パーティに出る錬金術師③
「ではドーレン副隊長、色々と調べさせて貰いますね」
皇都ハイナリックで用意された屋敷、剣を軽く振って貰ったりするつもりなので今は庭です。
一応ドーレンさんだけではない、付き添いの騎士が2名一緒にいる。椅子を勧めたが、立ってこちらを見つめています。
「ああ、しかしこうして体を調べられるのは初めてだな……」
「そうですか? 魔武器じゃないにしても普通の武器を作った事はないんですね」
「騎士に入ったころは武器は支給品だったしな。それ以降は先輩や陛下に譲られた魔剣や魔法剣を使っていたから専用の武器をゼロから作る経験はない」
「なるほど……今使っている武器を見せて頂いても?」
「ああ」
へえ、魔鋼鉄製の魔剣か。この大陸産の物をしみじみ見るのは初めてだ。貴重品だろう。
でも持ち手がかなりすり減っているし、刃の部分も大分研がれた跡がある。
「結構使い込んでますね」
「ああ、見ての通りだ」
「じゃあ早速……こちらを握って貰っていいですか? そして剣を持つように構えて下さい」
持ち手に細工をした少し太めの木剣を渡す。
「こうか?」
自然体で剣を構えるドーレンさん。
「ええ、普段剣を扱っている感じで……セーナ、お相手を」
「畏まりました」
セーナにも木剣を渡す。
「そのメイドと戦うのか?」
「加減はいりませんよ。その剣よりも彼女の方がいい木剣を持たせていますから」
訝し気な表情を見せたドーレンさんだが、剣を持ち構えたセーナを見て満足そうに頷く。
「では軽く」
「よろしくお願い致します」
「あくまでも訓練の範疇でお願いします。ドーレンさんが本気で打ち込んだらその木剣が壊れかねませんから」
「了解だ」
そう言ってドーレンさんとセーナが互いに距離を取る。
セーナは明穂の血のおかげであらゆる武器を一定以上のレベルで扱える、当然剣もだ。
合図もなく、セーナはドーレンさんに駆け込み、剣をコンパクトに振るう。
ドーレンさんはその一振り一振りに丁寧に対応、攻撃の間隔が短くなっていくのが木剣のぶつかる音で分かる。
セーナの連撃を力で抑え込み、横薙ぎの一撃を放つ。
セーナは表情を変えずにステップを踏みながらそれを躱した。
「おお」
「あれを躱すか!」
ドーレンさんの付き添いの騎士二人から声が上がる。
ただ、ドーレンさんは流石はシルドニアの騎士団の副隊長、セーナの剣を捌きつつも鋭い返しを行って徐々にセーナを追い詰めていく。
実力はドーレンさんの方が上のように感じる。
付き添いの騎士達が目を見開くほどの剣撃を互いに披露しあい、ドーレンさんのエンジンが1段階上がったところでオレはストップをかけた。
これ以上はセーナがきついだろう。
「はい、十分です」
「そうか……ここから面白くなりそうだったのだが」
「戦わせることが目的じゃないですから。セーナもお疲れ」
「ありがとうございました」
セーナはホムンクルスなので息も乱さず、汗も搔かない。涼しい顔で礼をした。
「うむ、その若さで見事な腕前だ」
「ラダック卿とここまで打ち合えるメイドがいるのか……」
「ああ、しかも疲労が見えない。底知れないな」
若さで言えばダントツである。まだ生後2年程度ですからね。
「ドーレン副隊長、剣をこちらに。それと次はこれを」
「む? また木剣か」
「はい、魔力で体を強化せずに剣を振るう時の最大の力で握りこんでください」
「難しい注文だな……何か当てられる物があれば」
あ、それもそうだね。
じゃあズンバラ君の出番だな
「こちらにどうぞ」
「魔法の袋か、当然の様に使うのだな」
「ええ、こちらはズンバラ君EXです。思いっきりどうぞ」
「何かの植物を束ねた人形か、では遠慮なく……ぬうん!」
ズンバラ君EXの肩口を捉えた木剣は、思いっきり地面まで振り下ろされる。
ズンバラ君EXの抵抗もむなしく、あっさりと両断されてしまう。
「ありがとうございます。次はこちらを」
「了解だ」
同じように木剣を渡す。
「今度は魔力で体を強化して、同じように全力で切り込んでください」
「ぬ? 流石に街中では危険だぞ」
「屋敷周りに結界は張ってありますし、衝撃はズンバラ君EXが吸収してくれるので大丈夫ですよ」
「本当か? ぬ、治っておるな」
「動きが気持ち悪いですね……」
「なんとも面妖な動きだな」
まあ砕かれたり切られたり、そんな被害を受けたズンバラ君EXは元に戻る性質があるからね。炎で焼かれたりしても戻るんだぞ? まあ粉微塵にされるような攻撃を受けたら治らなくなるけど。
「まあ見ないと不安ですね……セーナ」
「はい、ご主人様」
セーナに一振りの普通の魔剣を渡す。
そしてセーナは魔力を循環させて、ズンバラ君EXに全力で剣を振るう。
「ふっ!」
ズンバラ君EXは再び斬られる。今度も同じような結果だ。
「セーナの攻撃のレベルは?」
「勿論分かる。あれも魔剣か」
「ええ。セーナに順応できるようになっている物です。魔剣ですから、魔力も食わせての攻撃でした。この木剣で肉体強化のみであれ以上の攻撃になりますか?」
「ならぬな」
「では問題ありませんね」
「うむ、残念だが仕方ない」
むしろなったら怖いから当然だ。
あ、話してる間にもズンバラ君EXはもにょもにょと再生しております。
「では改めて、お願いいたします」
「了解した。はああああ……ぬうんっ!」
再びズンバラ君EXの体が宙を飛ぶ。
というか爆散する。
「ありがとうございます。剣をこちらに」
「ああ」
「流石は副隊長、見事な一撃です」
「ああ、とんでもない量の魔力が迸ったのが分かったな……」
「ふん、こんなもの実戦では役に立たん。敵に攻撃をする時に、あそこまで魔力を集中させるのは至難の業だ。相手も動くのだからな」
オレは副隊長から合計で3本の剣を預かる。
次に用意するのは魔力の測定用の魔法陣だ。
「次に魔力の得意属性や魔力量を調べたいと思うのですが、普通秘密にしますよね」
「属性に関しては隊の連中に知れ渡っているぞ?」
何がおかしいと言わんばかりにドーレンさんが答えてくれる。
あー、分かりやすく聞いた方がいいか。
「どうします? 『他国』のオレが見てもいいものですか?」
「何か問題でもあるのか? ああ、なるほど。もしダランベールと戦になったりした場合か」
顔を上げてこちらに視線を向けるドーレンさん。
オレはその言葉に小さく頷く。
「敵国になった場合限定ですけど……副隊長の能力、戦力が割れているのはアドバンテージになりますからね」
「それは確かにそうだな。だがまあ構わんよ、私一人の力でどうこうなる国力差ではなかろう?」
どうだろうか。この人はダランベールの姫様の親衛隊の人たちや一部のクラスメート達みたいな一騎当千な人と同じような気配を感じるんだけど?
「それに私が部隊を率いて戦いの場に出るということは、この国が相当追い詰められている時だろうしな。何せ陛下の護衛騎士なのだから」
「その割には護衛してませんよね?」
「自分は久しぶりに顔を見ました」
そういえばダンジョンに潜ってる人なんだよね、この人。
「ふははははは! 何! 自分の武器が手に入るならばそれも収まるだろうさ!」
病気みたいなモンですかね?
まあ本人がいいと言うなら別にいいか?
「今回作るのは聖剣のレプリカですが、ドーレンさんに合わせてチューニングを行います。魔法剣を使用する際には魔法剣の中の魔力を持ち主の魔力で活性化させて、魔法剣の中に封じられている特異な能力を引き出して現象を起こすのが仕組みです。炎を生み出し飛ばす魔法剣なんかが比較的よく見る魔法剣ですが、見た事は?」
「良くは見ぬな」
「私もです」
「ええ……」
ああ、そうっすかぁ。そうっすよねぇ。
「では、実際に見てみますか」
オレはこちらの大陸に来てから作った魔法剣を取り出す。
あまり豪華な作りにはなっていない、普通の剣だ。
「これにオレが魔力を軽く通して発動すると、このように炎が出ます」
刃の部分に炎が宿る。
「セーナ、発動させて。軽く魔力を走らせる程度でいいから」
「はい」
セーナが握り、発動させる。セーナの方が炎が強い。
「お三方も試してください」
「お、おお」
「これが魔法剣……」
付き添いさん方がやや興奮気味だ。
魔剣以上に魔法剣は希少なのだろう。目を輝かせている。
「ふむ、私の炎が一番大きいな」
「そのようですね。副隊長は炎の魔力特性が強いのでしょうか?」
「あまり魔法攻撃はせぬが、火炎球ならば魔物相手に使う事もあるな」
「他のお二人は、オレ以上ですがセーナ以下ってところですかね」
「ああ」
「そのようだ」
なんか二人とも肩を落としてるけど。
あ、そうか。
「別に火が出なかった訳ではないですから、使えない訳じゃないですよ? 得意属性、不得意属性がありますから。炎系列は普通ってところですね」
「普通なのか」
「普通かー」
普通が一番よ? 尖った武器を求めないで済むし。
「副隊長は火が得意属性か魔力が単純に大きいかのどちらかですね。こちらの魔法陣で調べる事によって魔力の量や得意属性が調べられます。副隊長クラスの腕前があれば、多少苦手な属性でも操る事は出来ると思いますが、得意属性が分かればその得意属性に合わせた能力を剣に封入します。そうすればより強力な魔法攻撃が出ますからね」
「ほうほう、きちんと調べてそれに合わせて剣を作れば、それだけ私の力も上がるという事だな」
力が上がる? そんな訳ないでしょ。
「力が自在に操れるようになるだけですよ。武器が変わった程度で地力が上がる訳じゃないですから」
「む、そうなのか?」
「はい。入隊したばかりの兵士が業物の剣を持っても爆発的に強くなったりしないでしょう?」
武器はあくまでも武器なのだ。本人の力を引き出す事は出来ても、本人の持つ力以上の力を操れるようになる訳じゃない。
「魔法剣というだけでも十分な力だと思うが……」
「魔法剣を美化しすぎですね。どんな強力な武器を手に入れても死ぬときは死にます。それに魔法武器は強力であればあるほど、味方を巻き込む危険性だってあるんですから制御を覚えなければなりません」
副隊長と付き添い達が困惑した表情をする。
「強い武器を手に入れば、戦いの幅は確かに広がります。でも自在に扱えなければ意味がないですし、自分が強くなったと勘違いしてはいけません。その理論で言えば、自由な属性の武器を作れるオレは最強になりますよ?」
「確かにそうだな! しかし強い武器を持っても強くならないか……私はその強い武器を求めてダンジョンに籠っていたのだがな」
困り顔のドーレンさんだ。
「強い武器を求めるのは悪い事ではないと思います。その武器を使い、何を目指し何を成すかじゃないですかね?」
「何を目指し、何を成す……か」
オレの言葉に騎士3人が考える様に眉を潜めた。
「……素晴らしい! ライトロード殿!」
ガシっとオレの両肩を掴んでくるドーレンさん。顔近い! 近い!!
「陛下からのご命令と浮かれていた自分が恥ずかしい! そして是非ライトロード殿に剣を打って貰いたいと心から感じた! この様な気分になったのは初めてだ!」
それ、専門の魔法武器を作ってくれる人が今までいなかったからですよね?
「私は火に強い属性がある、そして次に得意なのが地の属性だ!」
「近い、近い! あと痛いっ!」
「ちょ!? ご主人様に抱き着かないで!!」
慌てて割って入るセーナに感謝。
「むう、すまん。興奮した」
「勘弁して下さい、オレは騎士と違って頑丈じゃないんですから」
自分の肩をなでる。おー、痛い。
「武器は自分の命を預けるものであった。決して依存する物ではない、こんな基本的な事も忘れておったとは、まだまだ未熟だ」
「左様でしたか」
思い出せて良かったっすね。
「そして、ライトロード殿。貴殿であれば私の力のすべてを引き出せる剣を作成してくれると確信した!!」
「はあ……まあいいですけど。単純に話を纏めると誰にでも使える剣を作るか、副隊長さんに合わせた物を作るか。単純にその違いです」
「「 なるほど 」」
付き添いの二人が頷く。
「聖剣のレプリカ、だが……正直長さが好みではない。もう少し長くてスラっとした剣の方が好きだ」
「へ?」
「ちょ!?」
「ラダック卿!?」
えっと、レプリカなんですけど? 長さや太さまで変えちゃうの?
「どうせ誰も元の剣を知らんのだ! それにせっかくチューンしてくれるというのであれば多少我儘を言っても構わんだろ」
「えーっと、いいのかな?」
「良くないと思いますが……」
「せめて陛下に確認を」
付き添いの騎士さんが困惑していらっしゃいます。
その辺はそっちで解決して下さい。自分は剣を作るだけなんで。
「とりあえず属性値と魔力量計りますので。それが終わってからでいいですかね」
「うむ、陛下の首がへし折れてでも縦に振らせよう」
「それ、殺しにいってますよね」
考え方が脳筋である。




