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新たな領地と錬金術師③

「エッセーナ、いけないよ」

「しかし叔父上」

「この街はシルドニアとダランベールの文字通り懸け橋になる街だ。なればこそ統治にはそれ相応の立場の人間がつくのもわかる。だがエッセーナにしてもシャクティール殿にしても立場が強すぎる」


 どちらも王位継承者だ。それを互いの軍も逗留する地に置くには危険すぎる。

 現在が異常なのだ。


「何よりも、此度の代行職の任命権は我らには無い。あくまでもライトロード殿の権限内だ。そこに我々も、ダランベール側も本来であれば口出しできない範疇だ」

「そ、それは……」

「それなのにこちら側の人間まで加えてくれると言って来ている。しかも彼自身が旅をした中で目をかけた人間をだ。感謝する事であって、口出しする事ではないよ」

「わかって、わかっておりますが!」

「ハインリッヒに爵位を与えれば問題ない。彼の人となりは俺が保証するし、兄上もお認めだ」


 その言葉にハインリッヒさんが頭を押さえる。


「殿下、そのような言葉を……」

「ハイン、これは友人としての言葉ではない。皇太子として、兄上の弟としての公式の言葉だ。それだけ俺はお前を買っているんだよ」


 そう言って一口、紅茶をすする。


「それに友人として、君には我が国に戻って来てもらいたいんだ」

「結局私情が混ざってるじゃねえか、アラド」

「はは、ごめんね」


 本当に仲の良い様子だ。


「しかし私は現在、シルドニアとは独立した都市で政治に関わる者です。こう言っては何ですが、外聞は良くない」

「それは知ってるけど、他に思い浮かばなかったんだよね」


 だってあんまりこの大陸に知り合いいないし。


「こちらの知識があって、かつシルドニアの元貴族というのであれば、ライトロード殿のお傍にも一人いるでしょう?」

「ジェシカは駄目だ。あいつは頭が良くないし、身分も奴隷だ。奴隷から解放しても『元』奴隷と蔑んでくる者がいるだろう?」


 特に頭が良くない。これ問題。


「権力を持たせれば、いかようにも出来よう」

「そんな事で権力を使う奴は街の管理なんか出来ないよ。オレはそう思うけど?」

「ライトロード殿の言う通りだ。やはりハインリッヒしかいないな」


 アラドバル殿下の言葉に疲れたようなため息をつくハインリッヒさん。


「失礼、ハインリッヒ殿」

「シャクティール殿下、私に敬称は不要です。ハインリッヒと」

「で、あるか。ではハインリッヒ、現在君はヘイルダムという都市の運営に関わっているのだろう? そこから抜け出る事は可能なのかい? そもそも、君は既に要職についているではないか」

「その事ですか……それは、可能です。先日、アラドバル殿下との会見を行った際に、私が元々シルドニアの貴族だと知れ渡ってしまいました。近いうちにその職を辞する様に準備をしておったところです」

「なんで!」

「当たり前だろう? 唯一の仮想敵国の内側、それも皇太子と近しい間柄だった人間だ。いつまでもそんな重要な立ち位置に置いておけるわけがない。私としてもあの都市にいた時に、守人ギルドの当時のギルド長が横暴で権力欲にまみれていた人間だったから潰して成り代わっただけだ。元々ギルド長などという職にこだわりがあった訳ではないんだ。後継も何人か育てていた、あとは連中で何とか出来るはずだ」

「だったら俺が行った時に出て来なければ良かったじゃないか!」

「仕事だ。それにライトロード殿には恩義がある。私の保身とライトロード殿への恩義、天秤にかけられるものではない」

「そいつは、申し訳ないな」


 なんとオレとアラドバル殿下との間を取り持つ為だけの為に、自分の立場を悪くしたらしい。


「昔のギルド長のやり方が染みついている人間もいたからな、そのせいでライトロード殿にも迷惑を掛けた」

「謝罪はいいよ、もう終わった話だからね」


 前回の話し合いの前に、しっかりと謝罪は貰ったからいいのだ。


「ハイン、その。すまなかった、私のせいで」

「アラドのせいじゃないさ。オレがダラダラとギルド長の地位にいたのが悪い。元々退く予定だったからな」

「ライトロード、俺としてはハインリッヒで問題は無いと思う」


 シャク殿下はハインリッヒさんを気に入ったらしい。


「ええ、彼の都合がつくのであれば、彼にお願いしたいですね。フィーナはどう?」

「ええ、中々歯ごたえのありそうなお方でやりがいを感じますわ」


 この1週間の間に、フリードリヒ陛下には許可を貰った。

 正式に代官代行に任命されたら、伯爵位まで約束されている。

すごい出世であるが、いいのだろうか?


「ハインリッヒ、急な話ですまないが、受けてくれないだろうか?」

「……もともとヘイルダムからも出ようと思っていたところだ。まあ、無職になるところだったことを考えると、良い条件に、見えなくもない。か」


 あ、照れてる。珍しい。


「じゃあ改めて、この街の代官としてハインリッヒさん、フィーナ=ケッファ両名を代官代行に任命します」

「「 はっ!! 」」


 椅子から立ち上がり、それぞれの国の敬礼をオレに向けてくる。


「さしあたって、最初の仕事を与えます」

「「 はっ!! 」」


 大事な仕事だ。


「この街の名前を、早急に決めて下さい。お願いします」

「「「 そういえば…… 」」」


 港町とか旧港町とか呼ばれてて、名前ないのよね。ここ。






 領土として最低限の体裁を守る為、街の名前をあれやこれやと考えた後、更に前もって話し合っておいて決めておいた税率の発表。

 仕事場の様式やら互いの軍を混合させた混合防衛軍の発足など、色々と何が必要か、何が足りていないか。

 ダランベールではどうか、シルドニアではどうかと言った話し合いが激化。

 フィーナもハインリッヒさんも楽しそうである。


 まあハインリッヒさんは突然姿をくらます形になってしまうので、ヘイルダムで引継ぎを行った後、オレの工房の転移ドアではなく、きちんとヘイルダムの門から外に出る為。また、皇都で授爵したりしなければならない為、合流は後になってしまうが。


 その間はフィーナが代表としてその剛腕を振るうそうだ。

 早く戻らないとダランベール一色にしますわよとハインリッヒさんが脅されていたので、彼も必死である。


 ハインリッヒさんが不在の間は、エッセーナ殿下がその代わりにフィーナの相手をするらしい。

 不安そうな目でエッセーナ殿下が見られていたが大丈夫だろうか? ダメかな?

 そんなこんなで落ち着いたので、ジジイからドッペルゲンガーの躯と交換で得たミスリルゴーレムの真核とその他もろもろの素材で頑張るオレ。


 物作りと回復をメインとした性別の無いホムンクルスの完成だ。


「ユーナ、彼女達がお前の家族だ」

「はい。ご紹介に与りましたユーナでございます」


 中性型のホムンクルス、ユーナである。

 エイミーからの強い要望により、執事服となりました。

 短く揃えた銀髪で、12,13歳くらいの小柄の外見で大人しそうな見た目です。


「よろしくね、ユーナくん」


 すっげえ嬉しそうにユーナの手を握ってブンブンするのはエイミーだ。ちょっとジェラシー。

 そんな姿を見て苦笑する栞も、よろしくと言っている。


「ん、今までのどの子よりも魔力が強い」

「完全な後衛気質のホムンクルスだからな」

「あと、どこかライトに似てる」

「あ、あたしも思ってた」

「実は私も……道長くんの小さい頃ってこんな感じだったのかなって。かわいい」

「オレの顔はここまで整ってないよ」


 ホムンクルスは美形なのだ。顔とか左右対称になるんだもん。


「料理人ホムンクルス達も道長君の髪と血が通ってるのに似てなかったよね?」

「あいつら全員、オレの骨格とはかけ離れていたからな。成長するとそっちにひっぱられるから顔とかも代わるんだよ」


 オレは日本人で普通の体型だが、それに対しこの世界の男性はゴツくてデカい。男性型のホムンクルスもそれに沿ってどいつもこいつもゴツくてでかくなる。自然と顔の彫りも深くなったりね。

 それに対しユーナは中性型の為、顔の造形が深くない。自然とオレの顔と白部の顔を合わせたようなトレースをするのだ。まあ精液を使った関係上、オレの顔のが強くなるけど。


「ご、ご主人様……セーナはもういらない子ですか?」

「そ、そんな事無いぞ!? セーナも大事だからな!?」

「でも、ユーナはご飯作るって」


 涙目で言うんじゃない!


「人数増えたから! それにセーナにはオレの護衛に立って欲しいんだ! イリーナには栞やエイミーの護衛を頼みたいから! ほら、今手の空いてるホムンクルスいないし!」

「ホント? セーナ役立たずじゃない?」

「違う違う! オレの横にはセーナがいいなーって」

「むう、イリーナもあるじのよこがいい!」


 厄介!!


「い、イリーナは強いから、二人の護衛に……」

「セーナはイリーナより弱いから……」

「いやいやいや! セーナも強いから! めっちゃ強いから! イリーナは剣だけだけど、セーナは遠距離やフルアーマーも!」

「イリーナ、けんだけのこ……」

「ごめんて!! 助けて栞!! エイミー!! イド!!」

「ユーナくんかわいいねー」

「ユーナ、美味しいご飯作れるように」

「ユーナはみっちーの事なんて呼ぶの?」

「はい。えっと、その、ユーナは旦那様と呼ぼうかと」

「ぎゃー!! 自分と被ってるっす!!」

「リ、リアナに自分達と被らないようにって言われたのでございます! リアナ、セーナ、イリーナと被らない中でしっくりくるのが旦那様だったでございます!」

「自分と被るのはいいんすか!?」

「ジェシカなら構いませんよ、ユーナ、良く出来ました」


 リアナのジェシカへの当たりは未だに強い。


「理不尽っす! 自分後輩出来ると思ったっす! てか旦那様マジで生き物作るんすね!! 半端ねえっす!」

「ホムンクルスは厳密には生き物じゃねえけどな」


 魔力で動く自立型の機械みたいなものだ。まあ人間として扱ってるけど。


「この間大量に作っただろ」

「あれは無表情に料理作るだけのお化けみたいなもんっしたから」

「あー、まあね」


 代表の1体を除いて、素材やら魔力やらを節約したから感情表現がほとんど出来ないまさに料理を作る人形だったからな。

 ちなみに超一流の錬金術師が作る一般的なホムンクルスがあれだ。オレの作成したホムンクルス達が高性能過ぎるだけである。


「まあ、色々作成する物が今後は増えてくるからな。オレの助手を頼むぞ、ユーナ」

「かしこまりでございますっ! 旦那様!」


 セーナとイリーナが拗ねてしまい、ちょっとだけ大変だったが、妹ではなく初めての弟という事でセーナは納得。

 イリーナも自分の後輩が出来たので受け入れてくれた。

 ジェシカだけが不満顔だったが、いい関係を築いて欲しいものである。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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