アンデッドと錬金術師③
「ふうむ、流石は神兵様から救世主と崇められるライトロード様。浄化もこなせる仲間までいるとは……」
「人の浄化がどうしても優先ですから、これくらいならばお手伝いいたしますよ。あと救世主はやめて下さい」
誰に聞いたんだ。
深淵の騎士や他の上級アンデッドによって攻撃を受けると、傷と一緒に体内に瘴気が残ってしまう。
それをそのままにしておくと、心が病んでしまう。長期間そのままにしておくと回復させられなくなる事もあるらしいので、すぐに対応すべきだ。
リアナ、何度も行って戻ってさせてごめん。
「大地の浄化は我らにお任せを。聖女エイミー様のお力や救世主様の従者殿を長時間拘束する訳にもいきませんから」
「ん? 聖女?」
「はっはっはっはっ、そうでしたな。お隠しなされていらっしゃるんでしたな」
「極秘事項ですわよ?」
エイミーがジョブチェンジしてたでござる。
「えっと?」
「あれだけのアンデッドを調伏させられるお力、確かに見届けさせて頂きました。そして今もなお続く奇跡、まさに聖女のお力であると」
「そして我らをも遥かに凌ぐアンデッドの知識、流石と言わざるを得ませんわ」
ああ、うん。エイミーはアンデッドと常に戦い続けてた人達と一緒に1年以上いたもんね。ディープ様の眷属として何度か出撃したって言ってたし、そりゃ詳しくなるわな。
「……ここだけの話にして下さいね」
面倒だから受け入れておこう。オレのエイミーは確かに聖女みたいなものだ。
「それで、そのエイミー様が言うには『マザースポーン』なるアンデッドを生む魔物がいるであろうと。話に聞くと、上級アンデッドと違い、アンデッドを生み出すことに特化しているアンデッドとか」
「そういえばそんな魔物の話聞いたことあるなぁ」
上位のアンデッドは体から湧き出る瘴気により、自然と取り巻きとするアンデッドを数体生み出すが、マザースポーンは周りに漂う瘴気を食らい、アンデッドを数百、数千単位で生み出すっていうアンデッドだな。
冥界にいた時に、色々な素材を押し付けられた時に混ざってたな。
あんときは食い物を作成してたから、持って来た元陛下がボコボコのボコにされてたけど。
まあ厨房にアンデッドなんか持ってくる人が悪いな。オレが調理すれば食えるとでも思ったのか?
「それで、ライトロード様。お願いしたい事があるのですが」
「なんでしょうか?」
手伝えって?
「アラドバル殿下を呼び戻したいのです。再度あの地へわたくしを連れていって欲しいのです。流石にここまでの規模の戦闘であれば、殿下に指揮をとっていかねばなりません」
「ああ、確かに大将が必要だよね」
「それより、この場に殿下がいないと……後で他の貴族に何を言われるか分かりませんから」
ああ、そういえば皇室の人だもんね。自分の命惜しさにって非難されるだろう。
「そうですね、連れ戻しますか」
そもそもオレの都合でエルフの里に行ったのに、なんでオレより殿下のが向こうに長居してんの? って話だよね。
ルーテシアさんや、殿下からの手紙に目を通した上の人達はいいかもだけど、ここにいるその他大勢の騎士団の皆さんは何も知らないんだろうし。
「じゃあ連れ戻してきますね。しばらくお待ちを」
「ご同行は……」
「呼んでくるだけですから、いらないですよ」
エイミーが酒に酔って寝てるからね。そういう時は部外者をあんまり入れたくない。
「待たせた」
「お、おかえりなさいませ! アラドバル殿下!」
「ああ、皆の者、不在の間良くやってくれた」
エイミーの魔法の範囲内のアンデッドがあらかた片付き、穴に入れて野焼きが終わり、次のアンデッドの群れに備えていた騎士団たちの前に、新たな姿を手に入れたアラドバル殿下が戻って来た。
新たな姿、と言っても大きく変わったのは耳の長さくらいだ。長髪でやや隠れていたハーフエルフの耳だったそれが、しっかりと長くなっている。
世界樹の傍で生活してるだけでこんな変化が起きるのか。
「しかし、アンデッドの群れはどこだぞい?」
そして後ろに控える、エルフのケンブリッジさん。
うん、おじいちゃん来ちゃった。
戦いの気配を感じた他のエルフ達も大量に寄って来たが、頑張ってご遠慮願った。
エルフを野に簡単に放ってはいけない。絶対にダメ。
「ケンブリッジさん、まだですよ」
「そうであるかね。早くこんかのぅ。孫の修行の成果が楽しみなんだぞい。上位アンデッドもおったのだろう?」
「デュラハンと深淵の騎士がいたらしいですよ」
「そんなレベルではちいと腕試しには弱いぞい」
「あんた、孫にどのレベルを求めてるんだよ……」
「エルフの中での、最低限のレベルしか求めてらんぞい」
基準エルフじゃしょうがねえなぁ。
「状況は聞いておる、話では次のアンデッドが向かってきているのであろう?」
「ええ、聖女様の奇跡の陣まで誘導した上で迎撃を行う予定です」
「よし、足の速い部隊を構成せよ。アンデッドをこちらに、確実に誘導するのだ」
「! 被害が出るかもしれませんぞ?」
「我々以外にも旅人や狩人が外に出ている事を考慮しているか? アンデッドは魔物にも襲い掛かるぞ? 場合によっては近隣の小さな村にアンデッドが飛び火する! 確実にこの領域に誘導するんだ」
「はっ!」
「ふうむ。一角の将の器はあるようだの。だが、ちとつまらぬ」
「は? おじいさま?」
ケンブリッジさんが前に出てアラドバル殿下に並び顔を向ける。
「アラドよ、それではつまらぬぞ」
「はあ……」
「せっかくの修行の機会だの。上位アンデッドも確認されておるのであろう?」
恐らく斥候役であろう、軽装備の騎士の一人にケンブリッジさんが問いかける。
「は、はい。深淵の騎士が1体、ヒュージスケルトン、髑髏の魔術師が1体。それと見た事のない巨大な筋肉質の、恐らくジャイアント系が元のアンデッドが1体確認出来ております」
「なるほどの、その規模ならばデュラハンやゲイルワーウルフなどもおるかもしれんな」
デュラハンやゲイルワーウルフ、上位のアンデッドだが大きさは前者の3体と違い普通の人間や獣と同じサイズのアンデッドだ。
「雑魚を誘引するのは構わぬ。いちいち相手をするのも疲れるだけだからの、そういうのはやんちゃな若者の仕事じゃぞい。上位の者は先に我等で倒すのじゃ」
「お、おじいさま? 我等というのは……」
あ、嫌な予感がする。
「儂とアラド、イドリアルの婿殿だぞい」
「オ、オレもっすかぁ」
「む? お主イドリアルの婿となったのだろう? 救世主と呼ばれる程の戦勲、それと里の者達の石化の解除は感謝しとるがの、実力は一部の者しか知らぬでな。出稼ぎにまで選ばれるイドリアルの認めたお主の力、儂にも見せるのだの」
「ええ……」
「お主がナメられとるから、里の女子共にいいようにされるのだの。お主の力を儂に見せれば、儂からお主の強さを里の者に知らしめてやろうぞ。そうすれば少なくとも、己の未熟を知る者はお主に手を出そうとはしなくなるぞい」
「む、なるほど」
確かに、知らんエルフの女性をこれ以上あてがわれるのは……せめて意識のある時に、違う。そうじゃない。
そうだが違う。
ダメだ、ここんとこ頭の中がドピンク色だ、修正せねば。
「深淵の騎士はアラド、髑髏の魔術師はライトロード殿が相手をするのぞい。アラド、儂の修行を受けたお主なら深淵の騎士の1体や2体倒せるはずぞい」
「かしこまりました!」
「決まりだの。せっかくの戦じゃ、楽しんでいこうぞい! ヒュージスケルトンは早い者勝ちだの!」
本当に嬉しそうにケンブリッジさんが目を細める。
アンデッドの群れか、いやだなぁ。てかこの群れの原因、ディープ様のとこの眷属達のボイコットだよな? 世界中でこんなこと起きてるんじゃねえの?
世界中で起きてますねー!




