アンデッドと錬金術師⑥
「大物は片付いたな」
「小物もかなり片付けてしまったみたいですけどね……」
倒した相手はアンデッドだ。放置しておくのは不味いが、地平線の先にはアンデッドのお代わりが見えている。
「一度戻る事にしましょう。エイミー様の言う通り、あの調子では無限にアンデッドが湧き出てきていそうです」
こちらの世界にマザースポーンが現れても、恐らくここまでアンデッドを生み出すには瘴気が持たないだろう。
瘴気が潤沢な冥界側にいるだろうな。
「もうちっとやりたいの。行って来ても良いかの?」
「帰り道分かります?」
「む、むう? それは難題だの……しかしアンデッド共の足跡を手繰ればいけるか?」
ケンブリッジさんはまだ戦い足りないらしい。
「であれば、お爺様、俺も同行いたしましょう。ライトロード殿、すまぬが部下達を頼めるか?」
殿下の護衛の騎士達、流石に腕利きが揃っていたからか負傷者はまさかのゼロだ。
しかし終わりの見えない大量なアンデッドとの戦いで疲弊している。
今は状況確認のために距離を取ったが、かなりの数のアンデッドが未だにこちらに向かっている状況だ。
「戦術級の魔導士が必要ですな」
「というか殿下、勝手はいけません。一度戻って指揮を執って頂きたいです」
「大将が勝手に動くんじゃありません」
「状況をしっかり見極めて下さい」
「そもそも殿下が最前線なんてありえませんわ」
最後のそれ、ここに来る前に言ってくれないですかね? ルーテシアさん。
「初代様の御父上、ケンブリッジ様。どうか一度、武器を収めて頂けないでしょうか。ケンブリッジ様が前に出られるとなると、殿下も供をせざるを得ないのです」
「ああ、そういえば儂、王様の父親なんだの」
そうです。突然で申し訳ないんですが、あなたすごい立場なんですよ。
「まあシールはシール、儂は儂じゃ。儂はあやつと違い虫を好んで食べたりしないしの」
「ほんと変わり者だよなぁ」
おかげでシルドニアって国が成り立ったけど。
「まあ戦の指揮を執るのも将としての強さじゃな。良かろう、一度戻るかの」
その言葉に、明らかにホッとする一同。
うん、オレもずっとだっちょんに乗ってて疲れたし戻りたい。
他の騎士連中と違ってオレは鍛えてないんだ。
「連中を連れて戻るべきでしょうね」
「我らの後を勝手に追ってくれるでしょうが、どのくらいの範囲で来てくれるのでしょうか」
「獣型などの足の速いタイプのアンデッドに注意が必要ですわ。殿は是非わたくしが」
「ルーテシアには荷が重かろうて」
「儂が共に付けば問題ないんじゃの」
「し、神兵様にそのような危険な任務をお任せするわけには!」
「そうです、お爺様」
「危険なぞないぞい。ほれ、ライトロード殿に借りた剣がすごいしの。儂、いま新しい戦い方に目覚めておるところじゃ」
「それはそうかもしれませんが……」
「オレも反対、ケンブリッジさん。殿の意味を忘れて突撃していくと思うし」
エルフの戦いへの執着を舐めてはいけない。
「むぐ、痛いところを」
「自覚あったんじゃないか……」
こいつ確信犯じゃねえか。『ここはオレに任せて先に行け!』っていうのは決死の覚悟でやるものであって、自分が戦いたいからやる事ではない。
「こちらに誘引しつつ戻ります。最後尾はルーテシアとザンネック。足の速い獣型のアンデッドに注意を」
「畏まりました」
「ジェシカ、お前もいけ。だっちょん貸してあげるから」
「了解っす! イリーナちゃん、旦那様をお願いするっす!」
「ああ、主はイリーナが守る」
殿には足止め出来る能力が必要だ、しかしあの2人では攻撃力が足りず、一部のアンデッドの足を止められない危険性がある。
この中でケンブリッジさん、イリーナに次いで攻撃力の高いジェシカを置いておくのが適任だろう。
だっちょんなら馬より早いし、ジェシカの思うままに動けるからね。
その分オレの馬がなくなるからイリーナと相乗り、かと思ったらイリーナは走ってオレに追走するらしい。
さすがはイリーナ。
「ジェシカ殿もすごかったが、イリーナ殿もかなりの実力だな」
「最もアンデッドを倒したのは彼女だろう」
「さっきまで小さくてかわいかったのに」
「あんなバカでかい剣を平気な顔で振り回してるからな」
「何でメイド服のまま来てるんだ?」
うっさい、体に合わせて大きさの変える服が作るの大変なんだよ。それにあのメイド服は堅いし耐性も多いからいいんだ。
「だ、旦那様、すまないっす」
「どうした?」
「なんかズボン、ないっすかね?」
そう言えば君、ミニスカートだったね。今度リアナにスパッツ縫って貰おうね。
無事に駐屯地に帰還したときに、声援を受けながらの帰還となった。
なんだかんだ言って50人くらい騎士の人いたからね。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お待ちしておりました」
「セーナ? 一人か」
「はい。エイミー様はまだお休み中です」
「そういえばダウンしてたな。栞は?」
「それと、その、ドッペルゲンガーを届けに先ほどの女神様がいらして……シオリが歓待をされてます」
「マジか! 早いな」
「生きたままで困っております」
「おおいっ!?」
阿呆か!? 魔物をそのまま連れてきてやがるって!
「何でも倒しても消えるとの事で、生け捕りにしてきたようです」
「そうだけど! そうですけど! 考えてくれよな!」
冥界にはオレより頭いいやついくらでもいるだろ!!
「10体程……」
「多いわ!!」
ツッコミが追い付かねぇ!!
釣り上げられたマグロな感じの黒い影なドッペルゲンガーを御想像ください。




