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パーティに出る錬金術師⑤

「ライト」

「ああ、イドか。動き回っていいのか?」

「別に病人じゃないし。通行止め?」


 旧港町にあるメインの工房、そこのオーガの島の出入り口と工房の出入り口に通行止めの紙を貼っていたら、イドがきた。


「ああ、ちっとばかり危険な錬金をしているところだからな」

「ライトが危険っていうからには、相当ね」

「ああ……ところでイド、リアナはどうした?」

「母さんとご飯作ってる」


 こっちを見なさい。


「置いてきたんだな。どこ行く気だ?」

「ちょ、ちょっとお出かけに」

「……ダンジョンはダメだぞ?」

「わ、わかってるし」


 目が泳いでるなあ。


「もうお腹も張ってきてるんだから大人しくしてなさい」

「むう……」

「とりあえずリビングに行こうな」


 イドの手を取って、軽く手の甲にキス。

 最近気づいたのだが、イドはお姫様のように扱うと大人しくなるのだ。


「ん、仕方ない」

「ここのところ二人で話す時間を作ってなかったからな。たまにはゆっくりしゃべろう」

「そう……する?」

「しませんっ」


 せっかくなのでイドとゆっくりしよう。




「あら、随分と仲がよろしいですわね」

「ミリア、いらっしゃい」

「よ」


 ソファにイドを座らせて、なんとなくしみじみとしているとミリアが来た。

 セリアーネさんがお供。


「ずるいですわね」

「ん、今日はわたしの日」

「わたくしの番も欲しいですわ」

「知らない。でも今は左側が開いてる、膝は渡さないけど」


 イドは自分の頭をオレの膝にのせて仰向けに。足も伸ばして気持ちよさそうに目をつぶる。


「ご相伴にあずかりますわ」

「オレは晩飯かなんかか?」

「だとしたらメインディッシュですわね」

「ご飯3杯はいける」

「お前はおかずがなくてもいけるだろ」

「そうね」


 イドに手をつかまれて頭に持ってかれる。撫でろって事だな。


「ミリアは、もう抱かれた?」

「おいっ」

「まだですわ」

「ちょっと!?」


 やめてくださいっ!


「ライトなら2,30人子供がいても養える。早く作ったほうがいい」

「こらこらこら」

「ですわね、最低でも一人3人は欲しいですわね」

「こらこらこらこら」


 何を言い出すのだこの人達は。


「ライトの子なら大歓迎。里に連れていく」

「王族にも下さいまし。母に任せますわ」


 王妃様に何をさせる気だ。


「ミリアの子はミリアの自由に」

「勿論わたくしが育てますわ。でも王族として育てるならミチナガ様に関わらせない方が良いんですの、ちょっと難しい問題になりそうですわね」

「ん、国というのは存外面倒」

「エルフは自由ですわね。羨ましいですわ」


 そしてこういう時に余計な言葉を発しない方が良いとオレは学んでいるのだ。


「道長」

「どうしました?」

「向こうでの育児はどのような物なのだ?」


 ミリアの護衛だろうか、静かにしていたセリアーネさんが聞いてきた。


「向こうの育児の話か。別に詳しい訳じゃないが」

「聞きたいわ」

「ん、気になる」


 とはいっても育児したことがある訳でもないしな。


「エイミーや栞のが詳しいだろうけどな……そうだな、ここみたいに村や集落での育児は日本ではないかな」


 元高校生男子の知っているレベルなんてたかが知れているが、それでも3人が楽しそうに聞いてくれるので、向こうの話をする事になった。

 定期的に出てくる電化製品や機械の説明に苦心しつつも、話をしながらゆったりとした時間を過ごすことが出来た。


 たまにはこんな日も、悪くない。






「許可が貰えたのである」

「あ、了解です」


 ドーレンさん強襲。

 素材の関係上、ドーレンさんの希望する重さの剣は作れないが希望する長さやバランスの剣は作れる。

 現在使っている剣を参考に作るつもりではあったが、そちらの剣もそもそも王によって下げ渡された品らしい。

 魔剣である以上、自分では選べないのだそうで。

 自分本来の希望としてはイリーナが持ってる様な大剣が好みらしい。


「じゃあ、何本か通常サイズの魔剣を出しますのでお好みの物を選んでください」


 今回は工房の中での作業だ。


「今回は聖剣のレプリカを元に作成します。少々装飾過多になりますが、素材が素材ですので、この魔鋼製の武器と比較しても軽くなります」

「そうなのか。だと少々物足りないかもしれんな」


 この人は元々魔鋼の比率の高い魔剣を使用しているから、武器としては比較的重い部類の武器を使っている。


「迷宮品は合金なんて使われないですからね。聖剣はミスリルやオリハルコンがふんだんに使われてますから。それはミスリルと魔鋼の合金製の魔剣です。軽いでしょう?」

「ああ、長さはこの長さが好みだが重さはこっちだな」


 体つきが大きく、筋肉もしっかりしているこの人。しかも魔鋼製の武器を持っていたから重い武器が好みなんだろう。


「剣の厚みを広げてもいいですけど、切れ味が落ちますし魔力の通りが悪くなります」


 魔力回路と剣の表面との距離が広がるとそれだけ魔剣としての精度が落ちる。

 普通の冒険者が使う分には問題無いレベルかもしれないが、今回は聖剣のレプリカ。

 武器のレベルを考えると最高の物が良い。


「剣身を伸ばして対応してもいいですけど、原型からかなり離れますね」

「確かに。それにあまり長いと室内で振り回すのに問題があるな」

「元々がツーハンドソードですからね。結構長いです」


 聖剣自体がどういう目的で作られた物か知らないが、明らかに室外などの広い場所で使う事を想定されている造りだ。


「ふうむ。どうせならば自分の好みの物がいいのだが……最高品質の物でかつ、大本の剣があるからか」

「最高品質の聖剣が、副隊長にとっての最良という訳じゃないですからね」

「仕方ない、次に使う者がいる事も考えて常識の範囲に抑えるか」

「ご安心を。剣のレベルだけでいえば常識の範囲外に確実になりますから」

「はっはっはっ、そりゃあいい」


 良い物を作れば作るほど魔導炉の価値も上がる。

 まあ元々うなぎのぼりですけど。


「しかしこれほどの物を作れるのか。ライトロード殿自身が常識外だな」


 何本かの剣を眺めてドーレンさんがこちらに視線を送って来る。


「まあ自分が普通じゃない自覚はありますよ」


 クラスメート達を守るための武器や防具、アクセサリー、消耗品などを数多く作って来たオレだ。

 有用な物からふざけた物まで。


「でも色々と作れるのは楽しいですから」

「楽しい、か」

「楽しいですよ? 中々思い通りに作れない物がありますけどね」


 元の世界に戻る方法もまだ確立してないし。


「レプリカとはいえ、伝説級の武器が作れるお主にも作れぬ物があるのだな」

「人間ですから」

「それもそうか、しかしすごいな」

「それほどでも」


 ありまっせ。


「そのうち部下達の武器も頼みたいところだな」

「それは自国の職人にやらせてください」

「むう、すぐに渡したいのだがな」

「自国を守る騎士団の武具を鍛えるのは自国の人間に限りますよ。鍛冶師は自分の武具を身に纏った騎士や兵士の勝利が、手柄が、そして生きて帰ってくることが誇りになります」

「誇りか! それはいい!」

「ですね。オレ達は戦う力は弱いです。でも戦いには参加しているつもりなんです」

「だな! 彼らも国の仲間だ!」


 色々と話を続けつつも、剣の長さもこれで確定だ。

 さあ、明日から本格的な製作を始めよう。






「とか思ってたんだけどなぁ」


 昨日仕込んでおいたオーガの里の魔導炉を見に来たら、魔導炉が崩れていたでござる。


「旦那様、これは失敗でございますか?」

「どうだろうな。とりあえず魔導炉の残骸を冷やさないといけない」


 手提げから杖を取り出して、水のカートリッジをセット。

 大きな水の球を空中に浮かべて、それで魔導炉の残骸の上から覆いかぶせる。


 ジューという水が蒸発する音に始まり、水の球がポコポコと沸騰してどんどん蒸発していく。


「かなりの熱だな」

「旦那様、危ないでございます」


 ユーナが緊張した面持ちで魔導炉の残骸を見つめる。

 水の球はどんどんと蒸気を生んで小さくなっていくので、オレは魔力を杖に流し込んで次々と水の球を生み出して残骸に突撃させていく。


「うわぁ、時間がかかりそうだなぁ」

「相当な温度でございますね」

「溶解した魔導炉の部材が地面まで溶かしてるな。ああ、これか。地面が原因かな」

「地面でございますか?」


 オーガの連中やハクオウが手を出さないように世界樹の柵で結界を作っておいたが、地面まではカバーしてなかった。


「熱が原因で地面が水平じゃ無くなったんだ。魔導炉に傾きが生まれて内部のバランスが崩れて熱が集中した個所があったんだろう。結果、一部のレンガの耐久値を超えてしまったんだろうな」

「そんな事があるのでございますね」

「【神炎の依り代】で通常よりも高い温度も出てたのも問題だろうがな」


 魔導炉は高温になる為、当然床にも耐熱レンガを敷き詰めてある。それも普通の耐熱レンガではない、オレのお手製の魔物由来の耐熱レンガだ。

 耐熱レンガが耐えれても、耐熱レンガと接している地面がレンガ越しに熱を受けて溶けてしまったんだろう。大地にレンガが沈んでいる箇所もある。


 失敗したなぁ。頭を掻いてしまう。


「作り直しでございますか?」

「それは錬金窯の中身次第かな。外が崩れてるとはいえ、中は無事かもしれないから」

「じゃあ確認するでございます!」

「ダメ、危ないぞ」


 ユーナが前に出そうな素振りを見せたので、首根っこ掴んで止める。

 魔導炉もまだ大量の水蒸気の中だし、オリハルコン製の錬金窯はその下だ。下手すればマグマの中に沈んでいる可能性もある。

 魔法で出した水をどんどん投入していってもなかなか温度が落ちてくれない。


「あ……もしかして」

「どうしたでございますか?」


 オレは【解析】を使い遠距離から魔導炉の状態を確認する。

 そして魔導炉にセットされている【神炎の依り代】はまだ熱を放っているのが分かった。

 うん、ありゃいくら水をかけても無理だ。


「……とりあえず、もう4,5日は放置だな」


 神炎の依り代に封入されている魔力量から考えると、即座に熱の放出が止むとは考えづらい。魔導炉の崩壊と共に壊れてるかと思ったけど、全然元気でした。

 魔導炉が無事なら外にはそこまで熱が出てこないので問題なかったのだが、暑すぎて近づけないわ。


「あー、変な失敗した。くそぉ、色々素材が勿体ねえ」

「だ、大丈夫でございます旦那様! 旦那様でしたら次は成功させるでございます!」


 ユーナの慰められつつ、更に広い範囲に世界樹の柵を作成して熱が上にしか逃げられないようにしておく。

 後日確認したところ、錬金窯の中身は錬成途中で変に固定化されたうえ、いびつな形でとても武器に仕込む事ができそうにない魔核が完成していた。

 でっけえ花火の素材くらいにしかならん……作り直しだわ。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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