新たな領地と錬金術師①
軍議やらで忙しくなった殿下の謝罪を受けて、しばらくの間この駐屯地に滞在になった。
相変わらずイドはエルフの里を中心にお休み生活、リアナはその付き添い。
栞、エイミーは戦力に見られるのが面白くないので、工房の前でポーションなどの物販をしてもらっている。ジェシカは護衛兼店員で、イリーナは基本的にオレの護衛だ。
本来は皇都に行く予定だったのに何やってるんだろ。
「はあ、本当に何をやっているんだ……」
ため息をつくオレは6体目の料理用のホムンクルスを作成し終わった時だった。
今回は料理専門の為、オレの髪の毛と血液を利用。リアナに採血して貰った。
セーナやイリーナの様に戦闘に耐えうるような強力なホムンクルスを作る訳ではないので素材もそこまで豪華にはしていないし、魔力量も極端に使用していない。
まあ3体目を作った辺りでエイミーに怒られたが。
……指輪の機能でオレの状態を監視していたらしい、魔力を削りすぎだと泣きながら怒られた。
エイミーの死因が限界以上の魔力の行使だったから心配されるのも仕方ないと受け入れた。
そしてエイミーが泣きながら怒ったので、栞とイド、ホムンクルス達にジェシカからも総攻撃を受ける羽目に。
うん、みんなに心配かけちゃダメだね。女性を怒らせてはいけない。
でも女性型と違い、精液や唾液も使えるから効率良く作れるんだもん。
ほら、女性型を作るのに女性のそういうの、提供してって言っても殴られるだけじゃん?
男性型のドッペルゲンガーが5体、モノづくり特化のオレの劣化コピーのホムンクルス達は、エイミーの料理関係の知識と、セーナの料理の技術を叩き込まれている所だ。
2体程減ったのは許して欲しい。だって元々のドッペルゲンガーを躯化するときに暴れたんだもん。
ディグが間違えて始末しちゃったんだ。
あ、もうディグもディープ様も帰りました。
ディープ様、現世にいるのに時間制限があったそうです。しかも相当魔力的なもの使うそうで、しばらく来れないとの事。万歳。
最後のこいつは調理器具の作成方法や調味料の調合方法、それと酒や飲み物を生産できるように仕込む予定。
他の手抜きの料理作る人形と違って、こいつだけはきちんと作った。ホムンクルス達のリーダー的存在だ。
名前は無い。勝手に向こうでつけて貰うことにする。
「さて、残りはどうするかねぇ」
残りのドッペルゲンガーは2体。1体は女性型、もう1体は性別的な物が無い。なんだこれ?
女性型はオレの血と髪の毛では親和性に乏しいので、料理を教え込むのは適していないから使っていない。もう1体もちょっと怖いからまだだ。
セーナも料理に適している訳ではなかったが、栞の血のおかげで器用だからか覚える事が出来たのだ。まあ一般的な家庭料理、繰り返しやらせればどうしよもないタイプの人間以外出来るようになるものだし、リアナも気持ち程度で出来るようになった。
オレの仲間が増えたので、リアナとセーナに負担が増えているのが最近気になっていたから、従者を増やすのはちょうどいいかもしれない。
特にリアナは、極力イドと一緒に過ごして欲しい。
イドは、半分はこちらの工房で、もう半分はエルフの里での生活をしている。
ぶっちゃけエルフの里での生活が心配なのだ。なんか狩りとか行ってるらしいし。
この間みたいにオレ達がそれぞれ別行動をした時に、リアナの手が特に回らなくなるのだ。
「工房で物を作ったり、オレのサポートが出来る従者を作るか」
ここのところポーションを大量に消費する機会が増えたし、石化解除薬の作成なんかもしたので、一度に量を作成する機会が増えた。
それに今後、王都では魔導炉の作成も控えている。
オレ一人では効率が悪いと思っていたので丁度いいかもしれない。
それと、回復魔法が使える従者も欲しい。
リアナしか現在回復魔法や補助魔法が使える従者はいないから、今後栞やエイミーが怪我をした時に、ポーション頼りになってしまう。
ポーションは液体だ。どうしても摂取出来る量に限りがあるのだ。
マナポーションやエリクサーも同様だ。
幸い、白部の血液と髪の毛はまだ1回分だけストックがある。
リアナを作った時は、回復要員が白部だけだったのと、ビーストマスターの篠塚が戦線から外れたのが原因でその2つを掛け合わせた。
セーナは栞のような罠の解除が出来るようにするのと、ダンジョンに潜る為、自衛も出来るように明穂の血も。
それぞれクラスメートがバラバラで行動した時に、サポート出来るように作成したからこそ2つの能力を込めたのだ。
そしてイリーナ、単純に攻撃特化の仲間が必要だったから。
色々と言い訳を並べていたが、単純明快。
この中性型の謎のドッペルゲンガーつかいてえええええええ!!
ぜえぜえ。
なのである。
「よし、オレの血と白部の血を使おう」
勿論精液も。
あ、無傷のミスリルゴーレムの魔核がもうないや。ジジイ持ってねえかな。
「よーっす」
「おお、久しぶりに顔を見せたのぅ」
旧港街で、街の復興のサポートをしているオレの師匠『ゲオルグ=アリドニア』のところに足を運んだ。
従者としてイリーナとジェシカがオレについて来ている。
「お前な、いくらなんでも放置が酷いだろ……」
「おう、殿下もおひさ」
オレの顔を見て疲れたような声を出すのはシャクティール=ダランベール王子。
オレが渡ってきた大陸にある『ダランベール王国』の第二王子だ。
「どうした道長よ。お主から顔を出すということは厄介ごとかの?」
「こっちの様子が気になってたってのもあるけど、ジジイに用があったんだ」
「まて、その前に俺の話がある」
そう言ってシャク殿下が手をあげると、殿下の従者が走っていき、何かを持って戻ってきた。
「? なにこれ?」
「税だ」
「え? 特に取り決めてないよな?」
「取り決めてなくてもだ! 王族の俺がお前に借りを作る訳にはいかんだろ! ここを拠点に出来た褒美も含めて入れてある」
「魔法の袋じゃん」
「金が足りないんだよ! 宝石とか! この辺で獲れた素材とか! 海産物とか! お前が喜びそうなモンを適当にぶちこんであるから受け取れ」
「お、マジで? ありがとう」
海産物は嬉しい。
「出来れば早く決めてくれ……頼むから」
「お、おお。すまんな」
オレは頭を掻く。
「どなたか代行の方を任命されれば良いのではないでしょうか」
ジジイの横に控えていたフィーナだ。
「小さな港町とはいえ、ここは立派にライトロード……様の領土です。ダランベールの者だけでなく、シルドニアの人間も多く出入りをするようになっております。中立的な立場で物の判断が出来る代表がそろそろ必要になってくるころだと思います」
「え? それ難しくない?」
「それぞれの国の代表者同士での話し合いも進んでおりますが、どうしても細かい部分が行き渡りません。本来であればライトロード様が頂点に立っていただければ一番なのですが」
「オレは無理だよ。領主なんて出来ないもの」
「町長レベルでいいのですが……」
「それこそ無理。ずっとここにはいられない。元々自分の拠点の為に貰った場所だし、殿下には自由に使っていいって言ったから殿下がやればいいじゃん?」
「その考えもあったが、そうなるとシルドニア側にこちらに害意が無い事を示さねばならん。それにはどうすればいいか理解出来てるか?」
「え? なんか必要なの?」
オレの質問に殿下とジジイ、フィーナが同時にため息をつく。
「私がダランベール王国の王族から出奔し、更に向こうの姫君を娶る必要が出て来る……」
「ええ、そんなに?」
「そんなにだ。この地はダランベールではないのにダランベールの王族が統治するとなるなら。そこまでやっても結局は相手に警戒されるんだぞ?」
「じゃあ向こうのお姫様も……」
「こちらの監視として、そしてこちらとしては向こうの人質としてだな。エッセーナ姫を立てるにしても同様だ」
お国同士の考えって難しい。
「ヘイルダムみたいに自由都市を名乗るか?」
「ヘイルダム?」
「この大陸で、シルドニアに属していない独立国みたいなのがあるんだ」
「ああ、確か迷宮を基盤にして国の統治を受けない街があると聞いたな……だが結局のところ、統治者は必要だぞ」
そこが問題だ。
「それにこの土地はまだシルドニアの物だ。お前がここの領主から譲りうけたとしても、あくまでもシルドニアの国家の一部、代官的な立ち位置でお前が管理しているに過ぎない」
「そうだっけか」
「そうなんだ。だから独立するとなると、最悪戦争になる。今でさえ向こうの騎士達はかなりこちらに警戒心を持たれているのだからな」
そういってシャク殿下が視線を向ける方に、シルドニアの騎士達がいる。
例のお姫様も、あの先の館にいるらしい。
「いつの間にあんな建物が」
「街も様変わりしているだろう? 防壁の修繕を優先しているが、向こうの職人達も多くこの土地に足を運んでいる。諍いの種になるからこちらで許可を出したが」
「ああ、問題ないよ。そうだなぁ……」
どっかにいい人材いないだろうか。
ふと、ジジイに視線を向ける。
「ジジイ」
「いやじゃ」
「早いよ……」
「ワシに押し付ける気じゃろ? 無理じゃぞ。一度失敗しとるし」
「失敗って……」
「ゲオルグ殿も立場的には変わらん。俺と行動を共にしているから、向こうに顔が売れている」
シャク殿下の側近ともなると、流石に問題か。
「フィーナ」
「私は陛下よりゲオルグ様のお付きを命じられているのですよ?」
「くそ」
フィーナは男爵令嬢だ。領地経営の知識はあるはずなのにっ!
「確かに彼女であれば、上手く話をまとめてくれるだろうが……」
「たとえ殿下でも、陛下からのご命令を覆す事は出来ませんわ。非常に残念なお話ですが」
この人、ジジイの事基本的に嫌いだもんね。
「良し、陛下の許可を貰おう」
「なぬ?」
「そんなこと……ですが、その。光栄な事かと思いますが……」
フィーナさん嬉しそうね。それは領地の統治が嬉しいの? それともジジイから離れられて嬉しいの?
「ま、待つのじゃ! フィーナはワシの付き人じゃが同時に弟子でもあるぞ! こやつがいなくなったら誰がワシの身の回りの世話や雑用をするのじゃ!?」
「いい歳なんだから自分でやれよ。それにフィーナの人となりなら知っている。オレが信頼出来て、かつダランベールとシルドニアの橋渡しができる人材となると彼女以外……彼女以外……もう一人いたな……」
自分の正義感で身内を裏切って国を出た人間が。
その上で自分の立場を鑑みて、アラドバル殿下の扱いを知っている男。
「なぬ?」
「ダランベールの代表としてフィーナを、シルドニアの代表としてもう一人それぞれにこの街に置く。その上で互いのメリット、デメリットを本気で真面目に話し合い街を経営して欲しい」
「それでは街を二分してしまうのでは?」
「まあ最悪、そうなったらそうなったで、って感じかな。でもフィーナがいれば戦争は回避できるんじゃねえ?」
「私にも出来る事と出来ない事が御座いますが……」
「発展途上の領地だから難しいと思う。でも適任はお前だけだろ。それに向こうにも代表者を置く、まあそっちが了承するまでは保留だがな」
「……ちなみにその人物とは?」
「自由都市ヘイルダムの4人の代表者の一人、元シルドニア皇国貴族の『ハインリッヒ』て人だ」
国を出奔して数年で守人ギルドのトップに立てた男だ。部下の制御に失敗していたけど、同じ失敗をしないタイプに見えるし。




