウルクスに注目が集まりそうですわね」
◇◇◇
ハインリッヒさんに注目が集まると共に、エリア:ウルクスなどの旧港町の周辺の話題になり盛り上がりだす貴族達。
オレはミリアを伴い、そんな連中から離れてバルコニーに足を運んだ。
正装のせいで凝った首と肩を動かしながら、遠くを見つめる。
「レプリカの納品も終わりましたし、魔導炉の指導だけになりましたわね」
「ああ。それも明日には終わる」
魔導炉の指導もこれで3度目だ。恐らく問題なく終わるだろう。
「ドリファス達の調べものが終われば、国に帰られるのでしょう?」
「ああ。まあ調べものの内容次第ではあるがな」
勇者召喚の関連資料だ、簡単には見つからないかもしれない。
だがドリファスとその奥さん、それに奥さんの連れて来たダランベールのメイド軍団が現在進行形で資料室を漁っているところだ。
ドリファスなら必要な物を必ず探してくれるとは思うけど、送還に関する資料がどのような形で出て来るか分からない。
すぐには帰れないだろうな。
「ねえ、ミチナガ様」
「ん?」
「わたくしのドレス姿、どう思われますか?」
「唐突だな……その、改めて見ると……綺麗だと思うよ」
ミリアの金色の長い髪が月明かりを浴びてキラキラと光りを受けているし、白と青を基調とした清楚でありつつもその魅力を引き立てる美しいドレス。
元々顔も整っており、こちらを見つめる大きな瞳に吸い寄せられるような錯覚さえ覚える。
「ふふ、嬉しいですわ。ねえ、ミチナガ様?」
「えっと? なんでしょう」
「キスを、してくれませんか?」
「はい⁉」
突然何を言い出すのですかね?
「覗かれておりますし、わたくしとミチナガ様の仲を周知させたいですもの……それに、ですね」
「ええっと?」
「その、わたくしは、治療の時以外で、ミチナガ様と唇を重ねて、いないのですわ」
「ええっと、そうですね……」
「わたくしは、ミチナガ様の妻になりました」
「はい……その節は」
「あのですね、わたくしはミチナガ様を愛しておりますのよ。王女としてではなく、一人の女として。そんなわたくしに謝罪はいりませんわ」
「……」
ミリアの言葉に、返す言葉が見つからない。
「わたくし、ミチナガ様の妻の座を勝ち取りましたの。戦が終わって1年以上かけて、ようやくですわ。すぐに姿をくらませてしまったんですもの、酷いお人」
そう言うと、ミリアはオレの首に両手を回して抱きつくような姿勢になる。
「貴方とのキスはわたくしの望み、応えてくれませんか?」
ミリアはその大きな瞳をつぶり、顔を寄せてくる。
バルコニーを覗いていた女性陣から小さな歓声が聞こえてきた気がする。
「ん」
ミリアの綺麗な顔に唇を落とす。そしてゆっくりと離した。
「ミチナガ様」
「ああ」
「わたくし、貴方にどこまでもついて行きますわ」
首に回した手を離し、オレの胸に顔を埋めるミリア。
「例え、それが異世界であっても、ですわ。もう離しませんもの」
「……分かった、ついて来てくれ」
ミリアの腰に手を回し、しっかりと抱き留める。
「オレは故郷に戻る。ミリアと、みんなと一緒にな」
「はい、ミチナガ様……ミチナガとならなんだってできますわ」
皇城のバルコニーで、ミリアと顔を寄せ合い。
二人揃って小さく笑いあい、再び唇を重ねた。
おいてけぼりの錬金術師、『season2』本編最終話になります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
次は『seasonFinal』となります! こちらの準備が完了次第投稿を開始させていただきます。
外伝を少しだけ投稿しますので、もう少々お付き合いいただければと思いますっ!




