アンデッドと錬金術師④
アンデッドの群れを相手にすることになったのは、面倒だ。
そんな事を思いながらも、移動である。
意外と大所帯となったメンバーで馬やらだっちょんを走らせる。
アラドバル殿下とケンブリッジさんを筆頭に、ザンネックさんとルーテシアさんを含める護衛の騎士が5名。
そしてオレ、イリーナ、ジェシカだ。
オレはだっちょんに乗り、ジェシカが錬金馬に乗り、イリーナが相乗りしている。
「見えるな」
「そうっすね。あれだけデカイと目立つっす」
特に巨人のアンデッド。とても大きい。
あれ、誰が相手するんだろ。
「人がいない場所で幸いだったな」
「我々が近くにいたのも良かった」
確かに。人里から離れていてかつ、騎士団が近くにいた状況というのはこの国の人間にとっては幸運だったといえる。
「しかし数が多い。大地の浄化が今後の課題になるな」
「全くだ。太陽神教の神官様に聖水を大量に作成して貰わねばならんな」
「ここ以外でもアンデッドの大量発生が起きているらしく、応援要請も出てるらしい、どうなっているんだ?」
すいません、馬鹿な骨とその愉快な仲間達のせいです。
アンデッドがこちらの気配を察知したようで、何体かのスケルトンがこちらに足を向け始める。
ここから近づけば近づく程、連中はこちらに向かって来るはずだ。
「雑魚は任せるぞ」
「「「 はっ! 」」」
ケンブリッジさんがそう言うと、真っ先に馬を走らせつつ剣を抜く。
あの剣、以前イドが使っていたのと同じエルフの剣だな。
魔力を走らせているのが良く分かる。
「風斬波」
静かに力ある言葉を放ち、同時に剣を振るう。
ケンブリッジさんの前を塞ぐように歩いていたアンデッド達が風の斬撃によりピンボールの様にバラバラになりながら吹き飛んでいく。
「道を開けたぞ! ゆけ!」
「はっ!」
その先にいる、3メートルほどの大きさの深淵の騎士に馬を走らせ剣を振るうのはアラドバル殿下の仕事である。
「右! デュラハン!」
「自分が行くっす! イリーナちゃん!」
「はいです!」
イリーナは馬を飛び降りてオレの横を走る。
「武装展開!! せええい!」
ジェシカは叫び声と共に武装を変更。
栞の趣味を取り入れて、新しく作られた戦乙女装備である。
比較的しっかりとした、銀色に輝く金属製の脚甲と小手。そして胸当て。
肩当てなどはなく、お腹と共に露出している部分が非常に目立つ一品。
そしてメインの武装、女性が持つには巨大すぎるハルバードだ。
「だああああ!」
首を持たぬアンデッド、デュラハンが小気味よくハルバードにより分断される。
「うしっ! 絶好調っす! でも人前でこの恰好は恥ずかしいっす!」
そのままの勢いでハルバードを振り回しながら、ジェシカに近づいてきたスケルトンを更に粉々にする。
「修行の成果が出てるな」
「イド様と栞様のおかげっす」
オレが自由都市ヘイルダムで魔導炉の製作指導をしている間に、イドと栞に連れられて何度もダンジョンアタックを繰り返したジェシカ。
その戦いの中、騎士として指導されていた剣を主に使っていたジェシカだが、あまりそちらの才能はなかったようだ。
イドに指摘を受けたジェシカは、あっさりと剣を諦めて次の武器を模索。
その中で特に適正が高かったのが槍であった。
「それと旦那様が作ってくれたこの武具のおかげっす!」
身体能力の強化を行い、高速移動で戦うイドと栞と共に戦うには、ジェシカの力は不足していた。
エルフであるイドと、異世界から魔王討伐の任を得て女神から力を授けられた栞と足並みを揃えられないのは仕方のない事だ。
しかし、結構本気で凹んで相談してきたので、こちらもしっかりと相談に乗ってやる事に。
スピードではどれだけ優秀な装備を用意しても二人には追い付けない。二人ともオレの用意した装備を付けているのだから。
色々悩んだ結果、単純に火力を上げる事にしたのである。
イドも栞も、一般的な冒険者と比較してもその攻撃力は圧倒的に強い。しかし、高速戦闘を中心とした戦いをする以上、どうしても攻撃は軽くなる。
そこで致命傷を与える事の出来なかった相手の為の、トドメ要員としてジェシカはハルバードを振るう事に決めた。
立場的に言えばイリーナに近い戦い方をするようになったのだ。
「どんどん来るっすよ! 自分も日々進化してるっす!」
ジェシカが声を上げると共に、多くのスケルトン達がジェシカに顔を向ける。
「そ、そんなに来なくてもいいっす!?」
しかし、数が多すぎてちょっと腰が引けるジェシカであった。
うん、頑張れ。
「おおおおおおおおお!」
雄叫びをあげ、馬上から飛び上がり、剣を上段から振り下ろすアラドバル殿下。
『コロス、コロス、コロス』
その殿下からの剣を、大きな盾で防ぐ深淵の騎士。
深淵の騎士は、その名の通り漆黒の騎士の姿をしている。
兜飾りも含めると、3メートルを超える全長、全身鎧に覆われており、巨大な盾と剣を装備した漆黒の騎士だ。
「その盾もアンデッドからすれば体の一部! 切り裂かんかい!」
攻撃を防がれた殿下に、ケンブリッジさんから叱責が飛ぶ。
『コロス! コロス!』
深淵の騎士が呪いの声を叫びながらアラドバル殿下に剣を振り下ろした!
「ちっ!」
殿下はそれを回避。
「その剣もアンデッドの一部だから切れるぞい!」
「なんと無茶苦茶な!」
剣を回避しつつも、足を切りつけるアラドバル殿下。
「足を浅く斬った程度じゃ動きは遅くならんぞい! どうせ斬るならぶった斬らんかい! 攻撃がぬるいぞい!」
「す、すいません!」
い、一回攻撃するたびに怒られてる。
「ほれ! 魔力の活性化を体だけにとどめるでないぞ! 武器にもまとわせよ! エルフの戦い方の基本じゃぞい」
「はいっ! はあああ!」
しかしアラドバル殿下の剣は普通の鋼鉄製の剣だ。
もちろん皇室の方、ただの鋼鉄の剣だがかなりの業物をお持ちだ。たぶん同じ鋼鉄でオレが本気で作ろうとしても、10本に1本くらいしかあのレベルにはいかないだろう。
「ああ、武器が悪いんだぞい。ほれ、これを使うんだの」
ケンブリッジさんが手に持っていた剣を殿下に投げる。
ってあぶねえ! 殿下の顔を横切っていった!
「これ! きちんと受け取らんかい!」
「申し訳ありません!」
や、突然剣を投げつけられたら普通避けるよ……。
「っ! 魔剣ですか!? さぞ強力な……」
「里の数打ちじゃ、名などないぞい。やれやれ、武器の本質も分からぬか。そこも教えねばならんなぁ」
何とか深淵の騎士から隙を伺い、ケンブリッジさんの剣を拾う殿下。
そんな殿下は魔鋼鉄製の剣に驚き目を見張るが、ケンブリッジさんが呆れ気味に首を振る。
「ケンブリッジさん、こちらをどうぞ」
エルフとはいえ、流石に戦場で無手で放置するのは忍びない。
ケンブリッジさんにいくつか剣を渡して選んでもらう。
これはイドの剣を作成した時の、試し打ちした品だ。いきなりハクオウの牙を使って失敗したら嫌だったから、バランスを探る為に他の素材で作った品である。
「こ、これは! 素晴らしい、これを借りようかの」
もちろん、これはイドの為に作られた品である。
それぞれが、ただの数打ちとは一味も二味も違う品だ。
こんな物を用意させられたエルフの行動理念は一つ。
「ち、ちと試してきていいかの?」
「ええ、殿下はオレが見ておきますから。あっちの巨大なムキムキとか、あっちの背の高い魔術師とかで試してみてください。多分ヒュージスケルトンが一番硬いでしょうから、あいつは最後がいいんじゃないですかね?」
ヒュージスケルトンは足が遅いから一番遠くにいるし。
「うむ、行って来るのだぞい!」
これで殿下をケンブリッジさんから離す事が出来た。
嬉々としていなくなったケンブリッジさんがある程度離れた所で殿下に声を掛ける。
「殿下! 手を貸すぞ!」
「ありがとうございます! ですが、もう少し自分で頑張ってみます!」
「無理だ! 他の騎士達が死ぬぞ!!」
その言葉に殿下の肩がビクりと動く。
あ、戦闘音が激しくなってきた。
ついでに高笑いも。ケンブリッジさん、大分エンジョイしているようだ。




