新たな領地と錬金術師⑤
「皇都、か。久しぶりだな」
「もっとお城然としてると思ったが、要塞じゃねえか」
殿下達と旅の日々が何日も続き、とうとう皇都ハイナリックが見えて来た。
皇王が住むっていうこの国の代表的な場所だ。もっと煌びやかで厳かな都市なのかと思ってたのだが、まんま要塞で驚いた。
「元々はハイランド王国が崩壊した後、旧ハイランド王都からあふれ出る魔物と戦う為に作成された要塞だからな。その前線基地がそのまま国の中心になったのだ。いざという時に備えてもいるから、どうしても無骨なままとなる」
「ああ、そういう事ね」
解説はハインリッヒさんです。あざーす。
道理で一番大きい城から見て西側には街が広がっていないはずだ。
壁も高い。
あの壁から見て西の先に旧ハイランド王都があるんだろう。
「要塞の強化と改築を繰り返すうちに人が増えて来てな。それが膨らみに膨らんで、気が付けばああなっていたらしい」
確かに、街並がとてもじゃないが均一ではない。
流石に大通りは敷かれているが、大分ごちゃついてるところもありそうだ。あと微妙に要塞な城と城下町が離れているのも良く出来ている。しかも何度か囲おうとしたのか、城下町の中に大きな壁がいくつもあった。
「当時、残っていた数少ない魔導炉を使い、防衛用の魔道具や兵器も数多く用意されているからな。何度か黒竜王の眷属も退けた事もあるらしい」
「そうなんですね」
「しかし、作ったのはいいものの魔導炉が次々とダメになってしまって、結局は持ち運び出来ない兵器群だらけになった訳だ。あそこから旧ハイランド王都を奪還する軍が何度も出立したらしいが、結果は伴っていない。もう80年は出兵していないはずだ」
「魔物が相手じゃなぁ」
人間同士の戦いであれば強力な個人の存在を除けば、数と武器の優位性で片が付く。
しかし相手は魔物だ。強力な個がいたうえで、数と武器の優位性があっても勝てない物は勝てないのだ。
「そういう意味で、ライトロード殿。貴方は期待されている訳だ」
「なるほどねぇ」
確かに80年もの間勝利出来なかった相手だ。
変革の時って思ってる人間がいるかもしれない。
「まあやるだけやってみますかね」
アラドバル殿下に頼んで閲覧できる資料の中に、勇者召喚に関する資料が無ければ、旧ハイランド王都を目標にしなければならないのだ。
歴史的に見ても100年以上前の資料の為、望みは薄いかもしれない。
だが、こればっかりはやらないと行けない。
オレが、オレ達が帰る為に必要な事なんだ。
「ライトロード殿、聞いても良いか?」
「なんだい?」
「正直、私からしてもライトロード殿の行動基準が良く分からん。安全の保証、魔導炉の技術保全、資料の閲覧の許可と王都での拠点の許可を貰っただけであったな」
「そうだね。そう言えば追加するって言ったけど考えてないや。ハインリッヒさんの授爵も入れておこうか」
「私の事は良い、あまり肩入れされると動きにくくなる。それで、何を考えているのか、どうしてわざわざこの大陸まで来て、旅をして皇都を目指したのか。それを知りたい」
「そうだなぁ」
流石に異世界から来たなんて言えない。他所の大陸から来たってだけで大騒ぎなんだから。
「もうちっとお互いに信用が出来る様になったら教えてあげるよ」
「……そうだな、踏み込み過ぎたようだ」
「悪いね」
「問題無いさ。私は代官殿の部下だからな、上司がそう言うのであれば、その上司の信用を得るまで働くだけだ」
皇都を見つめながら、そんな事を言ってくれるのがハインリッヒさん。
「ん、では一番の仕事は?」
「戦争の回避」
「二番目の仕事は?」
「悪人の排除」
「よし、三番目の仕事は?」
「フィーナ殿と仲良く」
「よろしい、シンプルで分かりやすいでしょ?」
「というか、この3つを守れば好きにしていいってのもどうなのだ? 私に与えられた権限内で、ライトロード殿への税収をゼロに出来るぞ?」
「街の人間が潤うなら、それでもいいよ? オレは他で稼げるから」
「欲のない上司だな」
呆れないで欲しい。
「欲はあるさ。金がそこに含まれてないだけで」
ぶっちゃけ金が無くても既に生活出来るレベルに来ている。
オレが欲しいのは情報なんだよ。




