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屋敷をもらう錬金術師⑥

「次は自分の番っすね」

「ああ、しかし……お前の奴隷紋って」

「じ、自分の胸にあるっす。風呂にも一緒に入ったし、平気っす!」


 ジェシカの奴隷紋は心臓付近。つまり胸をオレが直視しないといけないわけなのだ。ジェシカはモジモジと上着に手をかけようとする。


「今更ながら、は、はずいっすぅぅぅ」

「だなぁ。やめとくか」

「ダメっすよ! あの執事長のダンナ、めっちゃ厳しそうじゃないっすか! あんなのに睨まれたら自分働けなくなるっす!」


 確かにドリファスは厳しい。

 オレも言われた事をこなさないと後で何を言われるか分かったものではない。


「と、とりあえずセーナが戻るまで待つか」

「セ、セーナさんが戻るまで待つべきっすね!」


 そんな事を言いながら顔を赤らめてチラチラこちらの様子を伺うジェシカ。


「セ、セーナさん遅いっすね!」

「ドリファスに何かお小言でも貰ってるのかも知れないな」

「そ、そうっすか。ありそうっすね!」


 扉を見て、こちらを見て、扉を見て、こちらを見てを繰り返すジェシカ。

 き、気まずい。


「だ、旦那様って呼ぶの、結構被るんで。い。今まで通りライト様に、戻そうと思うっす」

「構わないけど、どうだろうな。ドリファスは主従関係に厳しいからな」

「そ、そうっすか……」


 そして視線を落とし、またこちらを見るジェシカ。

 そして視線を合わせると逸らされる。


「ラ、ライト様。その……」

「お、おう」

「ぬ、脱ぐんで見て欲しいっす」

「はい?」

「脱ぐんで! 自分を見て下さいっす!」

「や、でも」

「脱ぐっす! 脱ぐっすから!」


 や、そんな懸命にアピールしなくても。

 そして脱ごうとして首元に手を回し、ホック部分を何度も弾く。


「く、首のとこのホックを、お願いするっす」


 そういってこちらに背中を見せる。


「はいはい」


 言われるままに外してあげる。

 そしてジェシカは背中を向けたまま、着ていたメイド服の上着を脱ぎ、下着も外す。

 一度だけ風呂に全員で入った時に見たことがあるジェシカの裸。以前よりも体つきがしっかりしている気がする。

 健康的な肌とバランスのよい体つきだ。ただ、奴隷兵として任務に就いていたジェシカの背中には、いくつかの傷が残っている。

 女の子なのに、と思うとちょっとかわいそうになる。


「すー、はー」

「ジェシカ」

「は、はいっす!」

「そのまま動くな」

「う、うす!」


 手提げから上級ポーションを取り出し、布に染み込ませる。


「少し拭くぞ」

「え? 自分汚いっすか!?」

「……ああ、汚れが付いてる」

「申し訳ないっす……こんな事ならお風呂に入っておけば良かったっす」

「いいから動かない」


 ジェシカの背中にポーションを染み込ませた布で、古傷を拭う。


「あ、そこは……」

「どうした? 冷たいか?」

「あ、あのそれは汚れじゃなくて」

「汚れみたいなもんだろ」


 何か尖った物が突き刺さったような傷だ。

 雑に処理されたのだろう、背中の肌の色と違っているし周囲も盛り上がっているから見ればわかる。


「汚れ、っすかね」

「ああ、汚れだ。こっちも、こっちもな」

「ライト様は変わってるっす。奴隷相手にこんな高級品を使う主なんて普通いないっす」

「確かにこの布はAランクの魔物から作った高級品だな」

「ぐすっ、そうかもっすね」


 古傷は体に定着してしまっているので、部位欠損を直せるレベルの回復アイテムでもなければ治せない。それを知っているんだろう。

 ポーションを使っているんだから、本人も古傷が治る感覚を得ているだろうからね。


「まあ、こんなもんか。前は自分で拭けよ」

「お借りしますっす。ぐすっ」

「なんで泣くんだよ」

「何でもないっす! あと泣いてないっす!」

「そうか」


 やっぱり女の子だからだろうか。体に傷が残ってたのが気になっていたのかもしれない。

 喜んでもらえたならなによりだけど、内ももとか目の前で拭いてもらいたくないんですけど。

 スカートに手突っ込んでガニ股になってゴシゴシするのは後で良かったんじゃないかい?






「ライト様、綺麗になったっす。この布は自分が責任をもって洗うっす」

「おう、頑張れ」


 そこで深呼吸を一つ、ジェシカは大きく背中を動かし息を吐く。

 そしてこちらを向いた。


「これが自分の奴隷紋っす」


 形のいい胸をオレの前に突き出しつつも、どこかリラックスした表情でオレに胸を向けてくる。

 栞とエイミーの中間はいわゆる普通サイズなのである。


「お、おう」


 その双丘の真ん中、やや上に薄っすらと光の線を持って浮き上がるのが奴隷紋だ。


「あ、主がそこに触れるともっとはっきり見える様になるっす」

「そ、そうか」


 双丘のそれぞれの頂点が気になってしょうがないが、男の子の部分をなんとか抑制し、街で医者の真似事をしていた時の様なテンションになんとか持って行く。


「さ、触るぞ」


 持って行けるかーい!?


「どうぞっす。なんか緊張してたんすけど、元々自分の体はライト様の物っすからね。そう考えると、緊張も何もないかなって。それと、少し自信も持てる様になったっすから」

「そうっすか」


 全然話が頭に入ってこないっす!


「もう、ライト様は奥様方ので見慣れてるっすよね? それにエイミー様と比較したらこんなの無いに等しいっすから」


 そんな事いいながら持ち上げるんじゃない。


「ふー。はあ、わかった。取りあえず紙に写すから、そのまま動かないでくれ」

「了解っす」


 セーナがいないので自分でやらないといけない。

 ジェシカの胸を何度も直視し、見えにくい部分を見やすくするため奴隷紋に触って光を強くする。

 その度に「あん」とか「んっ」とか言われるのがいちいち、こう。あれっす。

 なんというか、ジェシカの癖にいい匂いもするし。

 こいつ、オレの奴隷だからそういう事をしてもいいんだよな……とか何度も頭によぎってしまうのを抑え込む。


 何度も間違い、書き直して。ようやく写しを完成させる。


「お、終わった……とりあえず前を隠してくれ」

「お疲れ様っす」


 タオルを手渡す。


「まだ着ない方がいいっすよね? メリッサさんみたいになんか書くっすか?」

「ちょっと休憩させてくれ」


 流石に平静を取り戻すのに時間がかかりそうですから。






「奴隷紋の仕組みは大体分かったけど、その奴隷紋自体を描くインクの素材が分からんな」

「そうなんすか?」

「ああ、一つは本人の血液だろうけど」

「け、血液っすか」

「ああ。お前も子供の頃に抜かれてるはずだぞ」

「知らんかったっす」

「まあ覚えてないか」


 こいつは赤ん坊のころに親の不正が原因で国だか領だかに徴収されたらしいから。


「恐らく隷属紋も同じだと思うが、どうなんだろうな。命の水溶液だと奴隷紋を描いた後の服従させる部分に違和感を感じるんだが。隷属紋はそっちで良さそうだが」

「そうなんすか?」

「ああ。主に逆らったり、主の意に反する事をすると奴隷ってのは体にダメージがいくって話じゃないか。心当たりないか?」

「息が出来ないほど痛いらしいっすね。自分は奴隷兵だったので、兵隊長相手に奴隷紋が反応する程逆らった事は無かったっす」

「そうなのか」

「自分の立場は生まれた時から奴隷っすもん」


 奴隷根性が染みついているらしい。


「孤児院では?」

「孤児院は基本的に奴隷の教育係も奴隷っしたから、逆らってもなんもおきんしたっす。まあお仕置きはあったっすけど」

「そうか」


 ふうむ、参考にならんな。


「分かんないんすか?」

「流石に今まで見た事無い魔法陣だからな。主従を司る自身の名前や主の名前、それらを繋げる部分は契約魔法の応用だから理解出来るが」

「そうっすかぁ」


 タオルで胸を隠しつつ、机の横から覗き込んでいたジェシカがパサリとタオルを落とした。


「っす!!」


 ばごっ!! っという音と共に、思いっきり頬をジェシカに殴られた!

 衝撃で椅子から投げ出されて、地面に転がされる。


「おま、いきなり何……」

「っぁ! くっ! はっはっはっはっ」


 胸を抑えてうずくまってるジェシカ。


「も、もんを、っ! くう! 見るっす」

「おい!」

「くうっ! ひゅーっっ!!」


 苦しいのは胸元からノドの辺りだろうか。汗をびっしり掻いて苦悶の表情を浮かべて、それでも紋をオレに見せようと胸を押さえるのを我慢している。

 奴隷紋は今まで黄色い淡い光を放っていたのだが、今は赤い色を放っている。


「もういい! お前を許すから」

「くはっ! はあ! はあ! はあ!」


 オレからの許しを得ると共に、奴隷紋は元の色へと戻った。


「うへぇ、こんなに辛いんすね」


 ガラガラにしゃがれた声を出して、ジェシカが力なく笑う。


「無茶するな」

「ライト様、すまないっす」


 そう言いながらオレの頬を撫でる。


「少しベッドで休んでなさい」

「あ、待って欲しいっす」


 そう言って先ほどポーションを染み込ませた布でオレの頬を撫でる。

 まだポーションが残っていたからか、熱が引いていくのが分かる。

 でもそれ、お前の股下とか拭いたやつだよな?


「胸が焼ける様に痛かったっす。それといくら息を吸おうとしても空気が入って来なかったっす」

「喉を締め上げたのか、それも焼くように。肺に直接って訳じゃなさそうだが危ない術式だな」


 いつぞやの時に使った香炉を取り出してポーションを注ぎ、気化させてジェシカに吸わせる。


「あのままだと死ぬっすね」

「だろうな。だが人間の行動を縛るにはいいアイディアなんだろうな」


 人間息が吸えなければ活動なんか出来ない。


「属性は火か、そうなるとここの術式は体内に干渉するのに必要なのか……」


 書き写した奴隷紋が、先ほど反応した時には微妙に変化をしていた。

 恐らく奴隷の行動を縛る時に形を変えるのだろう。

 変えると言っても紋の中のいくつかの線が伸びたりしてくっついて、そう言った変化だ。

 そうなると……


「少し休ませて貰うっす。聞いてないっすね」


 熱を生じるのは体内に、それも締め上げる様にとなると、こっちの線が伸びるのか。

 それで別の魔法陣が奴隷紋の中に生み出されると。

 生命の水溶液と赤の水溶液を使ってって感じだが、これ奴隷の健康状態によっては死ぬんじゃねえか? それにジェシカは頑丈だったから良かったが、場合によっては後遺症やらが出かねない。

 行動不能にさせるんだったらもうちょっと別の術式のが効率が良さそうだな。ちょっと変えるか。

 やはり本人の血液を使うのは変えない方が良さそうだな。

 それと、体に定着させるのも胸元じゃなく背中にした方が書きやすい。

錬金術師の作品なのに、改めて読み返すと錬金関連の説明がクドいなぁ……読み飛ばしてる人結構いるんじゃないかなって思う。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 拙者、設定中ゆえ楽しませて頂いております。
[一言] 戦闘描写とかはちょいちょい読み飛ばします 錬金関連は楽しく読ませていただいてます
[一言] 貴方さっきまで女性の裸にドギマギしてませんでした?w
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