パーティに出る錬金術師④
陛下に確認をしに行くと言う皆さんを笑顔で送り出した後は移動だ。
今回はちょっぴり無茶な錬成を行うので、皇都の工房ではなくオーガの島だ。
旅の為に新しく作った工房をこちらに運んで、オーガの村から離れた場所に設置。オーガの連中やハクオウにも近寄らない様に言ってある。
岩場の一角に工房から取り出した魔導炉を設置して、誰も近づけない様に世界樹の柵で囲う。かなり危険なので柵も二重だ。
それが終わったら再び工房に戻る。
「旦那様、お帰りなさいでございます」
「ああ、頼んでおいたものは?」
「はい、準備出来てございます!」
工房で待っていたのはオレの細胞を受け継いだホムンクルスのユーナだ。
他のホムンクルス達と違って、生産特化タイプなので工房での作業には必須である。
ドーレンさんがどの属性が得意なのか分かっていなかったが、ヘイルダムで色々と作ったから目減りしていた水溶液を作らせていた。
モノヅクリをさせると周りが見えなくなるので、適度に加減した命令をしないといけないのが難点。
以前「〇〇を多めに作っておいて」って雑な頼み方したら、魔力値がギリギリになるまで作ってたからね……ホムンクルスは魔力が無くなると死んだようになるので怖い。
「ご苦労様。さて、早速やるかね」
ドーレンさんの得意属性は調べて分かった。本人の申告通り火と地属性だった。そしてどちらかと言えば火が得意。
本人に自覚があるか分からなかったが、実は空間魔法にも適性があったので面白い事が出来そうである。
剣の形や長さ云々の話は置いておくとして、先に魔核の部分を作成する事にしたのだ。
「剣も勝手に作ってもいいんだけどな」
この依頼を受けるにあたって、簡単に頷いたのはこの聖剣のレプリカの作成実績があるからだ。
剣の魔核を取り換える作業は面倒なので、剣自体も制作するつもりだ。
魔剣と違い、魔法剣は魔法が封入された魔核が搭載されるのだがこの剣は魔核が一体化している。カポっと外せるタイプだと楽なのだがそうでないものは魔核が入ってた部分を取り外すのがとんでもなく労力がかかる。
「レプリカを修繕するより、ゼロから作った方が楽だしな」
型は取れるが、剣のバランスなんかを取るのが大変だし。
「魔核ですか? 魔核はまだ作った事がないでございます」
「ああ、今日はしっかり見ているといい。だがオレの許可なく魔核の作成は行わない事」
「了解でございます!」
ユーナの魔力はオレと同質だから錬成時に近くにいても邪魔にはならない。
「さて、基本は炎の魔石だな。それと……空間系だなぁ」
今回は国からの依頼だし、余っていて使い道がなく、かつ高価な素材が使い放題だ。
色々としがらみがあって、使えない物も使える。
『聖剣のレプリカを打ち直した』という言い訳が使えるからね!
「今回はかなり上のランクの素材を使うからな。窯じゃ溶けてくれない」
オレが持っている火の魔石でも最上級の魔石『炎帝 カナガチ』の魔石だ。
世界樹のダンジョンの上層にあるマグマ地帯、そこのボスモンスターの魔石だ。
クラスメート達が一緒の時には倒すのにかなり苦労した相手。全身から熱を帯びて、一歩進むごとに地面を溶かし、咆哮一つで空気まで焼き尽くすとんでもな6本脚の巨大な虎の魔物である。
物理攻撃をかけると全身を炎に変化させて物理攻撃を回避、魔法攻撃は単純に強固な毛皮で防がれたり、巨体に似合わぬ高速移動で回避をする厄介な魔物だ。
巨体に見合う魔石を持っており、魔石だけで乗用車くらいである。
クラスメート達とクリア様のいる天界へ向かった時は、何度も戦っては撤退を繰り返し、火属性の完全無効装備でガチガチに固めて、明穂と栞のスピードで翻弄し小刻みにダメージを与えて、何時間もかけて倒した相手。
ちなみに今のメンバーで天界に向かって倒した時は、エイミーの幻術で動きを止めてイドが首をズバンだった。簡単過ぎてオレと栞の顔が相当間抜けな物になったのはしょうがないと思う。
「ここまでの大きさは使わないから、拳大に削るぞ」
「はいでございます!」
魔石は文字通り石の様な硬さだ。この大きさだと岩か? 失敗した時の事を考えて4つほど取り出す。
やり方は岩を割る時と変わらない。魔石に楔を打ち込んで、ハンマーを入れるだけである。
楔の周りのヒビが広がらない様に、保護シートを張るのがポイント。変な割り方をすると中に封じられている魔素だか魔力だかが逃げてしまうから気を遣う作業だ。
ペキンと小気味よい音と共に拳大に4つ程取り出す。大きいのを1つでもいいが、失敗した時の為に多めにとりだす。
魔剣は魔力によって剣を強化したり、魔力の属性を変えて炎や雷なんかを出して追加効果を与える。魔法剣は魔法剣自身に魔力があるので自分の魔力を起爆剤に魔法を発動させる事も可能だ。
一般的な炎の魔法剣はファイヤーボール的なものを飛ばしたり出来る程度だが、今回作る魔法剣は聖剣のレプリカ。その気になれば特殊能力を3つも4つも付けることが可能だ。
「あのおっさんは火炎球を使えるって言ってたしな」
炎の魔法は威力に差があるが、どれもこれも似たようなものが多い。
炎を飛ばして焼くか爆発するか、吹き飛ばすか。そんな物ばかり。
海東は他にも色々と考えていたけど、これは炎の特性を現代人として知識があったから思い付けたことだ。
「……まず火力を上げる方向と、それとどうするかな」
この世界の炎の色は赤い。
火の温度が高ければ青白くなるが、そこまでの火力をこちらの世界ではなかなか出せないので赤いイメージが普通だ。
「火の力を凝縮させる素材か、なんかいいのあったかな」
カナガチの炎はどちらかといえば拡散する性質があった。ただ剣に封入するとなると収束させる方向のがいいと思う。
「熱を溜め込むギミックを付けてみればいかがでございます?」
「なるほど」
やりすぎると爆発しそうだが収束させるという意味ではいい案だ。
「炎を生み出すのをカナガチの魔石で作って、炎を収束……ではなく炎を溜め込む、フレイムゴーレムの噴出石を使うか」
フレイムゴーレムは火属性のゴーレムだ。特徴としては手や顔から炎を放つ事が出来る。顔から出す意味は不明。
手の中心にある噴出石は魔石から魔力が通ると炎を飛ばすシステムだ。
「あとは空間魔法か。とりあえず影トカゲの尻尾だな。あんまり強烈な空間能力は制御が難しいから……ワープトレントの魔石だな」
ワープトレントは移動しない珍しいトレントだ。歩き回ったりしない代わりに、空間を超えて枝で殴って来て死体を回収するトレントである。
ちなみに工房の地下にある転移ドアのメイン素材だ。
もう一つの素材、影トカゲの尻尾はワープトレントとカナガチの魔石を合わせる定着剤として使う。影の中に逃げ込むトカゲ、実際には影を入り口に自分の魔力で作った別次元に逃げ込むのだ。たいして強くないけど見つけ出すのが大変な魔物だ。
ユーナの作っておいてくれた火の水溶液を窯に入れて尻尾も溶かして混ぜ込む。
「良い水溶液だ」
「ありがとうございますっ!」
いい笑顔で答えるユーナの頭を撫でつつ、錬金窯の中で水溶液を変質させる。
定着剤を火の水溶液が受け入れたのを確認、空間系の性能も必要なのでワープトレントの枝を削ってそれも溶かしていく。
「これをすりつぶしておいてくれ」
「かしこまりでございます!」
ワープトレントの枝葉を10枚ほどユーナに任せると、今度は魔導炉の準備だ。
通常の錬金の際に、魔石を溶かすのに魔導炉は使わない。
ただ、今回は強烈な火の能力を保持したカナガチの魔石を使うのだ。錬金窯で溶かそうとすると、その強烈な熱に錬金窯が溶けてしまいかねない。
必要なのは純度99%を超えるオリハルコンで作成した錬金窯、硬すぎて魔導回路が単調な物しか走らせられないので繊細な錬成を行うのには向かないが、頑丈さは天下一品。
その中にカナガチの魔石、ワープトレントの魔石、ワープトレントのすりつぶした枝葉、それと先ほど作った錬成液を入れる。
更に魔導炉の中に仕込んである【魔導炎の依り代】を取り外して別の魔核を取り付ける。
これは【神炎の依り代】通常の魔導炉よりもより高い温度を必要とした時に使うのが目的だ。
オリハルコンの錬金窯に魔力を込め、窯を作動させる。
作動させた窯を魔導炉の中にセットし、魔導炉の【神炎の依り代】に魔力を込めてから火入れだ。
「さて、巻き込まれる前に撤退だ」
「巻き込まれるでございます?」
「ああ、炉の周りも含めてかなり高温になるからな」
「見てちゃダメでございますか?」
「柵の外からならいいよ。でも窯の中は見えないけどね」
「燃料の補充いかがするでございます?」
「ゴーレムを使う」
石炭でゴーレムを作り炉の中に特攻させるのだ。
中心核に火の魔核を使えば魔核も燃料になるので最強である。
ジジイに『戦場で使うなよ』と言われるほど危険なゴーレムなので、人目に付くところでは絶対に使えない。
ゴーレム達の行動設定をしておき、3日も放置しておけば魔核の元が出来ているはずである。




