屋敷をもらう錬金術師②
「いやー、大量大量!」
「魔導炉が無い割には結構な魔道具が出てきたなぁ」
玄関を開け、玄関ホール。かなりのスペースであるこの玄関ホールの中央に積み上げたるは魔道具や仕掛けの数々。
スパイ活動目的か、それ以外の目的があったか、明らかに屋敷に仕えている人間じゃないのが合計で5人。
窓とか使用人用の出入り口とかも当たり前のように鍵がかかっていても外から入れる仕様だったぞ。
「盗聴用の魔道具が各部屋に最低3つはあったなぁ」
「こっちなんて酷いよ!? たぶんみっちーの寝室だと思うんだけど、ベッドに毒矢仕掛けてあったもん! あ、でもベッドすっごい大きかった! 5人で寝れるね!」
1人多くないかい?
「トイレやら調理場もなぁ。食料貯蔵庫には普通に毒が用意されてたし、更に隠し部屋があって人が隠れてたぞ」
「屋根裏にもいたよ。びっくりして1人取り逃がしちった。ありゃ凄腕だ」
「見つかんないと思ってたのか?」
「隠し通路も多かったなぁ。侵入者向けじゃなくて脱走者向けの罠とセットってのが面白かったけど」
屋敷を吹き飛ばす為っぽい爆弾的な物も見つかっている。せっかくだから後で何か別の物に作り替えるつもりだが危険物だ。
「風呂、広かったぞ。大理石っぽい感じ」
「おおーすごいね!」
「お湯を作る魔道具付きだった。でもスイッチ一つで毒が流れ込んでくる仕掛け付き」
「全裸で死にたくないなー」
「オレもだ」
それと面白い物が出て来た。
「地下に拷問部屋と牢屋があったぞ」
「おお! 流石貴族の屋敷!」
「で、その拷問部屋の一つに隠し金庫というか、宝物庫があった。宝の山だったぞ!」
実は変な部屋があったのだ。かなり巧妙で、精巧に作られた隠し扉を発見。開けてみたらお宝がたんまり。
金銀財宝、魔石に古い魔道具や魔化された武器。
そして旧ハイランド王国の金貨が数万枚である。
宝箱の中に金貨がぎっしりとか現実で見るとは思わなかった。
「いいなー! あたしが見つけたかったぜい!」
「こういうのは早い物勝ちだよな」
盗聴用の魔道具やらとは別にお宝も並べてあって眩しい。
「ふ、二人ともそろそろ……」
「ライトロード殿、栞殿。どちらが悪者か分からなくなるぞ」
そして見事におでこと地面をキスさせているのが執事長のロイドさんと、この屋敷にあらかじめ配置されていた執事さんやメイドさん達。
「お前ら何人か持ってるよな。盗聴用の魔道具。今のうちに出しておいた方がいいぞ」
そうオレが脅すと、土下座していた執事さんの一人が。それとメイドさん達からもいくつか出てくる。
まだ隠してる執事がいるな。オレは魔道具なら感知できるんだぞ? そいつの肩を叩く。
「ガロード! 貴様っ!」
「逆にロイド様は渡されてなかったんですか?」
「そのような物っ! 渡されても受け取る馬鹿がいるかっ!」
「わー、芝居っぽいなー」
「そうだね、流石にね」
ロイドさんがどういう立ち位置か分かんないけど、まあダランベールの人間って事で警戒されてるんだろうが。オレだけでなく栞やエイミーまでもいつでも殺せる準備が出来ているのは流石に許せない。
人も建物も信用できないのはちょっときついなぁ。
「ハインリッヒさん」
「なんだ?」
「この国の法で、勝手に人の住居に侵入した人の扱いってどうなの?」
「放火、殺人の下として扱われはするが、基本的に重罪だ。騎士団に通報したうえで、何かしら罰則を与えられるのがほとんどだが、貴族の家でなければ罰金と強制労働くらいだな。ライトロード殿はダランベールからの特使ではあるし、例の街の代官ではあるが貴族ではないからおそらくそちらになるだろう」
「そうだね」
「自分達で処理する場合も良くある。商人の場合、侵入者は後々自分達の商品になったりする時もあるからな」
「なるほど。せっかく拷問部屋も見つかったし、有効活用するかね。拷問道具はサビててささくれててすごい状態だったけど」
オレの言葉にじったんばったん動き出す簀巻き達。怖がれ怖がれ。
「しかしこうなったら厄介だな。アラドバル殿下にはクレームを入れるとして、屋敷は一度吹き飛ばすか。それくらい出来る量の火薬はプレゼントされたわけだし」
樽で7個も出て来てるからね。
「そ、それはおやめください! この屋敷は100年以上もの間受け継がれていた皇家由来の屋敷に御座います! れ、歴史的に見ても大変貴重で」
「あのね、ロイドさん」
「わたしのようなものに敬称など!」
「や、それはどうでもいいけど。とりあえずさ、この屋敷も敷地内の物も全部オレの物なんだろ? じゃあ何したっていいじゃねえか」
「で、ですがあまりにも……こ、こちらは、エイドラム陛下やアラドバル殿下も滞在された……」
は? 何言ってるのこの人。
「んな家にトラップ満載で侵入者まで付けてよこしたのはお前らだろうが! オレだけじゃねえんだぞ! ここらのトラップ使ったらオレだけじゃなく屋敷の人間全員吹き飛ばすほどの威力だぞ! 栞やエイミーも含めて! 確実に殺しに来てるじゃねえか!」
怒りのあまりに財宝の箱を蹴り飛ばしてしまった。
トラップを探し回ってる時は無駄に楽しんだ分、今になって怒りが湧き出てくる。
「それでも! どうか! どうか! 我等の命だけで! どうか……」
「お前達の命に何の価値がある? お前達もオレ達と一緒に吹き飛ぶ運命だった、その程度の価値しかねえぞ。第一お前達の首を一つ一つ跳ね飛ばしたところでオレの気が収まると思ってるのか?」
「そ、それは」
「ねえ、道長くん」
「……なんだよ」
「流石に、これはさ。道長くんだけで決めちゃダメだよ。道長くんが、怒りに任せて動いたら、シャク殿下達にも、迷惑がかかっちゃうよ。私も、道長くんの命を狙ってるって聞いて、怒ってるけど……さ」
「エイミー殿の言う通りだ、ライトロード殿。この件がこじれれば、ダランベールとシルドニアの国同士の問題になりかねない」
「えー、みっちーが本気でやっちゃえばいいじゃん。あたしはいいよ? みっちーの事はあたしが守るもん。それにハインリッヒさんはこじれればって言うけど、十分こじれてない?」
エイミーとハインリッヒさんが抑えに回ろうとするが、栞の言う通りだ。
正直オレに対する宣戦布告だ。
「お庭も十分広かったし、そっちにとりあえず工房を出してさ。今後の事は私達だけで考えようよ。この人たちを責めても、しょうがないと、思うよ」
「わかった……でも流石に腹が立ってる」
「それは、その、私達で収めてあげれば、いいか、な?」
「ずっと馬車での移動でご無沙汰だもんね」
お、おう。
とりあえず、盗聴用の魔道具やら侵入補助の魔道具、それと攻撃性のあるトラップやお宝はすべて回収。
簀巻き共はどうするかな。
まあ1日、2日くらいなら死なないか。
牢屋にぶち込んでおこうか? まあそのまんまでいいか。
「この屋敷に食料はどのくらいある? 全員ここから出ないで何日過ごせる? オレ達が食べる分は考えなくていい」
「わ、我々だけであれば1週間はもつかと、氷室も御座いますので」
「じゃあオレがいいと言うまで屋敷から出るな。庭にもだ。全員でお互いを監視しろ。もし屋敷から出た人間がいれば報告をしろ。報告の為だけにならば庭にいるオレ達の所に来ることを許可する。発見者には……ハインリッヒさん、これ1枚でどんくらいの価値がある?」
「1枚で5万ケイルってところだな。皇都でも使われている」
「5万ケイルでどれくらい生活出来るかな」
「平民ならば1、2ヵ月くらいだ。貴族の場合はまちまちだな」
「そっか。じゃあ発見者には3枚だ。こちらで記録を付けておく。解放する時に渡そう。一度も名前の挙がらなかった者には5枚だそう。これらの記録を見たうえでお前達の首を刈るかどうか、後程決める」
頭を下げているメイドさんの何人かの喉がゴクリとなっている気がする。
「イリーナ、ジェシカ。柵で敷地を囲んで来てくれ。ハンマーで整地も頼む」
「了解っす!」
「はい!」
「ロイド」
「ははっ!」
「この屋敷にいる人間全員にオレの先ほどの言葉を伝えろ。オレ達が全員この屋敷を出たらスタートだ。今すぐに全員にお前が声をかけてホールに集めろ。下男や料理人、門番もだ」
「畏まりました!」
「ロイド以外の人間の活動をしばらく禁じる。頭を上げても構わないし姿勢も楽にして構わん。だがこの屋敷から出るな。オレ達がいなくなったら屋敷でのみ自由を許す。使用人の専属棟もあったな。あちらへの移動も許可しよう」
「「「 ありがとうございますっ! 」」」
そこまで言うとオレは溜息を一つ。
「ハインリッヒさん」
「ああ、アラドバル殿下には私から伝えよう。先触れ無しだがすぐで良いか?」
「頼む、晩餐はキャンセルだって伝えてくれ。それとさっきの命令は無しだ。適当に宿を取ってくれ」
「了解した」
「ほれ」
金貨を適当に渡す。
「こんなにいらんぞ」
「余ってるんだよ」
宝箱3つ分もあるからね。
あ、遠目の水晶球も渡しておくね。
怒りも冷めやらぬまま工房を開設。そちらに移動してしばらく経つとイドとリアナも来た。
「よしよし」
「どうした……」
「リアナのせいで暇だから、ライトの状態を指輪で見てた。怒ったライト、初めて」
「お、おう」
余計な心配をかけたみたいだ。
「でも栞もエイミーも無事だったから不思議だった。何をそんなに怒ってたの?」
「聞いてくれるかイドさんや」
オレがあらましを説明、栞とエイミーもそれに追加。
ジェシカは工房の門番をしている。
せっせと密告に来たメイドさんから名前を聞き取っているようです。
「そう、全滅させようか」
「や、無理っす」
「大丈夫。わたしが号令をかければ、最低でも200人のエルフが動く」
「地獄絵図が出来上がっちゃう……」
シルドニア滅んじゃう……。
「でもホント、どうしようね。こんなんじゃ魔導炉の拡散どころの話じゃないよね」
「そもそも、道長くんの目的は古い資料だから。王城とか図書館の資料ちゃんと見れるのかな」
「そっちは報酬としてもらうつもりだったんだけどなぁ」
「シャク殿下に話を聞く?」
「いいけど、そうすると乗り込んでこないか?」
「来ると思います……」
ここは完全に敵地である。ダランベールの王族を少数の護衛程度で連れて来て良い場所ではない。
「ああ、こういう貴族や国家間のあれこれが得意な人が欲しいな。フィーナはもう使えないし……」
「あはは、頼めば動いてくれそうだけど、これ以上忙しくさせるのは悪いよね」
「やっぱり殲滅が早くない?」
「イド、お腹の子の教育に悪いよ」
以前より少し張ってきているから。
「ん、なでる?」
「なでるぅ」
物騒だけどイドが優しい。
「はらまき……」
「リアナにつけろって」
「リアナぐっじょぶ」
「当然です」
「わ、わたしもいい?」
「あたしもあたしも!」
しばし無言でイドのお腹を撫でまわす会が発足。
あー、心が洗われる。
「もっと深く、慰めてあげたいけど」
「イド様」
「人がいるので、キスで我慢。ん」
「……十分だ」
「あとは栞とエイミーに任せる。なんならサーナとファンナも呼ぶ?」
「勘弁してくだせえ」
怒りは消えるかもだが体力も消え果ててしまう。
「残念」
「そのエルフの価値観、未だにわかんない……」
「私も」
「オレもだ」
「リアナとしては、マスターの子が増えるいい機会だと思っておりますが」
「リアナ偉い。ライトはすごい、だからすごい子が生まれるはず」
「すごい子ってなんだよ……」
どんな子供だよ。
「里、わたしが外に出る時と比べると、随分人が減った」
「魔王との戦争のせいだな。大量の魔物や悪魔と戦って、死んだエルフも多く見た」
「エルフの人達ってみんな真っ先に強敵に向かってたもんね」
「ん、でも。だからちょっと、焦ってる」
「そうなんだ」
「子の授かりやすいタイミングの分かる薬、本気で欲しい」
「……考えとく」
男のオレが作るもんじゃねえんだけどね!




